異世界に鉄道を引こう

karon

文字の大きさ
上 下
27 / 29

機関車

しおりを挟む
 ピューっと甲高い笛の根が聞こえた。
 そして金属の軋る音、とてつもなく巨大なものが立てる振動は腹に直接響く。
 巨大な金属の塊、そのてっぺんに煙突があり、煙ではなく湯気を吹いている。
 ゴトンゴトンゴトン、巨大な金属の塊がゆっくりと前に進む。
 その地響きがその場にいた全員の靴底に伝わった。
 どんどん近づいてくる巨大な金属の塊。無機質な金属の塊が動く。
 歓声が上がった。
 その場にいた高貴なお方も、そうではない者達も全員が両手を振り上げてその金属の塊に向かって振っている。
 皆がこの奇跡のような瞬間に笑う。
 ただ一人を除いて。
 ホイエル・スタッダータは茫然として金属の塊、蒸気機関車を見ていた。
 まだ完成はしていないはずだと思っていた。
 この発表会は不意打ちで行われたのだ。
 胡散臭い鉄道事業など潰さなければならない。
 だが、これからその仕事はとてつもない困難が立ちふさがることとなった。
 蒸気機関車を見た老若男女は貴賤も問わず蒸気機関車に夢中になってしまったのだ。
 この熱狂を抑えることなどできるわけがない。
 舌打ちをしてその場を立ち去ろうとする。
「楽しんでいないのか?」
 そう声をかけられる。ヤギのような顎髭が特徴だ、宮廷の次官を務めていた。名前はいったい何だったか、ホイエルはしばらく考える。
「驚いただけだ、もうしばらくかかると思っていたからな」
「あれほど妨害工作をしたのにねえ」
 当てこすりにホイエルは思わず相手の顔を見る。
「彼らは証明した。これはこの国に必要な技術だ、国を思うなら、一切の妨害をやめよと上からの通達だ」
 相手は重々しくそう宣言した。
「私に何をしろと?」
「人質の解放だ、国のためだ、国の方針に逆らい反逆者になりたいか?」
 蒸気機関車の存在は竜騎士の不在を補うかもしれない。
 ホイエルは虚ろな目で走り去って行く蒸気機関車を見送る。
 思った以上にスピードが出ていた。

 今日も料理に肉は使えなかった。
 アンナは随分と乏しくなってしまった食材を物悲しい目で見ていた。
 荷物の搬入が減って、いろいろ物資が不足している。今日も芋をゆでるだけで調理が完成してしまった。
 油でもあったなら揚げ芋が作れるのだが。肉はすべて竜にやってしまうらしい。肉しか食べないとは燃費の悪い家畜だと思う。
「牛のほうがなんぼか役に立つんだけどねえ」
 牛はいい、ミルクも出すし、荷物も運ぶ。
 ずっと石造りの建物に閉じ込められ、周りは切り立った崖。
 アンナは平地が恋しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...