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機関車
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ピューっと甲高い笛の根が聞こえた。
そして金属の軋る音、とてつもなく巨大なものが立てる振動は腹に直接響く。
巨大な金属の塊、そのてっぺんに煙突があり、煙ではなく湯気を吹いている。
ゴトンゴトンゴトン、巨大な金属の塊がゆっくりと前に進む。
その地響きがその場にいた全員の靴底に伝わった。
どんどん近づいてくる巨大な金属の塊。無機質な金属の塊が動く。
歓声が上がった。
その場にいた高貴なお方も、そうではない者達も全員が両手を振り上げてその金属の塊に向かって振っている。
皆がこの奇跡のような瞬間に笑う。
ただ一人を除いて。
ホイエル・スタッダータは茫然として金属の塊、蒸気機関車を見ていた。
まだ完成はしていないはずだと思っていた。
この発表会は不意打ちで行われたのだ。
胡散臭い鉄道事業など潰さなければならない。
だが、これからその仕事はとてつもない困難が立ちふさがることとなった。
蒸気機関車を見た老若男女は貴賤も問わず蒸気機関車に夢中になってしまったのだ。
この熱狂を抑えることなどできるわけがない。
舌打ちをしてその場を立ち去ろうとする。
「楽しんでいないのか?」
そう声をかけられる。ヤギのような顎髭が特徴だ、宮廷の次官を務めていた。名前はいったい何だったか、ホイエルはしばらく考える。
「驚いただけだ、もうしばらくかかると思っていたからな」
「あれほど妨害工作をしたのにねえ」
当てこすりにホイエルは思わず相手の顔を見る。
「彼らは証明した。これはこの国に必要な技術だ、国を思うなら、一切の妨害をやめよと上からの通達だ」
相手は重々しくそう宣言した。
「私に何をしろと?」
「人質の解放だ、国のためだ、国の方針に逆らい反逆者になりたいか?」
蒸気機関車の存在は竜騎士の不在を補うかもしれない。
ホイエルは虚ろな目で走り去って行く蒸気機関車を見送る。
思った以上にスピードが出ていた。
今日も料理に肉は使えなかった。
アンナは随分と乏しくなってしまった食材を物悲しい目で見ていた。
荷物の搬入が減って、いろいろ物資が不足している。今日も芋をゆでるだけで調理が完成してしまった。
油でもあったなら揚げ芋が作れるのだが。肉はすべて竜にやってしまうらしい。肉しか食べないとは燃費の悪い家畜だと思う。
「牛のほうがなんぼか役に立つんだけどねえ」
牛はいい、ミルクも出すし、荷物も運ぶ。
ずっと石造りの建物に閉じ込められ、周りは切り立った崖。
アンナは平地が恋しかった。
そして金属の軋る音、とてつもなく巨大なものが立てる振動は腹に直接響く。
巨大な金属の塊、そのてっぺんに煙突があり、煙ではなく湯気を吹いている。
ゴトンゴトンゴトン、巨大な金属の塊がゆっくりと前に進む。
その地響きがその場にいた全員の靴底に伝わった。
どんどん近づいてくる巨大な金属の塊。無機質な金属の塊が動く。
歓声が上がった。
その場にいた高貴なお方も、そうではない者達も全員が両手を振り上げてその金属の塊に向かって振っている。
皆がこの奇跡のような瞬間に笑う。
ただ一人を除いて。
ホイエル・スタッダータは茫然として金属の塊、蒸気機関車を見ていた。
まだ完成はしていないはずだと思っていた。
この発表会は不意打ちで行われたのだ。
胡散臭い鉄道事業など潰さなければならない。
だが、これからその仕事はとてつもない困難が立ちふさがることとなった。
蒸気機関車を見た老若男女は貴賤も問わず蒸気機関車に夢中になってしまったのだ。
この熱狂を抑えることなどできるわけがない。
舌打ちをしてその場を立ち去ろうとする。
「楽しんでいないのか?」
そう声をかけられる。ヤギのような顎髭が特徴だ、宮廷の次官を務めていた。名前はいったい何だったか、ホイエルはしばらく考える。
「驚いただけだ、もうしばらくかかると思っていたからな」
「あれほど妨害工作をしたのにねえ」
当てこすりにホイエルは思わず相手の顔を見る。
「彼らは証明した。これはこの国に必要な技術だ、国を思うなら、一切の妨害をやめよと上からの通達だ」
相手は重々しくそう宣言した。
「私に何をしろと?」
「人質の解放だ、国のためだ、国の方針に逆らい反逆者になりたいか?」
蒸気機関車の存在は竜騎士の不在を補うかもしれない。
ホイエルは虚ろな目で走り去って行く蒸気機関車を見送る。
思った以上にスピードが出ていた。
今日も料理に肉は使えなかった。
アンナは随分と乏しくなってしまった食材を物悲しい目で見ていた。
荷物の搬入が減って、いろいろ物資が不足している。今日も芋をゆでるだけで調理が完成してしまった。
油でもあったなら揚げ芋が作れるのだが。肉はすべて竜にやってしまうらしい。肉しか食べないとは燃費の悪い家畜だと思う。
「牛のほうがなんぼか役に立つんだけどねえ」
牛はいい、ミルクも出すし、荷物も運ぶ。
ずっと石造りの建物に閉じ込められ、周りは切り立った崖。
アンナは平地が恋しかった。
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