ある横柄な上官を持った直属下士官の上官並びにその妻観察日記

karon

文字の大きさ
上 下
27 / 37

どうして俺が

しおりを挟む
 背後確認用鏡の中で自動二輪車が曲がって行くのを見ていたサンダース大佐はハンドルを握る手を外し軽くこぶしを自分の顎に当てる。
「気のせいか?」
 そう気がついてみればいつの間にかずいぶんと周囲が変わっていた。変わってしまった周囲に眼をやれば今まで眼にとどめもしなかったものが映る。
 さっきは気のせいだったが、あるいは気付かれたことに気づいて避けたのか。とにかくいつの間にか自分を監視している眼ができた。
 それもずいぶん前に。
 忌々しいが、記憶を総ざらいして新聞に載った写真を元に思い出してみた。
 すべて、ミュゲと結婚してからだ。しかしミュゲとの結婚は公にしていない。となればこの写真を撮ったのは軍関係者か、魔道庁関係者である可能性が高い。
 そうするとナルシッサはどう動いたのか。
 完全にサンダース大佐は主犯をナルシッサと断定していた。
「しかし、さすがにミュゲを出さないわけがない」
 レイシック卿とダンダルジャン卿、そしてサンダース大佐とミュゲ、四人で話し合いの席が設けられているのだ。
 本来ならば、二人の婚礼の打ち合わせであるはずのその場所が二人の離婚調停の場になることになる。
 さすがにこれにミュゲ不在というわけにはいかない。
 ミュゲが出てくれば丸めこむ自信はいくらでもある。
 そしてミュゲの顔を思い出そうとして、うっすらとしか思い出せないことに気づく。
 整った顔は妙に印象が薄く、円い菫色の瞳しか思い出せない。
 本当に印象の薄い女だ。だからこそ放っておく気にもなれた。

 レイシック卿は新聞紙を何度も切り刻んでいた。
「どういうことだ、ミュゲと結婚しておいて、どうして」
「それはレイシック卿のなさったことを考えれば、どのような理不尽も妙忍んで当然であり、浮気ご時で文句を言う資格はないという論理だそうですよ」
 秘書官は破り棄てられる前の新聞を片手のそう論じて新聞を渡す。
「許せんぞ、この私の娘を」
「だから、誰のせいです?」
 どれほど秘書官が突っ込もうと何一つ聞いていない。
「軍人としては優秀だけど、魔道士としては並みの上レベル。レイシック卿が本気になれば勝てる相手よね」
 残骸だけでも、残ればいいけど。
 レイシック卿を常識が通じて耐えしのぶと考えた愚か者に、秘書官は幽かに嘲笑を浮かべた。

 ジャックは双子の少尉と、カーター少尉に取り囲まれていた。
「例の場に貴方が出なさい」
 重々しくカーター女史が言う。
 しかし本来ならば、それはカーター女史の仕事だ。
「あの、准尉二人では示しがつかないのでは」
 ついでにボルト准尉も巻き込んでおく
「そんなことはどうでもいいのよ、とにかく貴方が出るの、いいわね、これは命令よ」
 上官の命令は絶対。ましてやこのカーター少尉の命令は将軍の命令にも匹敵する。
「アイアイマム」
 力なくジャックは敬礼した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一振りの刃となって

なんてこった
ファンタジー
拙いですが概要は、人生に疲れちゃったおじさんが異世界でひどい目にあい人を辞めちゃった(他者から強制的に)お話しです。 人外物を書きたいなーと思って書きました。 物語とか書くのは初めてなので暖かい目で見てくれるとうれしいです。 更新は22:00を目安にしております。 一話一話短いですが楽しんでいただけたら幸いです。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...