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第七話
最初の未知との遭遇
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(そういえば、このフォカッチャもヘルメスが宿泊している宿で出されていたな。)
両親と共に朝食を取っていたマリセウスはふと思い出す。
いつもはパサついているフォカッチャをクルトン代わりにしてスープに付けて食べているそれだが、本日のはこの日に合わせてだろうかもっちりと仕上がっている。今日はチーズと合うなと父はサラダから適当な野菜を選んでサンドして頬張る。
エヴァルマー家の朝食パンはシェフの気まぐれ、フォカッチャだってその日によって食感が異なるし、何かが混ざっているときもある。固形の小さなチーズが入っているのが今のところ我が家では一番の人気。
(ヘルメスにも、早く我が家のフォカッチャを食べてもらいたいな……。)
そんな事を思っているので少し笑みを溢したのを両親は見逃さなかった。
あれだけ妃教育や座学などを身につけてからと鬼の形相でアレコレ説得していた息子が、婚約者に会える上に月末には結婚するのだ。不機嫌な顔つきはその翌日には無くなっていたし、やはり惚れている相手と結ばれることで嬉しい気持ちを抑えられていないのだと察した。だが敢えて口にしない、また怒ると面倒だし。
「さて、今日の政務は昼までに片付けるとするか。マリセウス、そちらの進捗は?」
「はい。外交官らの報告書の確認と今後の方針の打ち合わせ、チィルサキ領のインフラ整備の予算案、あとは各窓口からの申請の可否の以上です。……しかし、私に外交の一部を任せてもよろしいのですか?」
「構わん。あと数年したら退位せにゃならん。今のうちに少しずつ任せてやらねばな。」
グリーングラス商会会頭も務めているマリセウスだが、交易をしている事もあってか外交などの政務は任されていないのは周知の事実。しかしそれを商売に用いないと判断したデュランは、結婚を機に少しずつ息子に外交も任せていこうと決めたのだ。
異国の商人とのノウハウが培っているため、意外にもすんなりと知識やコツをマスターしたのは驚いた。
「それでは、昼にはカートン嬢との謁見がある。時が来たら呼ぶ、それまで政務をこなしていてくれ。」
「はっ。」
食堂から離席したマリセウスは外邸の自分の執務室まで足を早める。今日の天候は快晴、宮殿近くの海岸から聞こえてくる波も穏やかだ。風もさほどなく外邸までの渡り廊下から見える庭園の花々も愛らしく彩られている。
(この光景も、早くヘルメスに見せたいものだ。)
帰宅して暫く、気がつけば生活の一部に「ヘルメスに見せたい」と所々思うようになっていた。今まで何気なく過ごしてきた日常だが、この三日間は不思議なことにそれらの輪郭が綺麗に浮き上がっているように見えている。あの日、ヘルメスと出会って自分自身が変化したときも世界の見え方が大きく変わった。その日をまた体感している……心が変われば見え方も変わるのだ。改めてマリセウスはそう思った。
程なくして執務室に到着し、側近数人とネビルを交えて今日の予定の打ち合わせをして午前中に切り上げるよう目指す。
「ところで殿下。例のライドレールですが、予定より十五分ほど遅れての帝国出発となったそうです。」
「十五分もか?」
「ええ。こちらの変電所から帝国出発の信号を受け取ったので間違いないかと。……何も問題はないそうですが。」
と、ネビルの心配そうな顔を見てひとつ思い出した。
あのライドレールは魔法石……雷石をふんだんに使われている上に帝国の科学力と王国の神秘が結集した代物だ。
ので、あの好奇心と情熱で動く愛しい人には黙っていた。事前に知ってしまったら絶対に夜更かしをする、過去の文献を漁る、自分の推論を組み立てて原理を知ろうとする……そんな心配もあるので、シグルドには直前まで口にしないよう伝えた。その結果、
「問題ない。恐らくだが、我が婚約者がライドレールの仕組みや原理が知りたくて機関部を見せてほしいと駄々をこねてしまい、なんとか宥めて乗車させたから遅れたのだろう。」
「え?わ、わかるのですか?」
「まぁ……一週間しか過ごしていないが、彼女ならやりそうかなという予想だ。だがきっとシグルドが寝坊したに違いないよ。」
騎士団長殿ならやりかねませんね、はははっ。とネビルは笑って返して。マリセウス的には半分当たっていたら怖いとは、この時思っていた。
*****
「いやさ、話には聞いてたけども。本当に魔法石が絡むと人変わるね、ヘルメスちゃん。」
マリセウスの予想を呟いた同時刻。ライドレール車内にいる人間は肩で息をしているものが大半を占めていた。
というのも、ヘルメスが危うく線路内に飛び込もうとしていたりライドレールの機関部を見せてほしいと頭を下げまくっていたり、運転席を覗かせてほしいと駄々をこねてしまい、ついに騎士達に力づくで乗車させたのだ。
なんとか宥めさせようとするも、好奇心に火がついてしまいキリコも抑えに回るもなかなか大人しくならず、ジークはやむ終えずマリセウスから預かったライドレールの設計図(複製)を手渡して、「マリセウス王太子殿下もこの開発に携わっているので詳細も存じてますよ。」と言うと、設計図を食い入るように見つめて気になったところを書き込み出したその様子を見て、ようやく落ち着いたので発車したのだった。実に十五分遅れ、マリセウスの予想は的中してしまった。
「はい……お嬢様は幼い頃から魔法石に関する知識だけは貪欲でして……本当に申し訳ありません。」
「まぁそういう所に殿下は惚れたのでしょうね。」
惚れる要素がわからん、シグルドは思った事を口にするタイプの男だがこれは言わないでおこうと口をつぐんだ。
そんな渦中のヘルメスは「ここの部分も知りたい」「このパンダクラフト?というのはなんだろう」「車輪が小さいのにこの積載量で本当に走れるのか」などとブツクサ言いながら、マリセウスや開発者に聞きたいことをまとめている。それからマジマジと設計図を見つめてようやく満足した頃に、ヘルメスの理性がやっと戻ってきた。
「あれ?キリコ、なんだか疲れてない?」
「あ……はい、お嬢様を乗せるのに結構体力を使ったので。」
「え?……はっ!!い、いつの間にライドレールに乗っている!?何が起きたの?」
「マジか。」
シグルドがそう零すと、それまでの行動をようやく思い出して、絞り出すような声でその場にいた全員に何度も頭を下げて謝罪した。頭を抱えて深いため息を吐くその姿は自分自身にかなり落胆しているように見えた。
なんというか、良くも悪くも素直な子だなぁー……と騎士たちはそんな印象を受けた。
がっくりと元気が一気になくなったヘルメスを心配したキリコは話題を変えようと思い、座席のすぐ横の窓を見た。
「そ、それにしても本当に動いているのですか?さっきから真っ暗ですし揺れてませんし……。」
揺れていない理由はヘルメスはなんとなくわかっていた。
ライドレールの原動力は線路に込められているエレキテル。それをこの列車(列を成して繋がる車を略称したものと設計図にも書き込まれていた)の機関部が吸い上げて戻す……まるで水車のような構造で動かすためには、線路には凹凸があってはいけない。ので馬車に比べたら全く揺れはないのだろう。
「揺れてない理由は俺にはわかンねぇが、まぁ暗いのは少しだけの間だ。このライドレールは実のところ、そこそこ騒音がする。それを防音するためには長いトンネルを走る必要があるからな。」
揺れていないなら騒音がするイメージはなさそうだが……と思ったが、恐らくは電流や雷石が発動している音はそれなりにするのだろうと。どんな音がするのかも聴いてみたいが、次にその機会が与えられるかは不明である。
そうぼんやり窓を見つめていると、それまで素早く通り過ぎていく光石の灯りとは別の光が上から差し込んでくる。暗いそれがどんどんと窓の下へ降りていくと、それは完全になくなった。
無くなった暗闇の代わりに映し出されたのは、雲の少ない青い空とそれに向かって伸びているような高さを誇る、メルキア帝国エンディオ王城。しかもほぼその全容が見えている。
それを見たヘルメスとキリコは大変驚いて、思わず声を上げた。しかも城下町も見渡せて、歩いている人々も小さく見える。城下町から長い距離にあるエンディオ湾の港もあっという間に通過して、そして瞬きする間に国境を超えて神海王国ハンクスに入国する。
「え……三日ぐらいかかる距離を、一瞬で?」
「これが叡智……!どうやってこの速度を実現させたのかすごい気になる……!!使われている魔法石の数と関係あるのかな?いやそれだとコストパフォーマンスがあまりよくない、どこかで上手く電流を増減を調整させているのかもしれない!だけどもこの鉄の塊、重さを動かす力はどうやって、」
「お、お嬢様!落ち着いて落ち着いて!!」
また興奮し出したヘルメスはハッと正気を取り戻した。ああいけないいけないと、進行方向とは逆の方を見ると景色がどんどん遠ざかって行くのがよくわかる。
線路は高い橋のようなものの上に作られており、橋桁は水面に浸かっている。……水面?
ヘルメス達が腰をかけているのは陸地の見える風景側。エンディオ湾の港も見えて、国境も兼ねているそれを超えた。もしかして、と思って車内通路の反対側の席の窓を見ると、そこは綺麗な地平線が見られた。つまり、
「わぁあ!海だーっ!」
果てしなく広くて青く、波もさほどなく船が点在しながら各々の進路を取り、帆に風を受けて海に漂っている。
ヘルメスは人生で初めて海を目にして、太陽の光が反射する海面のように目を輝かせて食い入るように見つめた。
あの地平線の向こうには見たことがない大陸や島がたくさんある。その島には国もあるだろう、きっとハンクスとも外交をするだろう。どんな未知が待っているのだろうと思うと同時に、この広さに比べたら人一人はなんて小さいのだろうとも不思議なことに達観した思いもよぎった。
そんな大きな事を考えたら、これから先の不安なんて一つ一つ確実にやっていけば解決出来そうだとヘルメスは前向きになったのだ。
「……娘がいたらこんな感じなのかな。」
「孫娘がいるでしょアンタ。」
「いるけど息子がこれだもの。」
そんな純粋な王太子妃になる女性を見たシグルドとジークはそう零し、「確かに娘がいたらこんな素直な子がいいなぁ」と騎士達は心から思った。
両親と共に朝食を取っていたマリセウスはふと思い出す。
いつもはパサついているフォカッチャをクルトン代わりにしてスープに付けて食べているそれだが、本日のはこの日に合わせてだろうかもっちりと仕上がっている。今日はチーズと合うなと父はサラダから適当な野菜を選んでサンドして頬張る。
エヴァルマー家の朝食パンはシェフの気まぐれ、フォカッチャだってその日によって食感が異なるし、何かが混ざっているときもある。固形の小さなチーズが入っているのが今のところ我が家では一番の人気。
(ヘルメスにも、早く我が家のフォカッチャを食べてもらいたいな……。)
そんな事を思っているので少し笑みを溢したのを両親は見逃さなかった。
あれだけ妃教育や座学などを身につけてからと鬼の形相でアレコレ説得していた息子が、婚約者に会える上に月末には結婚するのだ。不機嫌な顔つきはその翌日には無くなっていたし、やはり惚れている相手と結ばれることで嬉しい気持ちを抑えられていないのだと察した。だが敢えて口にしない、また怒ると面倒だし。
「さて、今日の政務は昼までに片付けるとするか。マリセウス、そちらの進捗は?」
「はい。外交官らの報告書の確認と今後の方針の打ち合わせ、チィルサキ領のインフラ整備の予算案、あとは各窓口からの申請の可否の以上です。……しかし、私に外交の一部を任せてもよろしいのですか?」
「構わん。あと数年したら退位せにゃならん。今のうちに少しずつ任せてやらねばな。」
グリーングラス商会会頭も務めているマリセウスだが、交易をしている事もあってか外交などの政務は任されていないのは周知の事実。しかしそれを商売に用いないと判断したデュランは、結婚を機に少しずつ息子に外交も任せていこうと決めたのだ。
異国の商人とのノウハウが培っているため、意外にもすんなりと知識やコツをマスターしたのは驚いた。
「それでは、昼にはカートン嬢との謁見がある。時が来たら呼ぶ、それまで政務をこなしていてくれ。」
「はっ。」
食堂から離席したマリセウスは外邸の自分の執務室まで足を早める。今日の天候は快晴、宮殿近くの海岸から聞こえてくる波も穏やかだ。風もさほどなく外邸までの渡り廊下から見える庭園の花々も愛らしく彩られている。
(この光景も、早くヘルメスに見せたいものだ。)
帰宅して暫く、気がつけば生活の一部に「ヘルメスに見せたい」と所々思うようになっていた。今まで何気なく過ごしてきた日常だが、この三日間は不思議なことにそれらの輪郭が綺麗に浮き上がっているように見えている。あの日、ヘルメスと出会って自分自身が変化したときも世界の見え方が大きく変わった。その日をまた体感している……心が変われば見え方も変わるのだ。改めてマリセウスはそう思った。
程なくして執務室に到着し、側近数人とネビルを交えて今日の予定の打ち合わせをして午前中に切り上げるよう目指す。
「ところで殿下。例のライドレールですが、予定より十五分ほど遅れての帝国出発となったそうです。」
「十五分もか?」
「ええ。こちらの変電所から帝国出発の信号を受け取ったので間違いないかと。……何も問題はないそうですが。」
と、ネビルの心配そうな顔を見てひとつ思い出した。
あのライドレールは魔法石……雷石をふんだんに使われている上に帝国の科学力と王国の神秘が結集した代物だ。
ので、あの好奇心と情熱で動く愛しい人には黙っていた。事前に知ってしまったら絶対に夜更かしをする、過去の文献を漁る、自分の推論を組み立てて原理を知ろうとする……そんな心配もあるので、シグルドには直前まで口にしないよう伝えた。その結果、
「問題ない。恐らくだが、我が婚約者がライドレールの仕組みや原理が知りたくて機関部を見せてほしいと駄々をこねてしまい、なんとか宥めて乗車させたから遅れたのだろう。」
「え?わ、わかるのですか?」
「まぁ……一週間しか過ごしていないが、彼女ならやりそうかなという予想だ。だがきっとシグルドが寝坊したに違いないよ。」
騎士団長殿ならやりかねませんね、はははっ。とネビルは笑って返して。マリセウス的には半分当たっていたら怖いとは、この時思っていた。
*****
「いやさ、話には聞いてたけども。本当に魔法石が絡むと人変わるね、ヘルメスちゃん。」
マリセウスの予想を呟いた同時刻。ライドレール車内にいる人間は肩で息をしているものが大半を占めていた。
というのも、ヘルメスが危うく線路内に飛び込もうとしていたりライドレールの機関部を見せてほしいと頭を下げまくっていたり、運転席を覗かせてほしいと駄々をこねてしまい、ついに騎士達に力づくで乗車させたのだ。
なんとか宥めさせようとするも、好奇心に火がついてしまいキリコも抑えに回るもなかなか大人しくならず、ジークはやむ終えずマリセウスから預かったライドレールの設計図(複製)を手渡して、「マリセウス王太子殿下もこの開発に携わっているので詳細も存じてますよ。」と言うと、設計図を食い入るように見つめて気になったところを書き込み出したその様子を見て、ようやく落ち着いたので発車したのだった。実に十五分遅れ、マリセウスの予想は的中してしまった。
「はい……お嬢様は幼い頃から魔法石に関する知識だけは貪欲でして……本当に申し訳ありません。」
「まぁそういう所に殿下は惚れたのでしょうね。」
惚れる要素がわからん、シグルドは思った事を口にするタイプの男だがこれは言わないでおこうと口をつぐんだ。
そんな渦中のヘルメスは「ここの部分も知りたい」「このパンダクラフト?というのはなんだろう」「車輪が小さいのにこの積載量で本当に走れるのか」などとブツクサ言いながら、マリセウスや開発者に聞きたいことをまとめている。それからマジマジと設計図を見つめてようやく満足した頃に、ヘルメスの理性がやっと戻ってきた。
「あれ?キリコ、なんだか疲れてない?」
「あ……はい、お嬢様を乗せるのに結構体力を使ったので。」
「え?……はっ!!い、いつの間にライドレールに乗っている!?何が起きたの?」
「マジか。」
シグルドがそう零すと、それまでの行動をようやく思い出して、絞り出すような声でその場にいた全員に何度も頭を下げて謝罪した。頭を抱えて深いため息を吐くその姿は自分自身にかなり落胆しているように見えた。
なんというか、良くも悪くも素直な子だなぁー……と騎士たちはそんな印象を受けた。
がっくりと元気が一気になくなったヘルメスを心配したキリコは話題を変えようと思い、座席のすぐ横の窓を見た。
「そ、それにしても本当に動いているのですか?さっきから真っ暗ですし揺れてませんし……。」
揺れていない理由はヘルメスはなんとなくわかっていた。
ライドレールの原動力は線路に込められているエレキテル。それをこの列車(列を成して繋がる車を略称したものと設計図にも書き込まれていた)の機関部が吸い上げて戻す……まるで水車のような構造で動かすためには、線路には凹凸があってはいけない。ので馬車に比べたら全く揺れはないのだろう。
「揺れてない理由は俺にはわかンねぇが、まぁ暗いのは少しだけの間だ。このライドレールは実のところ、そこそこ騒音がする。それを防音するためには長いトンネルを走る必要があるからな。」
揺れていないなら騒音がするイメージはなさそうだが……と思ったが、恐らくは電流や雷石が発動している音はそれなりにするのだろうと。どんな音がするのかも聴いてみたいが、次にその機会が与えられるかは不明である。
そうぼんやり窓を見つめていると、それまで素早く通り過ぎていく光石の灯りとは別の光が上から差し込んでくる。暗いそれがどんどんと窓の下へ降りていくと、それは完全になくなった。
無くなった暗闇の代わりに映し出されたのは、雲の少ない青い空とそれに向かって伸びているような高さを誇る、メルキア帝国エンディオ王城。しかもほぼその全容が見えている。
それを見たヘルメスとキリコは大変驚いて、思わず声を上げた。しかも城下町も見渡せて、歩いている人々も小さく見える。城下町から長い距離にあるエンディオ湾の港もあっという間に通過して、そして瞬きする間に国境を超えて神海王国ハンクスに入国する。
「え……三日ぐらいかかる距離を、一瞬で?」
「これが叡智……!どうやってこの速度を実現させたのかすごい気になる……!!使われている魔法石の数と関係あるのかな?いやそれだとコストパフォーマンスがあまりよくない、どこかで上手く電流を増減を調整させているのかもしれない!だけどもこの鉄の塊、重さを動かす力はどうやって、」
「お、お嬢様!落ち着いて落ち着いて!!」
また興奮し出したヘルメスはハッと正気を取り戻した。ああいけないいけないと、進行方向とは逆の方を見ると景色がどんどん遠ざかって行くのがよくわかる。
線路は高い橋のようなものの上に作られており、橋桁は水面に浸かっている。……水面?
ヘルメス達が腰をかけているのは陸地の見える風景側。エンディオ湾の港も見えて、国境も兼ねているそれを超えた。もしかして、と思って車内通路の反対側の席の窓を見ると、そこは綺麗な地平線が見られた。つまり、
「わぁあ!海だーっ!」
果てしなく広くて青く、波もさほどなく船が点在しながら各々の進路を取り、帆に風を受けて海に漂っている。
ヘルメスは人生で初めて海を目にして、太陽の光が反射する海面のように目を輝かせて食い入るように見つめた。
あの地平線の向こうには見たことがない大陸や島がたくさんある。その島には国もあるだろう、きっとハンクスとも外交をするだろう。どんな未知が待っているのだろうと思うと同時に、この広さに比べたら人一人はなんて小さいのだろうとも不思議なことに達観した思いもよぎった。
そんな大きな事を考えたら、これから先の不安なんて一つ一つ確実にやっていけば解決出来そうだとヘルメスは前向きになったのだ。
「……娘がいたらこんな感じなのかな。」
「孫娘がいるでしょアンタ。」
「いるけど息子がこれだもの。」
そんな純粋な王太子妃になる女性を見たシグルドとジークはそう零し、「確かに娘がいたらこんな素直な子がいいなぁ」と騎士達は心から思った。
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