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「これは何だね」
 父親がキャロルが置いていったパスタマシーンに見える脱水機を見た。
「お洗濯に使うんですって」
「そうなのかね、あちらの領地では木工製品の開発にいそしんでいるという話なんで、これはクッキーの生地を均等に伸ばす道具かと思ったんだよ」
 やはりそう見えるか。
「これを使えばクッキーの生地を手で伸ばすより早く伸ばせそうだ」
 大量生産となった以上それ用の小道具も必要なので、クッキー生地に合わせたものを作ってもらうことを検討しようと父親と相談した。
 父親はクッキーやケーキの作り方を完全に覚えたようだ。去年までは台所に入ったこともなかったのに、人間変れば変るものだ。
 今は夏で、冬はまだ先だが、いくつかの試作品で作りたいものもある。それにスティーブンに交渉して編み物に適した糸を手に入れる算段もつけなければならない。
 いろいろと忙しい冬になりそうだ。
 そして、手にした刺繍枠を持ち替え、ハンカチに刺繍をしていく。
 いくつかのリネン類やハンカチに刺繍をしたものを嫁入り道具にするのが習わしだ。
 アメリアも縁談が決まった以上せっせと作らなければならない。
「こういう時はもう一人くらい女の子がいればよかったのに」
 シーツの裾模様を刺繍している母親がぼやく。
「その場合、アメリアが嫁に行った後、その子の刺繍でもう一度天手古舞になるんだな」
 母親が唇を尖らせる。
 母親の私室にいくつか祖母の作品が置かれている。
 アメリアはあまり顔を合わせたことはない。母の実家に何度かお茶会に呼ばれたことがあるだけだ。
 たぶん母親と同じようにああして刺繍をしていたのだろう。
 多少作りためたものもあるので、念のための作り足しのようなものだ。
 ハンカチの薔薇の縫い取りをしながらアメリアは家族を見た。
 父親はキャロルの持ってきた脱水機のハンドルを回している。
 母親は黙々と刺繍を続け弟は馬のおもちゃで遊んでいる。
 たぶんありふれた幸福な光景なんだろうと。そんなことを思いながら、再び刺繍を続けた。

 思い出したくもないゾディーク情報が入ってきた。
 今度はキャロルだ。
 キャロルにデレインから聞いた話をすると、キャロルも目を丸くした。
 キャロルの家の領地もアメリアのところと近所なので直接巻き込まれはしないのだが。
「戦争となると、思い出すのはまず物資不足ね」
 戦争は物資を大量に空費するものなのだ。
「とはいえ、戦争は最終手段でしょ、何故なら物資がもったいなさすぎるからよ、公爵家から得た情報でもよっぽどの利がない限り戦争はないわ」
 キャロルは案外楽天的だ。
「まあ、戦争となったら、真っ先に物資に取り付く用のお父様に言っておくけど、そんな豪勢なことにはならないと思うな、怪しいとすれば、たぶん暗殺じゃないかな」
 暗殺ならとっても安上がりだと思う。それがキャロルの言い分だ。
「ただ、あの殿下方があまりにも怪しい死に方をしたら、さすがにエンダイブも黙っていないでしょうね」
 どちらの国も自分たちの血を継いだ王子に国王になってほしいと思っているはずだ。
 そのさなかでも暗殺は、起きてほしくない戦争の火種には十分のはずだ。
「どのみち、勝ち目のない勝負なんだから」
 キャロルはそう言って、天を仰いだ。
「ごめん、泣いてゾディーク」
 キャロル本人はまだ見たことのないゾディークに貧乏くじを押し付けることにした。
「でも、先にキャロルに喧嘩を売ったのはあっちだしねえ」
 これこそ、雉も鳴かずば撃たれまいにってやつかなあ。
 昔聞いたことわざを思い出していた。
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