陰と陽の物語

karon

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嘘つき

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 その子供はのべつまくべつ嘘をついていた。
 見れば当たり障りのない白いシャツに紺色のスカート。頭は肩まででぱっつんと切りそろえられていた。
 ぎょろぎょろとした丸い目はクルクル回る。
「そうだよ、お父さんは宇宙飛行士なの、お父さんが持ってきた流れ星のかけらがうちに置いてあるよ」
 ゆるんだ口から出る言葉。だが、実際に宇宙に出た宇宙飛行士がこんな小さな町にいたら知らない人間はいないだろう。
 子供の言うことは誰も本気にしない。どうせ嘘だ。
 子供の嘘はどんどんエスカレートしていく。
「天の川のほとりで彦星の牧場にアイスクリームを買いに行った」
「お母さんは空色のパラソルを開けば空が飛べるの」
「ライオンをたくさん培養したカプセルがあるのよ」
 どうせそんなばかばかしい嘘をつく子供はつまらない人生を送っている。そんなつまらない人生を否定したくて荒唐無稽な嘘をつき続けているんだろう。
 そんな悪趣味な思い付きで私は子供の後をつけた。
 すすけた、古いありふれた家に子供は帰っていく。
 やっぱりね、こんなつまらない家に住んでいるからあんなばかばかしい嘘をつくんだ。
「だあれ?」
 子供が振り返る。ぎょろぎょろした目は微動だにせずに私を見ていた。
「どうしてあんな噓をつくの」
 子供は嘘をつくときのテンションとは全く違う平坦な声音で呟く。
「だって本当のことを言っちゃいけないんだよ」
 その時家の中から何やら奇妙な音がした。何か重いものが叩きつけられるような、或いは湿ったものが叩き続けているような。
 何だろう、このにおい、生臭くてどこか甘い。
「だから、本当のことを言っちゃいけないの、でも本当のことを言わないって疲れちゃうの」
 ぐちゃぐちゃ。何か湿ったものをかき回す音がした。
 子供は無表情に私を見ていた。
「本当のことを知られたら」
 何か重いものが私の頭に当たった。そしてああ、真っ暗……。
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