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黒幕の正体

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 この国サントアルの国王陛下は二度結婚している。
 一人は最初の妃で、この国の右隣の国ウエンステラの妃、二人目はこの国の左隣のエンダイブの妃。当時の交易や国際状況をおもんばかって選ばれた妃達だった。
 そして、その妃達は二人とも鬼籍に入っている。
 そして、王太子となった王子の妃は国内から選ばれた。それはまあバランスというものだろう。
 大体外国出身の王妃と国内出身の王妃は交互に立てられている。
 ところが王太子の高齢化に伴い王太子を排して、王太子の長男かそれとも第二第三王子のいずれかを即位させようという世情へと動いた時、国内の貴族は今三分割という状況だ。
 第一勢力は王太子妃の実家サックス公爵家、第二王子の婚約者の実家バーミリオン公爵家、、第三王子の婚約者の実家カドミウム侯爵家の三つだ。
 そして、国内の貴族はこの三つのうちどれかの傘下に入ることが暗黙の了解みたいな状況になっているらしい。
 アメリアの父親が、カドミウム公爵にケーキのレシピを進呈したのもその一環。
 つまりアガサ男爵家はカドミウム公爵家の傘下に入っていることになる。
 そういう処世術ならそれでもいいがアメリアはそっとキャロルを見た。
「うちはバーミリオン公爵方ね」
 キャロルがそう答えてきたのでアメリアもこたえる。
「うちはカドミウム公爵」
 違う派閥だが、父親同士は先日あった時は仲良く共同事業でも始めようかと話し合っていた。あまり考えなくてもいいのだろうか。
「どこの派閥が勝ったとしても、男爵家程度だとたいして旨味はないわね、最低伯爵家くらいじゃないと利益も損失もさして出ないでしょう」
 つまり爵位が上がれば上がるほどハイリスクハイリターン、爵位が下がれば下がるほどローリスクローリターンになるはずか。
 確かに王様に謁見といっても遠くから辛うじて声が聞こえてくるだけで、それが年に一回あればいいような身分の男爵家で王様が誰がなってもそれほど差はないだろう。
 すごく切実なのは侯爵家あたりからだそうだ。
「そしてね、三つ巴の戦いって、結局は消耗戦になりやすいっていうわね」
 エルザの言葉に二人は頷く。一対一の戦いよりややこしくなりそうだ。
「だから、まず一つを潰そうとしているわけよ、王太子妃の実家バーミリオン家をね」
 そう言ってエルザは目を伏せた。
 なんとなく目を見せたくないのだろうかとアメリアは思った。
「とにかくバーミリオン家につきそうな家に次々と圧力をかけているわ、主要な貴族はほとんど離反させられているわね。ウエンステラ寄りの領地を持っている貴族の中にはそれでも頑張っている人たちもいるけれど、それも時間の問題」
 そして、バーミリオン公爵家の問題が片付き次第サックス公爵家とカドミウム公爵家の一騎打ちになる予定なのだとか。
 今の状態は期間限定の停戦中というわけだ。
「それで、そちらはどうするんです」
 権威に燃えているエルザなら、この三者三様の争いに一石を投じたいと思っているのかもしれない。
「まあいいわ、勝つのはバーミリオン公爵かカドミウム公爵かでしょうけれど、こちらにできるだけ被害が及ばないようにするだけよ、そのためにうまく立ち回る。そして、お嬢さんたち、噂話を馬鹿にしては駄目よ、話についていけなくなったら貴族として終わりよ」
「もちろん、公爵家だけの問題じゃなくて、ウエンステラとエンダイブとの関係も考慮しなければならないのでしょうね」
「あら、賢いわね、でも今の状況じゃ、どちらの国でもうちの国にとっては同じ、国際状況は小康状態ってことよ、ありがたいことにね」
 エルザの話は大変ためになった。しかし、過去の所業を思うと、あまり仲良くしたらおそらく未来の姑の御機嫌は損ねることになるかもしれない。
 そして、今の話はあることにものすごく参考になったのだ。
 アメリアとキャロルにとんでもない冤罪を着せたのはおそらく王太子妃だろうと。
 二人はため息をついた。
 厄介ごとから遠ざかりたくて攻略対象から逃げていたのに、どうして向こうから寄ってくるのかと。
 
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