15 / 29
雪遊び
しおりを挟むエドワードは目星をつけた魔石にそっと触れた。形はデコボコしていびつな丸。大きさは直径一メートル半というところか。人力で運べなくもないが、軽くもないというところだ。
魔石は内部がまるで水でも入っているように光が揺らいでいる。そして、色彩は虹色、オパールのように多色で光るわけではなく様々色が不規則に鮮やかに現れる。
なぜこのような揺らぎを見せるのか変色を見せるのかエドワードは知らない。ただ、この魔石が有用だということだけを知っていればいい。
魔石は割って加工することができない。そのままの形で利用するしかない。割れればあっという間にその力を失いただの石ころに代わってしまう。
そのため巨大な魔石を利用することはできなかった。大きければ大きいほどその形を損なうことなく運搬することが難しいからだ。
この難題をどう解くのかそのあたりを知っているのはエドワードだけだ。
「もうそろそろアンナはソーセージやベーコンを作ってくれた頃ですかねえ」
ベーコンはイギリスの朝の定番料理だ。こちらで作る豚の加工品は何となくエドワードの口に合わない。それなりに裕福な家に生まれたので食べるものが粗末というわけではないのだが。
「塩漬けはちょっといただけませんね、残念ながら料理の知識は私にはない」
もともとあまりおいしいと言えないイギリス料理、食事に文句をつけようとは思わないが、それでもほんの少しでも郷愁を味わえる料理が食べたくなってもそれは仕方がない。
毛皮の裏打ち付きのコートの襟を寄せて寒さをしのぐ。
「いいですねえ、ベーコン」
仲間も軽くよだれを垂らしている。
魔石はほんのわずかのかけすら許されない。
「要は緩衝材があればいいのですよ」
エドワードはそう言って、周囲に雪を集めさせた。
「ここは本当にちょうどいい、緩衝材になるものがこんなにたくさんある」
そう言って周囲を大きく腕で指し示す。それは一面の銀世界。
「まさか、スノーマンを作る要領で?」
「その通りですよ、雪で回りを固め転がして運べばいい」
エドワードは自信満々な顔でそう言った。
しばらくはシャベルで雪をかき集めるザクザクという音が続く。
そして雪を魔石の周囲に厚く張り付けていく。
凍えそうな寒さの中汗ばむような重労働をどれほどの時間続けたものかようやく周囲に雪を張り付け終えた。
そして転がしてみる。
転がしながらそれでも雪を新しい場所に張り付けていく。
いつしか雪の壁に遮られ、魔石の光も見えなくなっていた。
「これで運べますかね」
ころころと巨大な雪玉を転がしていく。
「いけます、これなら十分です」
また一つ、鉄道を作るためのピースがはまった。エドワードは軽く額の汗をぬぐい、巨大な雪玉を撫でた。
「どうしてこんな簡単なことを思いつかなかったんでしょうね」
「平地には雪が降りませんからね、あっちにはスノーマンを作る習慣がないからでしょう」
雪の降る地域では子供は雪で遊ぶ、そんな経験がこんな形で役に立つとは。そんなことを思いつつ雪玉を転がしていく。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【草】限定の錬金術師は辺境の地で【薬屋】をしながらスローライフを楽しみたい!
黒猫
ファンタジー
旅行会社に勤める会社の山神 慎太郎。32歳。
登山に出かけて事故で死んでしまう。
転生した先でユニークな草を見つける。
手にした錬金術で生成できた物は……!?
夢の【草】ファンタジーが今、始まる!!
お気楽少女の異世界転移――チートな仲間と旅をする――
敬二 盤
ファンタジー
※なろう版との同時連載をしております
※表紙の実穂はpicrewのはなまめ様作ユル女子メーカーで作成した物です
最近投稿ペース死んだけど3日に一度は投稿したい!
第三章 完!!
クラスの中のボス的な存在の市町の娘とその取り巻き数人にいじめられ続けた高校生「進和実穂」。
ある日異世界に召喚されてしまった。
そして召喚された城を追い出されるは指名手配されるはでとっても大変!
でも突如であった仲間達と一緒に居れば怖くない!?
チートな仲間達との愉快な冒険が今始まる!…寄り道しすぎだけどね。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)
【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜
O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。
しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。
…無いんだったら私が作る!
そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる