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番外編 アガサ男爵の懊悩

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 アガサ男爵は目の前の書類を見ながら眉をしかめた。
 それは目に入れてもいたくないくらい可愛がっていた愛娘の描きだした書類だった。
 十五の娘の書類など、ほほえましく読んだ後は廃棄すればいいものだがそうはいかなかった。
 何しろ成功すればという但し書き付きではあるがとてつもない儲け話が書かれていたのだ。
 問題は将来の利益が消えるかもしれないということ。
 ブランディは金になるまで長い年月がかかる。今年仕込んだブランディが売り物になるまでにはたぶん孫が生まれている。それも長女ではなく長男の。
 しかし、それは将来への布石でもあると彼は思っている。
 まだ見ぬ孫への贈り物だ。
 その贈り物を目先の金に換えていいものだろうか。
 アメリアの言う理論は確かに正しいかもしれない。むしろなぜ今まで気づかなかったと自分を責めたいくらいだ。
 酒精はいろんなものを溶かしこんでしまう。
 酒にあらかじめ香りのよいものを漬け込んでおけばその香りを溶かし込む。
 十分にあり得る。
 あのバター玉子をふんだんに使う菓子類はまだいい。
 バターと卵は日持ちしない、そのため都市部までもっていくことが冬しかできないのだ。
 しかし、菓子に加工することで、その日持ちを数倍、パウンドケーキに至っては数十倍にまで引き上げることができた。
 おかげでだぶついていたバターと卵が砂糖やドライフルーツといった高価なものを大量消費することになるが夏でも販売可能になった。
 その結果少なからぬ金額が懐に入った。
 高価な砂糖やドライフルーツの分を上乗せして相当な高値で販売したのだが、誰一人として文句を言わず、その結構な金額を払ってくれたのだ。
 しかしブランディは将来の投資なのだ。
 つまり、アメリアからおいしそうな話を持ち掛けられたが、そのために使用する酒精が極めて少ないということで悩んでいた。
 あきらめればいいのだが、たぶん絶対もうかるという誘惑が彼を離さない。
 というか、領地にアメリアの書いた作り方を書き写して、実験してみろと命じてしまった。
 どうしようどうしようどうしよう。
 よくできた娘だと思っていたが、実際できた娘だが、こんな時は恨めしくなってしまう。
 将来の布石を無駄にしても、誘惑に乗ってしまう自分をわかっていたからなおさら。
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