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破綻のない世界の崩壊
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アメリアの家族に関しては、スティーブンの評判はすこぶるよかった。
母曰く。
「そりゃデビュタントしたその年に結婚が決まることは珍しいわよ、でもね、二年目までは余裕でも、三年目では顔引きつらせて結婚相手を探さなきゃだし、四年目となると初婚の相手を見つけるにはよっぽど運が良くないと無理よ、だとすれば良さそうなのは早めにキープしておくべきよ」
一、二年の差で結婚相手に相当な差ができてしまう厳しい社交界の現実を伝えてくれる。
むろんアメリアとしても悪い縁談だと思っていない、見栄えもそこそこいいし、年齢も五歳年上の二十歳、年回りも悪くない。
家も男爵家にしては裕福、ただし、結婚後は領地、ちょっと田舎に引き籠っていなければならない、これがネックといえばネックだが、流通があまり発達していないこの世界、むしろ田舎のほうが生活が豊かな可能性もある。
瑕疵がなさすぎるのが一番の悩みだ。
ここまで瑕疵がないと何か裏があるのではないかと勘繰ってしまいそうになる。
両親はすでに下調べを終えているのでそんなことは全くないと断言しているし、そろそろスティーブンをアガサ男爵家に招待しようと話し合っている。
この招待で縁談が本決まりすることは疑いない。
「思ったより早く決まりましたね」
洗濯屋に出しに行った洗濯物を持ち帰りながらマリーが言う。
マリーは衣装係と兼任なのでマリーが忙しい日は外出ができない。
そのためアメリアは暇つぶしのレース編みなどをやっていた。
刺繍やレース編みなどの装飾品を作るのは貴婦人の嗜みだが、雑巾や衣服のほころびなどの実用的な手芸は使用人に任せるのがマナーだ。
いまいちこの常識はわからない。
雑巾は手芸初心者のバイエルだと思うのだが。
王宮内の社交場でもスティーブンと連れ立って歩いている姿を人に見られていたからかあまり声をかけてこない。
あちらも真面目な婚活者達だ。すでに唾付きされている相手に手を出すほど暇ではないのだろう。
アメリアは日傘片手にぼうっと庭園の池の傍らで水草を観察していた。
あちらではなにやら写生をしている女性がいる。
教養や特技を見せつけて相手を吊ろうとする涙ぐましい努力だ。
その女性を見てギクッとアメリアは肩を震わせた。
キャロルだ。
キャロルは眼鏡キャラ。そして知的で芸術家肌という設定だった。
アメリアは標準ではあるが、破綻がない、破綻のない美というものは印象に残らないといったのは誰だったか。
密に織られた麻布でできたキャンバスに指先を黒く染めながらクロッキーをしているキャロルに、声をかけたかどうか悩む。
基本的にヒロイン同士が同じ画面に現れることはなかった。
これはどうすればいいんだろう。そんなことを思いながらぼんやりと指先を動かすキャロルを見ていた。
「アメリア・アガサ、キャロル・カーマインでございますか」
いかにも謹厳実直という顔をした中年女性が声をかけてきた。
アメリアだけでなくキャロルにも。
「ユーフェミア様のお召しでございまし、心当たりございましょう」
ユーフェミアって、悪役令嬢ユーフェミア、ないそんなものない。
そう心中で叫びながらしかし硬直したように動けない。
対するキャロルは不思議そうな顔をして、アメリアと目の前の中年女性を見比べている。
「ユーフェミア様のお召しです」
断る口実など思いつかなかった。
母曰く。
「そりゃデビュタントしたその年に結婚が決まることは珍しいわよ、でもね、二年目までは余裕でも、三年目では顔引きつらせて結婚相手を探さなきゃだし、四年目となると初婚の相手を見つけるにはよっぽど運が良くないと無理よ、だとすれば良さそうなのは早めにキープしておくべきよ」
一、二年の差で結婚相手に相当な差ができてしまう厳しい社交界の現実を伝えてくれる。
むろんアメリアとしても悪い縁談だと思っていない、見栄えもそこそこいいし、年齢も五歳年上の二十歳、年回りも悪くない。
家も男爵家にしては裕福、ただし、結婚後は領地、ちょっと田舎に引き籠っていなければならない、これがネックといえばネックだが、流通があまり発達していないこの世界、むしろ田舎のほうが生活が豊かな可能性もある。
瑕疵がなさすぎるのが一番の悩みだ。
ここまで瑕疵がないと何か裏があるのではないかと勘繰ってしまいそうになる。
両親はすでに下調べを終えているのでそんなことは全くないと断言しているし、そろそろスティーブンをアガサ男爵家に招待しようと話し合っている。
この招待で縁談が本決まりすることは疑いない。
「思ったより早く決まりましたね」
洗濯屋に出しに行った洗濯物を持ち帰りながらマリーが言う。
マリーは衣装係と兼任なのでマリーが忙しい日は外出ができない。
そのためアメリアは暇つぶしのレース編みなどをやっていた。
刺繍やレース編みなどの装飾品を作るのは貴婦人の嗜みだが、雑巾や衣服のほころびなどの実用的な手芸は使用人に任せるのがマナーだ。
いまいちこの常識はわからない。
雑巾は手芸初心者のバイエルだと思うのだが。
王宮内の社交場でもスティーブンと連れ立って歩いている姿を人に見られていたからかあまり声をかけてこない。
あちらも真面目な婚活者達だ。すでに唾付きされている相手に手を出すほど暇ではないのだろう。
アメリアは日傘片手にぼうっと庭園の池の傍らで水草を観察していた。
あちらではなにやら写生をしている女性がいる。
教養や特技を見せつけて相手を吊ろうとする涙ぐましい努力だ。
その女性を見てギクッとアメリアは肩を震わせた。
キャロルだ。
キャロルは眼鏡キャラ。そして知的で芸術家肌という設定だった。
アメリアは標準ではあるが、破綻がない、破綻のない美というものは印象に残らないといったのは誰だったか。
密に織られた麻布でできたキャンバスに指先を黒く染めながらクロッキーをしているキャロルに、声をかけたかどうか悩む。
基本的にヒロイン同士が同じ画面に現れることはなかった。
これはどうすればいいんだろう。そんなことを思いながらぼんやりと指先を動かすキャロルを見ていた。
「アメリア・アガサ、キャロル・カーマインでございますか」
いかにも謹厳実直という顔をした中年女性が声をかけてきた。
アメリアだけでなくキャロルにも。
「ユーフェミア様のお召しでございまし、心当たりございましょう」
ユーフェミアって、悪役令嬢ユーフェミア、ないそんなものない。
そう心中で叫びながらしかし硬直したように動けない。
対するキャロルは不思議そうな顔をして、アメリアと目の前の中年女性を見比べている。
「ユーフェミア様のお召しです」
断る口実など思いつかなかった。
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