異世界に鉄道を引こう

karon

文字の大きさ
上 下
21 / 29

エドワードの思い

しおりを挟む
 エドワードがあんなに与えた仕事場に戻った時にはすべてが遅かった。
 アンナとゴロウアキマサが拉致されたのは間違いない。
 周辺には大型竜の足跡がいくつもついていた。
「少年少女二人を拉致するのに一部隊使ったか」
 エドワードはその件についてはあきれ返った。
 そして、ここまでわかりやすい証拠を残すうかつさも。
 大型竜の足跡などという唯一無二の証拠を持ってどうごまかすつもりなのだろう。
 すでに機関車の製造段階に入っている。この状況で妨害を行うとしたら国家反逆罪ものだ。
「どうするんだ」
 いち早く現場に駆けつけて一部始終を報告したチャールズが尋ねる。
 それほど荒らされていないのは二人がろくに抵抗せず連行されたからだろう。
 武装し、魔術も使えるような人間が複数いる状況で抵抗するのはほとんど殺してくれと言っているようなものだ。
 寄って二人の判断は間違っていない。
 エドワードは見慣れない甕を見つけた。葡萄酒を入れる甕に似ているが。そう思って蓋を開けると漂ってきた臭いに顔をしかめた。
「ビネガーか」
「それなら、近所の醸造所で失敗作の葡萄酒だといわれてもらって帰ったようですね」
 チャールズが周りにいた養豚場の職員から聞き出した話をする。
「ああ、さっそく作ったピクルスがあるな」
 アンナが作ったありあわせ野菜のピクルスが瓶の中で漂っている。
「これは肉の酢漬け?」
「肉の酢煮込みを作るつもりだったようですね、ドイツの定番料理ですよ」
 エドワードはため息をつく。アンナのせっかくの手料理が未完成で終わるのはあまりに惜しい。
「二人を取り戻さなければな」
 エドワードのこれからの展望にどうしても必要な人材と、今まで支えてくれた、彼がいなければ計画の進行はもっと遅かったはずの人材。
 この二人を手放すわけにはいかない。そして見殺しにもしない。
「これからどうするんですか」
「決まっているだろう、連中の非道を宣伝し、二人を取り戻す」
「勝算はあるのですか?」
「あるに決まっているだろう」
 エドワードは不敵に笑う。今までゴロウアキマサが築き上げてくれたこと。そしてアンナがこれからしてくれること、それ自体がエドワードを支える力になる。
「アンナの作った食品庫はどこだ」
 エドワードは燻製がつるされた倉庫に向かう。
 豚だけでなく鳥も魚も燻製になっていた。
 熱燻、温燻、冷燻だけはまだ完成していなかったが。
「弾丸としてこれだけあれば上等だ」
 エドワードはそれらを眺めながらこれからの段取りを考え始めた。
 
 アンナは取調室のような場所に連れてこられた。
 周囲にはいかにもいかつい筋骨隆々の男たちが立ち並んでいる。
 体格にお世辞にも恵まれていないアンナはおどおどと周囲を伺うしかなかった。
 そんな態度のアンナにくみしやすしと見たのか正面に座る老人はにんまりと笑う。
「お前は何のためにあちらにいたんだ?」
「ええと、料理をしていました」
 アンナは正直に答えた。
 あまりに意外な答えに周囲もざわめく。
「鉄道とやらで仕事をしていたのではないのか?」
「いいえ、そんなの知りませんよ、あたしはそんなもの一度も見たことがないんです。できることは料理だけです」
 アンナはどこまでも正直にそれに答えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【草】限定の錬金術師は辺境の地で【薬屋】をしながらスローライフを楽しみたい!

黒猫
ファンタジー
旅行会社に勤める会社の山神 慎太郎。32歳。 登山に出かけて事故で死んでしまう。 転生した先でユニークな草を見つける。 手にした錬金術で生成できた物は……!? 夢の【草】ファンタジーが今、始まる!!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...