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試乗
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馬車がごとごとと荷物を引いていく。
本来はこの荷物を運びきれないのだが。線路に沿った貨物車なら簡単に引ける。
これはデモンストレーション用の施設なのだとアンナは教えられた。
アンナが前日に作ったブルストはゴロウアキマサ以外の面々に好意的に受け入れられた。
「よかったらあれに乗ってみますか?」
チャールズがアンナに馬が引く貨物車に乗ってみるように言い出した。
「ええ、乗れるんですか?」
明らかにあれは貨物用だった。アンナ荷物の上に座るのは危なっかしいのでご遠慮申し上げたいと思っているアンナをよそにチャールズはその場で色々とやり始めた。
「少し待っていてくださいね、荷物をどけて座席を作りますから」
チャールズがその場にいる部下であろう人間たちに何事か指示し、荷物は瞬く間に取り払われた。
変わって何やら箱状のものが取り付けられる。
箱には最初から椅子が作りつけられていた。
カンカンカンと金属が打ち合わされる音がして、どうやら固定しているらしい。
「さあ、いいですよ、これもデモンストレーションの一種でしてね」
そう言ってアンナの手を取って椅子にいざなう。
椅子に座る。その椅子はありていに言えば木製のベンチに過ぎない。その木製のベンチに紐が括り付けられていて、その紐で体を固定するといわれた。
こんな紐で身体を支え切れるだろうかとアンナはしばらく思案していたが、期待に満ちたチャールズの視線に意を決して椅子に座り腰のあたりに紐をまいた。
隣でチャールズも同じようにしている。どうやらアンナに乗り方を教えてくれるつもりのようだ。
馬が歩き出す。そしてアンナの乗った座席も滑るように動き出した。
そして驚いたのが、ほとんど揺れないということだ。
馬車など問題にならないくらい揺れない、実になめらかな移動方法だ。
「貴族の方なんかこの乗り心地に不満はないんですか?」
「もちろんほとんどありませんとも、こちらの道の舗装技術はひどいものです、馬車に乗っていたら舌を噛みそうになることもよくある、しかしこの線路の上の移動には誰もが満足してくださいますとも」
チャールズは自信満々に答えた。
「そうでしょうねえ」
普通の道に線路を作って馬車にひかせるという計画はないのだろうかと聞くとチャールズは苦笑した。
「それはちょっとコストがかかりすぎますね」
列車を造るのとどちらが高価なのかアンナには判断がつかない。
「それに、もう何年も我々は鉄道にかけてきたのですし、いや本当に苦労の連続でしたが、やっとあれを発見することができて計画のめどが立ったのですよ」
「あれ?」
単に田舎者というだけでなく時々アンナについていけなくなることが多い。
「いつか連れて行ってもらえますよ、貴女はかけがえのない同士なのですから」
チャールズはそう言って陽気に笑う。
こんなにも話についていけないアンナがどうしてかけがえがないのだろう。
アンナは座席の上で黙り込む。
座席は固定する紐がいらないくらいゆっくりと進んでいく。
ゴロウアキマサが手を振っているのが見えた。
自分はいったい何のためにいるんだろう。アンナはため息をつく。
明日仕込む豚バラの燻製を約束し、アンナはその場を後にした。
本来はこの荷物を運びきれないのだが。線路に沿った貨物車なら簡単に引ける。
これはデモンストレーション用の施設なのだとアンナは教えられた。
アンナが前日に作ったブルストはゴロウアキマサ以外の面々に好意的に受け入れられた。
「よかったらあれに乗ってみますか?」
チャールズがアンナに馬が引く貨物車に乗ってみるように言い出した。
「ええ、乗れるんですか?」
明らかにあれは貨物用だった。アンナ荷物の上に座るのは危なっかしいのでご遠慮申し上げたいと思っているアンナをよそにチャールズはその場で色々とやり始めた。
「少し待っていてくださいね、荷物をどけて座席を作りますから」
チャールズがその場にいる部下であろう人間たちに何事か指示し、荷物は瞬く間に取り払われた。
変わって何やら箱状のものが取り付けられる。
箱には最初から椅子が作りつけられていた。
カンカンカンと金属が打ち合わされる音がして、どうやら固定しているらしい。
「さあ、いいですよ、これもデモンストレーションの一種でしてね」
そう言ってアンナの手を取って椅子にいざなう。
椅子に座る。その椅子はありていに言えば木製のベンチに過ぎない。その木製のベンチに紐が括り付けられていて、その紐で体を固定するといわれた。
こんな紐で身体を支え切れるだろうかとアンナはしばらく思案していたが、期待に満ちたチャールズの視線に意を決して椅子に座り腰のあたりに紐をまいた。
隣でチャールズも同じようにしている。どうやらアンナに乗り方を教えてくれるつもりのようだ。
馬が歩き出す。そしてアンナの乗った座席も滑るように動き出した。
そして驚いたのが、ほとんど揺れないということだ。
馬車など問題にならないくらい揺れない、実になめらかな移動方法だ。
「貴族の方なんかこの乗り心地に不満はないんですか?」
「もちろんほとんどありませんとも、こちらの道の舗装技術はひどいものです、馬車に乗っていたら舌を噛みそうになることもよくある、しかしこの線路の上の移動には誰もが満足してくださいますとも」
チャールズは自信満々に答えた。
「そうでしょうねえ」
普通の道に線路を作って馬車にひかせるという計画はないのだろうかと聞くとチャールズは苦笑した。
「それはちょっとコストがかかりすぎますね」
列車を造るのとどちらが高価なのかアンナには判断がつかない。
「それに、もう何年も我々は鉄道にかけてきたのですし、いや本当に苦労の連続でしたが、やっとあれを発見することができて計画のめどが立ったのですよ」
「あれ?」
単に田舎者というだけでなく時々アンナについていけなくなることが多い。
「いつか連れて行ってもらえますよ、貴女はかけがえのない同士なのですから」
チャールズはそう言って陽気に笑う。
こんなにも話についていけないアンナがどうしてかけがえがないのだろう。
アンナは座席の上で黙り込む。
座席は固定する紐がいらないくらいゆっくりと進んでいく。
ゴロウアキマサが手を振っているのが見えた。
自分はいったい何のためにいるんだろう。アンナはため息をつく。
明日仕込む豚バラの燻製を約束し、アンナはその場を後にした。
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