10 / 26
侍女 襲撃
しおりを挟む
あたしは隅っこに残っていたあたしの荷物に気が付いた。
下着と着替えが二三着。それと小銭。
あたしの待遇は悪くないが、その分給金が安い。
多分お嬢様と一緒に学問や習い事をしている分天引きされていると思う。
あちらも商売だ。
「お嬢様、これに着替えてください」
一番いい余所行きの、休みの日にしか着ない黄緑の襦裙を差し出した。
「その恰好では目立ちすぎます、それに着崩れてしまってみっともないでしょう」
実際輿から投げ出されたときに相当着崩れている。それに仰々しい花嫁衣装など着ていては身動きが取れない。
「婚礼は行われないのだから」
再びお嬢様がはらはらと涙をこぼされる。
まあ仕方がないと言えば仕方がない。お嬢様は唯々諾々と着替え始めた。
崩れてしまった髷を結いなおして郊外でまとめた。
そして、手の中の花嫁衣装をしばらく眺めた。
よく考えれば今手元にある金目のものはこれしかない。
「お嬢様、場合によってはこれを金に換える必要があると思われます」
できるだけ簡潔に説得することにした。
「いいですか、金目のものはみんな持っていかれたんです。旦那様に連絡をつけて迎えに来てもらうにしても何日かかるかわかりません、ですからそれまで生き延びなければならないんです」
この期に及んで現実を受け入れられないのか逡巡する様子が見える。しかし背に腹は代えられないのだ。
「いいですか、お嬢様、人間食べなければ死ぬんですよ」
しばらく悩んでいたようだけど、すぐにうなずいた。
「わかった」
さすがに理解してくれたかと安心する。
「そうですよ、お嬢様、生きてこそです」
そう言って少しでも気が晴れるように笑って見せた。
やっと少し気が抜けたと思ったのに、何かが扉を破壊しながらやってきた。
一目見ただけでわかる。その筋の人だ。人生の裏街道をまっしぐらの犯罪者予備軍なのかすでにそうなっているのか。
「何なの?」
振り返って背後を見たお嬢様も硬直している。
仕方がない、あたしはお嬢様を背後に回す。
「佶家の嫁だな」
「佶家には借りがあってな、お嫁さんにちょっと払ってもらわんとな」
うん、これはあれだなこの機会にあの家にどんな恨みがあるかわからないけど、か弱いお嬢様にぶつけようというやつか、それとも売り飛ばしが目的か。
「まだ結婚してないわ、婚姻が成立していない以上佶家の負債なんかお嬢様が払ういわれはないのよ」
冷や汗をかきながらあたしは何とかこの場をごまかす方法を考えようとしていた。
「火事だ、逃げろ」
どこかでそんな声が聞こえる。一瞬視線がずれた。ままよとばかりにお嬢様を引っ張って一瞬視線がずれた。あたしはがむしゃらに走った。
そして火事は起きておらず、目の前に知らない少年がいた。
「こっちだ」
少年の手招くままにあたしたちは走り出した。
下着と着替えが二三着。それと小銭。
あたしの待遇は悪くないが、その分給金が安い。
多分お嬢様と一緒に学問や習い事をしている分天引きされていると思う。
あちらも商売だ。
「お嬢様、これに着替えてください」
一番いい余所行きの、休みの日にしか着ない黄緑の襦裙を差し出した。
「その恰好では目立ちすぎます、それに着崩れてしまってみっともないでしょう」
実際輿から投げ出されたときに相当着崩れている。それに仰々しい花嫁衣装など着ていては身動きが取れない。
「婚礼は行われないのだから」
再びお嬢様がはらはらと涙をこぼされる。
まあ仕方がないと言えば仕方がない。お嬢様は唯々諾々と着替え始めた。
崩れてしまった髷を結いなおして郊外でまとめた。
そして、手の中の花嫁衣装をしばらく眺めた。
よく考えれば今手元にある金目のものはこれしかない。
「お嬢様、場合によってはこれを金に換える必要があると思われます」
できるだけ簡潔に説得することにした。
「いいですか、金目のものはみんな持っていかれたんです。旦那様に連絡をつけて迎えに来てもらうにしても何日かかるかわかりません、ですからそれまで生き延びなければならないんです」
この期に及んで現実を受け入れられないのか逡巡する様子が見える。しかし背に腹は代えられないのだ。
「いいですか、お嬢様、人間食べなければ死ぬんですよ」
しばらく悩んでいたようだけど、すぐにうなずいた。
「わかった」
さすがに理解してくれたかと安心する。
「そうですよ、お嬢様、生きてこそです」
そう言って少しでも気が晴れるように笑って見せた。
やっと少し気が抜けたと思ったのに、何かが扉を破壊しながらやってきた。
一目見ただけでわかる。その筋の人だ。人生の裏街道をまっしぐらの犯罪者予備軍なのかすでにそうなっているのか。
「何なの?」
振り返って背後を見たお嬢様も硬直している。
仕方がない、あたしはお嬢様を背後に回す。
「佶家の嫁だな」
「佶家には借りがあってな、お嫁さんにちょっと払ってもらわんとな」
うん、これはあれだなこの機会にあの家にどんな恨みがあるかわからないけど、か弱いお嬢様にぶつけようというやつか、それとも売り飛ばしが目的か。
「まだ結婚してないわ、婚姻が成立していない以上佶家の負債なんかお嬢様が払ういわれはないのよ」
冷や汗をかきながらあたしは何とかこの場をごまかす方法を考えようとしていた。
「火事だ、逃げろ」
どこかでそんな声が聞こえる。一瞬視線がずれた。ままよとばかりにお嬢様を引っ張って一瞬視線がずれた。あたしはがむしゃらに走った。
そして火事は起きておらず、目の前に知らない少年がいた。
「こっちだ」
少年の手招くままにあたしたちは走り出した。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【完結】金の国 銀の国 蛙の国―ガマ王太子に嫁がされた三女は蓮の花に囲まれ愛する旦那様と幸せに暮らす。
remo
恋愛
かつて文明大国の異名をとったボッチャリ国は、今やすっかり衰退し、廃棄物の処理に困る極貧小国になり果てていた。
窮地に陥った王は3人の娘を嫁がせる代わりに援助してくれる国を募る。
それはそれは美しいと評判の皇女たちに各国王子たちから求婚が殺到し、
気高く美しい長女アマリリスは金の国へ、可憐でたおやかな次女アネモネは銀の国へ嫁ぐことになった。
しかし、働き者でたくましいが器量の悪い三女アヤメは貰い手がなく、唯一引き取りを承諾したのは、巨大なガマガエルの妖怪が統べるという辺境にある蛙国。
ばあや一人を付き人に、沼地ばかりのじめじめした蛙国を訪れたアヤメは、
おどろおどろしいガマ獣人たちと暮らすことになるが、肝心のガマ王太子は決してアヤメに真の姿を見せようとはしないのだった。
【完結】ありがとうございました。
異世界からの送り者
-*017*-
恋愛
異世界…それは文明が発達している世界から送られてきた。
美形でサラサラした髪に、ぱっちりとした目。
その人の名はアオイだった。
アオイは第一皇子、アルファスと仲が良かった。
私、エルファッタの婚約者だと言うのに。
私はアルファスに好かれるためになんでもやってきた。助けたりもした。
でも、アルファスはこちらを向いてくださらなかった。
そうして、たちまち好きの気持ちは消えていく。
ねぇ、寂しいんですわ。だから、誰か私を愛してくださる?
-----------
表紙:Trin Art
管理人さんといっしょ。
桜庭かなめ
恋愛
桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。
しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。
風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、
「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」
高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。
ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!
※特別編10が完結しました!(2024.6.21)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。
五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」
オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。
シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。
ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。
彼女には前世の記憶があった。
(どうなってるのよ?!)
ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。
(貧乏女王に転生するなんて、、、。)
婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。
(ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。)
幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。
最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。
(もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
この度、青帝陛下の番になりまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる