8 / 26
侍女 略奪
しおりを挟む
まず、今はお嬢様の嫁入り道具を見張っているはずの番頭に話をつけなきゃ。とにかく嫁入りはなしになった。そのことを説明して。
「お嬢様、一度宿に戻りましょう」
あたしはお嬢様から手を放し立ち上がる。
「さあ」
お嬢様はひどい顔色だ。ろくに家の外も出たことのないお嬢様に役人の犯罪者を捕縛する姿は大分刺激が強かったはずだ。
よろよろとぎこちない立ち方だが何とか立ち上がる。崩れた髪を後ろにかき上げてやった。
「宿はどちらかしら」
そう言われてどのように歩いたか頭の中で反芻する。
そして何とかたどり着けそうだと判断した。
「多分大丈夫です、何となく覚えています」
そして歩き出したが、やはり足元がおぼつかない。そもそもお嬢様は家の中にこもりきりでろくに歩いたこともないのだ。
えぐえぐとしゃくりあげながら歩くお嬢様を支えて何とか記憶を頼りに宿にたどり着く。最初に歩いたよりだいぶ疲れた。
お嬢様はその場に立ち尽くし茫然としている。
それでも気力を振り絞ったのか何とか口を開いた。
「私の連れは?」
そう尋ねたが相手はきょとんとした顔でお嬢様を見返している。
あたしが間に入って詳しい話を聞くことにした。しかし宿の主である老夫婦は怪訝そうな顔であたしたちを見返すだけだ。
あたしは宿の中に飛び込みお嬢様の部屋に入った。
部屋はもぬけの殻だった。
「何もない?」
思わず声が大きくなった。
「いったいどうしたの?」
「誰も残っていません、婚礼が終わるまで待っているはずなのに、それに明日運び込む予定の嫁入り道具が見当たりません」
お嬢様があたしの肩越しに部屋を覗き込むそして何も残っていないのを確認して目をむいた。
あたしはお嬢様の横をすり抜けて宿の主のところに飛んで行った。
「何があったんですか」
「佶家のご夫婦がいらして、すべて運び出して他の方にも帰るように言って」
あたしはあの悪の強い老婆の息子とは思えないほど影の薄い佶家の名目上の主とその妻の顔を思い出していた。
とても柔和で人当たりの言い、だから旦那様も騙されたんだと思う。
「あの夫婦なんてことを」
すべて計算だったんだ。この嫁入りは最初から嫁入り道具を盗み出すために。おそらくあの家からも相当の財産を持ち逃げしていたんだろう。
あの夫婦だけは自分たちの足元に火がついていることに気が付いていた。
「あの二人とんでもないことをしでかしましたよ」
お嬢様はおそらく状況が分かっていない。
「わかりませんかお嬢様、あの二人は自分の母親と息子を見殺しにして、自分達だけ逃げたんです。お嬢様の財産を行きがけ駄賃に持ち逃げして」
そう、あのくそ婆の息子が真人間なわけがない。当然どんなに善良そうな顔をしていても極悪人に決まっている。
「見殺しって、あの方を」
まだ、理解できてないんだ。
悪人に騙されたってことを。
「お嬢様、一度宿に戻りましょう」
あたしはお嬢様から手を放し立ち上がる。
「さあ」
お嬢様はひどい顔色だ。ろくに家の外も出たことのないお嬢様に役人の犯罪者を捕縛する姿は大分刺激が強かったはずだ。
よろよろとぎこちない立ち方だが何とか立ち上がる。崩れた髪を後ろにかき上げてやった。
「宿はどちらかしら」
そう言われてどのように歩いたか頭の中で反芻する。
そして何とかたどり着けそうだと判断した。
「多分大丈夫です、何となく覚えています」
そして歩き出したが、やはり足元がおぼつかない。そもそもお嬢様は家の中にこもりきりでろくに歩いたこともないのだ。
えぐえぐとしゃくりあげながら歩くお嬢様を支えて何とか記憶を頼りに宿にたどり着く。最初に歩いたよりだいぶ疲れた。
お嬢様はその場に立ち尽くし茫然としている。
それでも気力を振り絞ったのか何とか口を開いた。
「私の連れは?」
そう尋ねたが相手はきょとんとした顔でお嬢様を見返している。
あたしが間に入って詳しい話を聞くことにした。しかし宿の主である老夫婦は怪訝そうな顔であたしたちを見返すだけだ。
あたしは宿の中に飛び込みお嬢様の部屋に入った。
部屋はもぬけの殻だった。
「何もない?」
思わず声が大きくなった。
「いったいどうしたの?」
「誰も残っていません、婚礼が終わるまで待っているはずなのに、それに明日運び込む予定の嫁入り道具が見当たりません」
お嬢様があたしの肩越しに部屋を覗き込むそして何も残っていないのを確認して目をむいた。
あたしはお嬢様の横をすり抜けて宿の主のところに飛んで行った。
「何があったんですか」
「佶家のご夫婦がいらして、すべて運び出して他の方にも帰るように言って」
あたしはあの悪の強い老婆の息子とは思えないほど影の薄い佶家の名目上の主とその妻の顔を思い出していた。
とても柔和で人当たりの言い、だから旦那様も騙されたんだと思う。
「あの夫婦なんてことを」
すべて計算だったんだ。この嫁入りは最初から嫁入り道具を盗み出すために。おそらくあの家からも相当の財産を持ち逃げしていたんだろう。
あの夫婦だけは自分たちの足元に火がついていることに気が付いていた。
「あの二人とんでもないことをしでかしましたよ」
お嬢様はおそらく状況が分かっていない。
「わかりませんかお嬢様、あの二人は自分の母親と息子を見殺しにして、自分達だけ逃げたんです。お嬢様の財産を行きがけ駄賃に持ち逃げして」
そう、あのくそ婆の息子が真人間なわけがない。当然どんなに善良そうな顔をしていても極悪人に決まっている。
「見殺しって、あの方を」
まだ、理解できてないんだ。
悪人に騙されたってことを。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
私があなたを好きだったころ
豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる