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第18話
暗雲漂う斎賀〈一〉
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「いや、あんた方が久しぶりの客ですよ。ここ最近、例の誘拐事件で客足がばったり途絶えちゃって、おかげで稼ぎは減るわ、変な噂は立つわでいい迷惑ですよ」
弱い六十の船頭が私達を乗せた船を漕ぎながらそうボヤいた。
「それで船があまりに余っていたのか……。15隻のうち使用されていたのはたったの2隻だったからな」
そう自身ありげに翠玲が船頭を指さした。
それに気づくと船頭は顎下の白い髭を触りながら関心する。
「ほぉ、よく見てますね。いや、お恥ずかしい。つい前まで観光客を乗せていたのが嘘のようですよ」
船頭がガハハと大口を開けて笑うと翠玲は得意げに鼻の下をこすった。
なんだかそれが無償に恥ずかしくてたまらなかった。
「あの、僕ら3人のために船を出していただいてありがとうございます」
2人の会話を耳にしていた凛月が改まって船頭に礼を言う。それに応えるように船頭が快く言葉を返した。
「とんでもない!礼を言うのはこちらの方ですよ。しかし、あんた方は大変な物好きですなぁ。あんな物騒な町、今じゃあ怖がってだれも近づきませんよ」
「あはは……、いろいろありまして……。できれば詮索はしないでいただけると助かります」
凛月の歯切れの悪い様子に船頭は目をパチクリさせていたが、すぐに理解した様子で微笑んだ。
「ほほほっ、わかりました。さあ、そろそろ見えてきましたよ。我々の目的地、斎賀です」
船頭が片手で右手側を指し、私達にそう告げた。私達3人は船から顔を出し初めて斎賀という町を目にした。
「あれが斎賀………」
不意に緊張感が込み上げ胸に手を当てた。
隣で翠玲は楽しそうに目を輝かせ、凛月は気を引き締めているように見えた。
船が港に着いた後、私達は船頭と別れを交わし無事正門までたどり着いた。
正門の前ではひとりの門番らしき男性が立っており私達に気づくと手のひらを出し話しかけてきた。
「お客さん、通行証はあるかい?」
通行証という名前を耳にし私は一瞬にして表情が凍りついた。
やばい、通行証‼︎ すっかり忘れていたわ⁉︎
他国の町なんて赴いたことないから全然気がつかなかった。きっとふたりも今頃………
「翠玲」
「承知した!」
凛月に促され翠玲が鞄から通行証を取り出し少年に渡した。
その光景に私は目を疑ってしまいあんぐりと口を開けた。
「はい、確かに。では、どうぞお通りください」
門番に促され私達3人は前代未聞の地に足を踏み入れた。
入り口から少し進んだ後、浮かない顔をしている私に気づき凛月が声をかけてきた。
「蓮花さん、どうかしましたか?まさか気分でも……」
「いえ、違うんです!」
不意に顔を上げ必死に両手を左右に振り否定した。要らぬ心配をかけてしまったことを反省し、気になっていたことを口にしてみた。
「その通行証どうしたんですか?」
「ん?ああ、実は前々から申請していたのですが、思いのほか時間がかかってしまいまして。ついこの間役所から返事があり翠玲に受け取りに行ってもらったんです」
凛月の口から翠玲の名前が飛び出しようやくこの前のことが腑に落ちた。
私はてっきり翠玲が遊びに出かけたのだと思っていたのだ。
ちらっと目線を送ると何も知らない翠玲は不思議そうに首を傾げていた。
弱い六十の船頭が私達を乗せた船を漕ぎながらそうボヤいた。
「それで船があまりに余っていたのか……。15隻のうち使用されていたのはたったの2隻だったからな」
そう自身ありげに翠玲が船頭を指さした。
それに気づくと船頭は顎下の白い髭を触りながら関心する。
「ほぉ、よく見てますね。いや、お恥ずかしい。つい前まで観光客を乗せていたのが嘘のようですよ」
船頭がガハハと大口を開けて笑うと翠玲は得意げに鼻の下をこすった。
なんだかそれが無償に恥ずかしくてたまらなかった。
「あの、僕ら3人のために船を出していただいてありがとうございます」
2人の会話を耳にしていた凛月が改まって船頭に礼を言う。それに応えるように船頭が快く言葉を返した。
「とんでもない!礼を言うのはこちらの方ですよ。しかし、あんた方は大変な物好きですなぁ。あんな物騒な町、今じゃあ怖がってだれも近づきませんよ」
「あはは……、いろいろありまして……。できれば詮索はしないでいただけると助かります」
凛月の歯切れの悪い様子に船頭は目をパチクリさせていたが、すぐに理解した様子で微笑んだ。
「ほほほっ、わかりました。さあ、そろそろ見えてきましたよ。我々の目的地、斎賀です」
船頭が片手で右手側を指し、私達にそう告げた。私達3人は船から顔を出し初めて斎賀という町を目にした。
「あれが斎賀………」
不意に緊張感が込み上げ胸に手を当てた。
隣で翠玲は楽しそうに目を輝かせ、凛月は気を引き締めているように見えた。
船が港に着いた後、私達は船頭と別れを交わし無事正門までたどり着いた。
正門の前ではひとりの門番らしき男性が立っており私達に気づくと手のひらを出し話しかけてきた。
「お客さん、通行証はあるかい?」
通行証という名前を耳にし私は一瞬にして表情が凍りついた。
やばい、通行証‼︎ すっかり忘れていたわ⁉︎
他国の町なんて赴いたことないから全然気がつかなかった。きっとふたりも今頃………
「翠玲」
「承知した!」
凛月に促され翠玲が鞄から通行証を取り出し少年に渡した。
その光景に私は目を疑ってしまいあんぐりと口を開けた。
「はい、確かに。では、どうぞお通りください」
門番に促され私達3人は前代未聞の地に足を踏み入れた。
入り口から少し進んだ後、浮かない顔をしている私に気づき凛月が声をかけてきた。
「蓮花さん、どうかしましたか?まさか気分でも……」
「いえ、違うんです!」
不意に顔を上げ必死に両手を左右に振り否定した。要らぬ心配をかけてしまったことを反省し、気になっていたことを口にしてみた。
「その通行証どうしたんですか?」
「ん?ああ、実は前々から申請していたのですが、思いのほか時間がかかってしまいまして。ついこの間役所から返事があり翠玲に受け取りに行ってもらったんです」
凛月の口から翠玲の名前が飛び出しようやくこの前のことが腑に落ちた。
私はてっきり翠玲が遊びに出かけたのだと思っていたのだ。
ちらっと目線を送ると何も知らない翠玲は不思議そうに首を傾げていた。
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