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シーズン終了
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アメリアはいろいろと騒ぎになった今年の社交シーズンを思い出していた。
最初はデビュタント、これは予定通り、まあまあ予定通りに過ぎていったのだ、あの頃は。
目標は婿探し。この世界の貴族女性は基本的に結婚してなんぼだ。未婚のままだと行く先は修道院に幽閉というろくでもない未来しかない。
アメリアに信仰心はあまりないので、その未来だけは御免こうむりたかったのだが。婿探しが難航しても父が適当な親戚を婿に取ってやると言ってくれたのでそれほど焦らなかった。
それにお菓子づくり事業に少しだけだがかかわりあうことができた。この世界で貴族女性が就職するなど夢のまた夢なので仕事もどきができるというのはなかなか新鮮だった。
ここまではよかったのだ、ここまでは。
アメリアはため息をついた。
そのあと、求婚してくれる爵位の等しい人が現れて、それなりに好感の持てる人だったのでそのまま婚約した。
そして友人ができて、友人とこれから楽しくやれそうだと思って、これで終わればよかったのに。
アメリアはそろそろ盛りが終わりつつある薔薇園で、迎えに来るはずの親友を待っていた。
アメリアと両親、そしてキャロルとその御両親はそろって本日の儀式を受けることになっている。
もう夏が終わって秋が来る。社交シーズンは終わるのだ。
社交シーズンが終われば、アガサ男爵家一同は領地のマナーハウスで暮らすことになる。
アメリアの父親も領地経営の仕事に専念しなければならない。
基本貴族は二足の草鞋を履いているのだ。
アガサ男爵領は雪深いためいろいろと大変だが、暇つぶしがあればそれなりに過ごしやすい。
愛しの婚約者殿が毛糸をたっぷり用意してくれていた。これを使って肩掛けでも作って差し上げよう、冬獣かかればたぶんそれくらいできるはず。
雪深いアガサ男爵領まできっとあんなトラブルはやってこないに違いない。
今日ほどアメリアは領地が首都から遠く離れているのをうれしく思ったことはなかった。
王子達の浮気騒動だの継承争いなど、どうして普通の男爵令嬢が巻き込まれる羽目になったのかどうしてもわからなかったが、それもひと段落ついた。
今日の儀式が終われば荷物をまとめて出発だ。
アメリアは夕暮れに染まる王宮を仰ぎ見た。
それは相変わらず壮麗で豪奢で巨大だった。
そして、もうアメリアには用のない場所になる。
来年婚礼を上げれば既婚女性はほとんど王宮に顔を出さない。アメリアの母もそうだった。
儀式があるときだけ王宮に顔を出すが、舞踏会などは若い未婚の娘のものとされている。主婦は家庭を守るものだ。
王宮の大広間はぎちぎちに人で埋まっていた。
特権階級である貴族がこれだけの数いるとしたらこの国の人口はいったいどれくらいのものだろうとアメリアは計算してみようとした。
キャロルが胡乱な目をしてそんなアメリアを見ていた。
「なんだか、濃い半年間だった気がする」
小声でつぶやくと相手も大きく頷いたが。
壇上に据えられた玉座に国王が鎮座している。その少し下座に二人の王子が座っている。
国王は何となくしなびた脂の抜けたおじいさんに見えた。
対照的にきらびやかな王子がそばに控えているせいでもっと。
ダラダラとどうでもいいお話を聞いていた。そして楽団がそれに合わせてスローテンポな曲を奏でている。
立っていなければそのまま寝落ちしていたなと思いながらその場でお話を聞いていた。
そしてようやくお話が終わり、国王をお見送りする儀となった。
王が前を通った時一礼するのが作法だと言われたので、王が近くに来た時点でアメリアはスカートの裾をつまんだ。
アメリアが深々とお辞儀をする。その時ちらりと国王の視線がアメリアに落ちたけれどそれに気づくものは誰もいなかった。
最初はデビュタント、これは予定通り、まあまあ予定通りに過ぎていったのだ、あの頃は。
目標は婿探し。この世界の貴族女性は基本的に結婚してなんぼだ。未婚のままだと行く先は修道院に幽閉というろくでもない未来しかない。
アメリアに信仰心はあまりないので、その未来だけは御免こうむりたかったのだが。婿探しが難航しても父が適当な親戚を婿に取ってやると言ってくれたのでそれほど焦らなかった。
それにお菓子づくり事業に少しだけだがかかわりあうことができた。この世界で貴族女性が就職するなど夢のまた夢なので仕事もどきができるというのはなかなか新鮮だった。
ここまではよかったのだ、ここまでは。
アメリアはため息をついた。
そのあと、求婚してくれる爵位の等しい人が現れて、それなりに好感の持てる人だったのでそのまま婚約した。
そして友人ができて、友人とこれから楽しくやれそうだと思って、これで終わればよかったのに。
アメリアはそろそろ盛りが終わりつつある薔薇園で、迎えに来るはずの親友を待っていた。
アメリアと両親、そしてキャロルとその御両親はそろって本日の儀式を受けることになっている。
もう夏が終わって秋が来る。社交シーズンは終わるのだ。
社交シーズンが終われば、アガサ男爵家一同は領地のマナーハウスで暮らすことになる。
アメリアの父親も領地経営の仕事に専念しなければならない。
基本貴族は二足の草鞋を履いているのだ。
アガサ男爵領は雪深いためいろいろと大変だが、暇つぶしがあればそれなりに過ごしやすい。
愛しの婚約者殿が毛糸をたっぷり用意してくれていた。これを使って肩掛けでも作って差し上げよう、冬獣かかればたぶんそれくらいできるはず。
雪深いアガサ男爵領まできっとあんなトラブルはやってこないに違いない。
今日ほどアメリアは領地が首都から遠く離れているのをうれしく思ったことはなかった。
王子達の浮気騒動だの継承争いなど、どうして普通の男爵令嬢が巻き込まれる羽目になったのかどうしてもわからなかったが、それもひと段落ついた。
今日の儀式が終われば荷物をまとめて出発だ。
アメリアは夕暮れに染まる王宮を仰ぎ見た。
それは相変わらず壮麗で豪奢で巨大だった。
そして、もうアメリアには用のない場所になる。
来年婚礼を上げれば既婚女性はほとんど王宮に顔を出さない。アメリアの母もそうだった。
儀式があるときだけ王宮に顔を出すが、舞踏会などは若い未婚の娘のものとされている。主婦は家庭を守るものだ。
王宮の大広間はぎちぎちに人で埋まっていた。
特権階級である貴族がこれだけの数いるとしたらこの国の人口はいったいどれくらいのものだろうとアメリアは計算してみようとした。
キャロルが胡乱な目をしてそんなアメリアを見ていた。
「なんだか、濃い半年間だった気がする」
小声でつぶやくと相手も大きく頷いたが。
壇上に据えられた玉座に国王が鎮座している。その少し下座に二人の王子が座っている。
国王は何となくしなびた脂の抜けたおじいさんに見えた。
対照的にきらびやかな王子がそばに控えているせいでもっと。
ダラダラとどうでもいいお話を聞いていた。そして楽団がそれに合わせてスローテンポな曲を奏でている。
立っていなければそのまま寝落ちしていたなと思いながらその場でお話を聞いていた。
そしてようやくお話が終わり、国王をお見送りする儀となった。
王が前を通った時一礼するのが作法だと言われたので、王が近くに来た時点でアメリアはスカートの裾をつまんだ。
アメリアが深々とお辞儀をする。その時ちらりと国王の視線がアメリアに落ちたけれどそれに気づくものは誰もいなかった。
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