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第14話
寡黙な青年
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「……重い、重過ぎる!」
天候に恵まれた休日、私はひとり両手に結構な量の荷物を引っさげて不満を漏らしていた。
今私は西の町〈青蘭〉の中華街に来ている。
なぜそうなったのかというとーーーーーー
ほんの数時間前、せっかくの休みをどう過ごそうかと私は部屋でくつろいでいた。
そんな中、急に凛月が部屋に入ってきて私に買い出しを頼んできたというわけだ。
青蘭では月に一度中華街通りで市が開かれる。
なんでもその日は普段では食べられないような屋台が多く出店するそうで、その為だけに観光客も押し寄せるほど評判が良い。
凛月さんには世話になっているし丁度暇を持て余していたので私は快く頼みを引き受けることにした。
だが今となってはとても後悔している。
なにせ荷物が多い!3人でこれだけの量………。---どんだけ食べるんだあのふたり。
「--っていうか、翠玲はどこに行ったんだよ⁉︎」
朝起きた時には既に翠玲の姿はなく、朝食の時間になっても戻ってこなかった。あの翠玲が凛月の料理を抜くなんて尋常じゃない。
何か理由でもあるのだろうか?
ええい‼︎ 今はそんなことどうでもいい。
私は頭を左右に振り現在直面している問題に向き合った。
「--さてと、これからどうするかな。流石に歩いて帰のは……ん?」
頭を悩ませていた時、遠くから大勢の客を乗せた辻馬車がこちらに向かってくるのが見えた。
私は指をパチンと鳴らし、近づいてくる辻馬車に手を振って合図する。
「ラッキー!私ってばついてる。お~い!」
御者が私に気づき辻馬車を止める。そしていくつか私に質問をしてきた。
「あんた、ひとりかい?行き先は?今日は乗客が多いから相席になるが」
「え⁉︎ ……あ、はい!良郭の商業街までお願いします。あの、荷物はどうしたら……」
「ああ、そこの上げ棚に乗せていいから。早く適当に座って、もう動かすから」
「は、はい!」
御者に急かされ私はすぐに乗り込み荷物を上げ棚に置いた。
車内は思っていたより広く大勢の乗客が話に花を咲かせている。生まれて初めて辻馬車を目にした私は思わず浮かれてしまう。
私はキョロキョロと辺りを見回し比較的声をかけやすそうな人を選ぶことにした。
そんな時、偶然右側の後部座席に座る男性が目に入り私は思わず息を呑んだ。
長い漆黒の髪を後ろでおだんごにまとめ上げ残りの髪を肩のラインまで落としている。
服の上からでもわかるスタイルの良い引き締まった身体はひょっとすると私よりも細いのではないか。
外見に恵まれたその男性は儚げに外の景色を眺めていた。
緊張しながらも私は勇気を出してその男性に声をかけてみることにした。
「あの、すみません。隣いいですか?」
私の呼びかけに男性は面倒臭そうに視線を窓の外から外し私に顔を向けた。しかし男性は何も言わず再び窓の外に視線を戻した。
あまりに予想外の反応だったのでしばらく理解が追いつかなかったが、私はようやく確信した。
私………無視されてる~⁉︎
あまりにもショッキングな出来事に心が折れそうになるが、私は負けじと男性に食らいつこうとした。
しかし次の瞬間、私は彼の行動に目を丸くすることになる。
不意に男性は自分の脇に置いていた荷物を自身の膝の上に乗せたのだ。
それが男性の返事だと気づくのに少し時間がかかった。
な、なんともわかりにくい!何なんだこの人⁉︎
「--ありがとうございます」
ムズムズする衝動を必死に抑えながら私は男性の厚意を素直に受け取ることにした。
隣り合って座ることになった私と男性の間にはしばらく気不味い時間が流れていた。
う………、非常に気まずい。こういう時って何か話した方がいいのかな?ええっと、誰にでも共通する話題といえば……(汗)
「いや~、それにしても良い天気ですね!--ってあれ?ね、寝てるし……」
勇気を出して話題を振ってみたものの、気づくと男性は腕を組んで眠っていた。
「はあ、なんか私……馬鹿……みたい……」
安心したのか、それとも人混みにもまれて疲れたからだろうか。
気持ちよさそうに眠る男性につられて私もついうたた寝をしてしまっていた。
約1時間後、馬車は良郭に到着した。私が降りる頃にはほとんど乗客が残っていなかった。
そして何の偶然か、隣りに座っていた男性も目的地は良郭だったらしく、私の後に続いて下車した。
男性はお金を払うとさっさとどこかに消えてしまった。
結局男性は最後まで一言も話さないどころか愛想すらも見せなかった。
私は男性の後ろ姿を見つめながらボソッと呟くのだった。
「--変な奴」
天候に恵まれた休日、私はひとり両手に結構な量の荷物を引っさげて不満を漏らしていた。
今私は西の町〈青蘭〉の中華街に来ている。
なぜそうなったのかというとーーーーーー
ほんの数時間前、せっかくの休みをどう過ごそうかと私は部屋でくつろいでいた。
そんな中、急に凛月が部屋に入ってきて私に買い出しを頼んできたというわけだ。
青蘭では月に一度中華街通りで市が開かれる。
なんでもその日は普段では食べられないような屋台が多く出店するそうで、その為だけに観光客も押し寄せるほど評判が良い。
凛月さんには世話になっているし丁度暇を持て余していたので私は快く頼みを引き受けることにした。
だが今となってはとても後悔している。
なにせ荷物が多い!3人でこれだけの量………。---どんだけ食べるんだあのふたり。
「--っていうか、翠玲はどこに行ったんだよ⁉︎」
朝起きた時には既に翠玲の姿はなく、朝食の時間になっても戻ってこなかった。あの翠玲が凛月の料理を抜くなんて尋常じゃない。
何か理由でもあるのだろうか?
ええい‼︎ 今はそんなことどうでもいい。
私は頭を左右に振り現在直面している問題に向き合った。
「--さてと、これからどうするかな。流石に歩いて帰のは……ん?」
頭を悩ませていた時、遠くから大勢の客を乗せた辻馬車がこちらに向かってくるのが見えた。
私は指をパチンと鳴らし、近づいてくる辻馬車に手を振って合図する。
「ラッキー!私ってばついてる。お~い!」
御者が私に気づき辻馬車を止める。そしていくつか私に質問をしてきた。
「あんた、ひとりかい?行き先は?今日は乗客が多いから相席になるが」
「え⁉︎ ……あ、はい!良郭の商業街までお願いします。あの、荷物はどうしたら……」
「ああ、そこの上げ棚に乗せていいから。早く適当に座って、もう動かすから」
「は、はい!」
御者に急かされ私はすぐに乗り込み荷物を上げ棚に置いた。
車内は思っていたより広く大勢の乗客が話に花を咲かせている。生まれて初めて辻馬車を目にした私は思わず浮かれてしまう。
私はキョロキョロと辺りを見回し比較的声をかけやすそうな人を選ぶことにした。
そんな時、偶然右側の後部座席に座る男性が目に入り私は思わず息を呑んだ。
長い漆黒の髪を後ろでおだんごにまとめ上げ残りの髪を肩のラインまで落としている。
服の上からでもわかるスタイルの良い引き締まった身体はひょっとすると私よりも細いのではないか。
外見に恵まれたその男性は儚げに外の景色を眺めていた。
緊張しながらも私は勇気を出してその男性に声をかけてみることにした。
「あの、すみません。隣いいですか?」
私の呼びかけに男性は面倒臭そうに視線を窓の外から外し私に顔を向けた。しかし男性は何も言わず再び窓の外に視線を戻した。
あまりに予想外の反応だったのでしばらく理解が追いつかなかったが、私はようやく確信した。
私………無視されてる~⁉︎
あまりにもショッキングな出来事に心が折れそうになるが、私は負けじと男性に食らいつこうとした。
しかし次の瞬間、私は彼の行動に目を丸くすることになる。
不意に男性は自分の脇に置いていた荷物を自身の膝の上に乗せたのだ。
それが男性の返事だと気づくのに少し時間がかかった。
な、なんともわかりにくい!何なんだこの人⁉︎
「--ありがとうございます」
ムズムズする衝動を必死に抑えながら私は男性の厚意を素直に受け取ることにした。
隣り合って座ることになった私と男性の間にはしばらく気不味い時間が流れていた。
う………、非常に気まずい。こういう時って何か話した方がいいのかな?ええっと、誰にでも共通する話題といえば……(汗)
「いや~、それにしても良い天気ですね!--ってあれ?ね、寝てるし……」
勇気を出して話題を振ってみたものの、気づくと男性は腕を組んで眠っていた。
「はあ、なんか私……馬鹿……みたい……」
安心したのか、それとも人混みにもまれて疲れたからだろうか。
気持ちよさそうに眠る男性につられて私もついうたた寝をしてしまっていた。
約1時間後、馬車は良郭に到着した。私が降りる頃にはほとんど乗客が残っていなかった。
そして何の偶然か、隣りに座っていた男性も目的地は良郭だったらしく、私の後に続いて下車した。
男性はお金を払うとさっさとどこかに消えてしまった。
結局男性は最後まで一言も話さないどころか愛想すらも見せなかった。
私は男性の後ろ姿を見つめながらボソッと呟くのだった。
「--変な奴」
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