8 / 17
契約する二人
しおりを挟む
キルヒャーは無言でその場に佇んでいた。
なぜこんな場所にチェリアが待っていてと頼んできたのかもわからない。だがどうしてもそこで待っていてほしいとチェリアが言ってきたのだ。
チェリアとの約束だった。他の男と付き合わない代わり頼み事は決して断らないと。他にもいくつかある。
そしてそれをたがえたら別れると言われた。
だから頼まれたら断るわけにはいかない。
そしてチェリアはまだ来ない。
人通りのない街のはずれ、どうしてチェリアがここを指定してきたのかもわからない。
日が暮れてきた。どれほどの時間がたったのだろう。
さっきまでは晴れていたのに雨が彼の額にはねた。
ぼんやりと彼は上を見る。
それでも彼はチェリアを待っていた。
雨は徐々に激しさを増している。キルヒャーは雨でにじむ視界の中チェリアの姿を探した。チェリアはまだ来ない。
「もう、どうすればいいんすか、あんなにも真摯な愛を踏みにじることができるなんて信じられないっす」
こいつに真摯なんて難しい単語を理解する頭を持っていたんだなあ。
そんな関係のないことをカーライルは思っていた。
「土砂降りの雨の中一時間兄貴はチェリアを待っていたんでっすよ。でもチェリアは来なくて俺が駆けつけなかったら大変なことになっていたっす。俺が兄貴を説得して家に戻らせて、それでチェリアがどこにいるのか確かめようとチェリアの住んでいるところまで行ったんす」
憤懣やるすえない。
そんな気持ちでチェリアの住む女学校の寮に向かった。
もちろんそんな場所にグレンのような怪しげな男が入れるわけがない。
何とか忍び込もうとしたが警戒が厳しくなかなか目的は達成できなかった。
漸くチェリアに出会えたのは翌日のことだった。
「お前、どうしてこなかったんだよ」
ずぶぬれになって待っていた姿を思い出し思わず感情的になった。
「私は待っていてと頼んだだけよ、でも私が後から行くってはっきり言ったかしら」
チェリアはそんなグレンを鼻で笑った。
「それで、あいつどうにかなったかしら」
「そうなる前に俺が止めたんだよ、兄貴にもしものことがあったらお前どうする気だったんだ」
ちっとチェリアは小さく舌打ちをした。
「余計なことを」
「おい。お前兄ことどう責任」
「あいつがどうなろうと私の知ったことじゃないわ、それとあいつが私の言うことを聞かないという選択肢があったということを忘れないで、あいつが勝手にやったことよ」
「お前が言うことを聞かないと別れるって」
「そうよ、そうすればいいじゃない」
チェリアの出した条件。チェリアの言うことは何でも聞く。チェリアとその家族に危害を加えない。それを破ったら離別。
いずれチェリアもわかると思ったからその条件をのんだ。だけどチェリアはそれを盾にしてけっしてキルヒャーを近寄らせない。
「いや、突っ込みどころ満載な条件なんだが」
カーライルは軽くこめかみをもんだ。
「それ、書面にしてあるのか?」
「チェリアがどうしても書面にしろって言い張って聞かなくて、それで双方のサインも入れてあるっす」
カーライルは乾いた笑いをこぼした。
こいつら本気で馬鹿だ。
なぜこんな場所にチェリアが待っていてと頼んできたのかもわからない。だがどうしてもそこで待っていてほしいとチェリアが言ってきたのだ。
チェリアとの約束だった。他の男と付き合わない代わり頼み事は決して断らないと。他にもいくつかある。
そしてそれをたがえたら別れると言われた。
だから頼まれたら断るわけにはいかない。
そしてチェリアはまだ来ない。
人通りのない街のはずれ、どうしてチェリアがここを指定してきたのかもわからない。
日が暮れてきた。どれほどの時間がたったのだろう。
さっきまでは晴れていたのに雨が彼の額にはねた。
ぼんやりと彼は上を見る。
それでも彼はチェリアを待っていた。
雨は徐々に激しさを増している。キルヒャーは雨でにじむ視界の中チェリアの姿を探した。チェリアはまだ来ない。
「もう、どうすればいいんすか、あんなにも真摯な愛を踏みにじることができるなんて信じられないっす」
こいつに真摯なんて難しい単語を理解する頭を持っていたんだなあ。
そんな関係のないことをカーライルは思っていた。
「土砂降りの雨の中一時間兄貴はチェリアを待っていたんでっすよ。でもチェリアは来なくて俺が駆けつけなかったら大変なことになっていたっす。俺が兄貴を説得して家に戻らせて、それでチェリアがどこにいるのか確かめようとチェリアの住んでいるところまで行ったんす」
憤懣やるすえない。
そんな気持ちでチェリアの住む女学校の寮に向かった。
もちろんそんな場所にグレンのような怪しげな男が入れるわけがない。
何とか忍び込もうとしたが警戒が厳しくなかなか目的は達成できなかった。
漸くチェリアに出会えたのは翌日のことだった。
「お前、どうしてこなかったんだよ」
ずぶぬれになって待っていた姿を思い出し思わず感情的になった。
「私は待っていてと頼んだだけよ、でも私が後から行くってはっきり言ったかしら」
チェリアはそんなグレンを鼻で笑った。
「それで、あいつどうにかなったかしら」
「そうなる前に俺が止めたんだよ、兄貴にもしものことがあったらお前どうする気だったんだ」
ちっとチェリアは小さく舌打ちをした。
「余計なことを」
「おい。お前兄ことどう責任」
「あいつがどうなろうと私の知ったことじゃないわ、それとあいつが私の言うことを聞かないという選択肢があったということを忘れないで、あいつが勝手にやったことよ」
「お前が言うことを聞かないと別れるって」
「そうよ、そうすればいいじゃない」
チェリアの出した条件。チェリアの言うことは何でも聞く。チェリアとその家族に危害を加えない。それを破ったら離別。
いずれチェリアもわかると思ったからその条件をのんだ。だけどチェリアはそれを盾にしてけっしてキルヒャーを近寄らせない。
「いや、突っ込みどころ満載な条件なんだが」
カーライルは軽くこめかみをもんだ。
「それ、書面にしてあるのか?」
「チェリアがどうしても書面にしろって言い張って聞かなくて、それで双方のサインも入れてあるっす」
カーライルは乾いた笑いをこぼした。
こいつら本気で馬鹿だ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!
月見里ゆずる(やまなしゆずる)
ライト文芸
私、依田結花! 37歳! みんな、ゆいちゃんって呼んでね!
大学卒業してから1回も働いたことないの!
23で娘が生まれて、中学生の親にしてはかなり若い方よ。
夫は自営業。でも最近忙しくって、友達やお母さんと遊んで散財しているの。
娘は反抗期で仲が悪いし。
そんな中、夫が仕事中に倒れてしまった。
夫が働けなくなったら、ゆいちゃんどうしたらいいの?!
退院そいてもうちに戻ってこないし! そしたらしばらく距離置こうって!
娘もお母さんと一緒にいたくないって。
しかもあれもこれも、今までのことぜーんぶバレちゃった!
もしかして夫と娘に逃げられちゃうの?! 離婚されちゃう?!
世界一可愛いゆいちゃんが、働くのも離婚も別居なんてあり得ない!
結婚時の約束はどうなるの?! 不履行よ!
自分大好き!
周りからチヤホヤされるのが当たり前!
長年わがまま放題の(精神が)成長しない系ヒロインの末路。
隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい
四乃森ゆいな
ライト文芸
『この感情は、幼馴染としての感情か。それとも……親友以上の感情だろうか──。』
孤独な読書家《凪宮晴斗》には、いわゆる『幼馴染』という者が存在する。それが、クラスは愚か学校中からも注目を集める才色兼備の美少女《一之瀬渚》である。
しかし、学校での直接的な接触は無く、あってもメッセージのやり取りのみ。せいぜい、誰もいなくなった教室で一緒に勉強するか読書をするぐらいだった。
ところが今年の春休み──晴斗は渚から……、
「──私、ハル君のことが好きなの!」と、告白をされてしまう。
この告白を機に、二人の関係性に変化が起き始めることとなる。
他愛のないメッセージのやり取り、部室でのお昼、放課後の教室。そして、お泊まり。今までにも送ってきた『いつもの日常』が、少しずつ〝特別〟なものへと変わっていく。
だが幼馴染からの僅かな関係の変化に、晴斗達は戸惑うばかり……。
更には過去のトラウマが引っかかり、相手には迷惑をかけまいと中々本音を言い出せず、悩みが生まれてしまい──。
親友以上恋人未満。
これはそんな曖昧な関係性の幼馴染たちが、本当の恋人となるまでの“一年間”を描く青春ラブコメである。
医者兄と病院脱出の妹(フリー台本)
在
ライト文芸
生まれて初めて大病を患い入院中の妹
退院が決まり、試しの外出と称して病院を抜け出し友達と脱走
行きたかったカフェへ
それが、主治医の兄に見つかり、その後体調急変
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~
海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。
そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。
そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
僕の主治医さん
鏡野ゆう
ライト文芸
研修医の北川雛子先生が担当することになったのは、救急車で運び込まれた南山裕章さんという若き外務官僚さんでした。研修医さんと救急車で運ばれてきた患者さんとの恋の小話とちょっと不思議なあひるちゃんのお話。
【本編】+【アヒル事件簿】【事件です!】
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる