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権力

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 アメリアは書き物机に肘をついて目の前の紙を見ていた。ユーフェミアから渡された今後の行動を指示する内容が記された紙だ。
 どうやらかなりあっさりと刺客は存在を捕捉され監視対象になっているらしい。
 しかし決定的な瞬間が必要だ。何もしていない相手を取り押さえても何にもならない。
 つまり現行犯逮捕するための囮になれということだ。
 その必要性は分かる。そしてどうしてもユーフェミアはゾディークを葬り去りたいということだろう。
「考えてみれば、悪役令嬢たちはヒロインと戦うより、悪役令嬢同士で戦ったほうがいいんじゃないの」
 思わず出てきた素朴な疑問だ。かつてのディスプレイ画面に問いかけたい。どうしてヒロインなんか相手にするのかと。
 そんなことを現実逃避的に考えていたが。やはり考えるだけ無駄という結論に達した。
 手順通り、教えられたとおりにすればいい。
 アメリアはそっと天を見た。といっても気分的に、実際に見えたのは薄暗くなった見慣れた天井だが。
 神様がいるなら聞きたい、どうして私がこんな人生を歩まねばならなかったのか。
 そんなことを考えて苦笑した。どう考えても自分の質じゃない。
 キャロルのように社会人経験もなく、知識もない料理ぐらいしか取り柄のない自分は身体を張るしかないということだ。
 そしてアメリアは渡された期日と場所を記した紙をランプの炎で焼き焦がした。
「これで証拠隠滅」
 引き受けた以上ためらうことは許されない。報酬は家族の将来だ。失敗ならともかく、裏切りはその家族の将来を潰されることになる。
「男爵家のお嬢様として、それなりにいい暮らしをしてきた身で言うのはもしかしたらおこがましいかもしれないけど、やっぱり身分制度って理不尽だわ」
 それしか言えなかった。

 キャロルは一仕事終えて、肩を回した。ぽきぽきと凝り固まった関節がかつて散々聞いた音を立てる。
「久しぶりに聞いたなこの音」
 しょぼつく目をこすりつつ。ランプの明かり頼りにまとめた資料をそろえる。
 そういえば、何やらうっとおしいものが周囲をうろついていたが、まあいい。
 そう思ってまとめた書類を机に置いた。
 月を見て時間を図る。
 時計がない世界で、最初に覚えたのが、天体を時計代わりにすることだった。
 今寝れば朝食をあきらめさえすればそれなりの時間寝られる。
 盗難の恐れはない。最近我が家の周囲を監視している影がある。もし書類を盗もうとすれば即座に対応してもらえるはずだ。
「あるところにはあるんだなあ、権力」
 微細な権力持ちの家の娘としては大権力の前にひれ伏すしかない。
「大丈夫かなあ、アメリア」
 あちらもいろいろあるだろうが、とにかくこの件を乗り切るしかない。
 考えてもしょうがない。朝食はあきらめた、睡眠不足を補おう。
 食うに困る家じゃない、朝食を食べ損ねたとしても軽い軽食を要求することぐらいはできるのだ。
 
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