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第一話
紛れもなく、アレさ
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学院長に送られて去るつもりだったが、何やら来週の卒業式で変更があったのか少し離れると告げて別れた。待っている間に暫く学院内を従者と散策しているマリスは、さっきまでのやり取りを従者の彼に話した。マリスよりも若い金髪の男性だ。
「酷い男もいるものですね、女子生徒に醜女なんて。」
「多分、本当に教授よりも知識が豊富なのだろうな。きっと妬まれているだけかと思うが……まぁ客人を前に平気で悪口を言うなんて、人間がわかるってものさ。」
「それで、その女子生徒に鑑定していただくつもりですか?」
「うーん。興味はあるのだが……女子生徒だろう?いらない噂とか憶測が流れてしまうし、この後会う彼女に失礼だろう?ナタリアが居ればお願いして鑑定して貰えただろうが。」
「では、カートン伯爵領へ参る前に鑑定所に立ち寄りますか。」
「そうしようか、ジーク。」
二人は会話をしながらすれ違う学生たちに会釈をしてなんとなしに中庭に到着した。昼休みももうすぐ終わるとあってか、生徒達が校舎へと戻っていく流れに逆らってマリスはベンチに腰掛けた。「隣に座りなさい」とポンポンとベンチを叩くが、ジークと呼ばれた従者は「勤務中ですので」とやんわりと断られた。
マリスは箱を膝に置いて、その魔法石を取り出した。
本日は快晴。黒い魔法石は磨いているわけではなかったが、元が透明な石だったわけだからかそれに包まれているように見えるせいで日光で乱反射をしていた。
「だからさー!もうウチ来て残念会やろうよー!パジャマパーリィとかさー……。」
「ですから、お会いする前からさすがにそれは失礼でしょうに。主にその殿方に。」
「それにパジャマパーティーなら何をお話しするの?最近読んだ本とか?」
「ベティが連れて行ってくれたあの劇の思い出話とか?」
「あれすごかったよね。『私は前世でこの物語を読み倒した元読者!その物語の悪役となってしまう公爵令嬢に転生してしまったわ!死にたくないから回避しなきゃ!』って、まさかの転生する喜劇!」
「喜劇じゃなくってよ!でも確かに、最近は物語の登場人物に転生する脚本が流行っているようですし……どうして婚約者から婚約破棄された直後に死罪になるのがテンプレートになってしまったのかしら?」
「だけども婚約者も酷いよね、浮気したくせにっ眩しい!!」
中庭を横切っていたヘルメス達三人は、わいわいと賑やかに歩いていた所、マリスの手にしていた魔法石の反射光がヘルメスの目に入ってしまった。
もぉ~……と思いながら光の元を探っていると、ベンチに見慣れない男性二人を見つけた。従者のように動きやすい格好をした金髪の人と、もう一人はヘルメスの目を刺した光を反射させている物を持っていた。
あーなんだ魔法石かへぇー。と思って通り過ぎようとしていたが、何やら違和感を感じた。手にしていた魔法石は真っ黒で、おおよそ反射光をするにはまるで向いていない代物。「光石ならわかるけど黒い魔法石がなんで?」、歩みを止めたヘルメスはずっとその石を見つめた。
そのヘルメスに気がついたレイチェルとベティベルは「どうかなさったの?」と声をかけ、その声にマリスは熱視線を向けられる事に気がついた。
マリスは顔を上げて、視線を向けている女子生徒を見た。綺麗な黒髪は耳を全部見せるほど短く、向けている瞳は煌めく空色。マリスはその顔立ちと瞳を見て、思わず目を見開いて息を飲んだ。たった一瞬、視界に捉えただけでだ。
マリスは呼吸が止まった数秒、頭にある記憶が全て掘り返される。分厚い辞書を捲り、小さな単語を見つけるように丁寧に丁寧に。そして辿り着いたのはここへ来た理由となった、とても大切な約束と思い出が鮮明なビジョンになって、目の前の少女と重なった。
「貴女は……まさか、あの日」
「あぁあああっ!!!!千年黒光石だぁああああ!!!!」
マリスの感動に震える声は、ヘルメスの悲鳴のような歓声によって打ち消されてしまったのであった。
「酷い男もいるものですね、女子生徒に醜女なんて。」
「多分、本当に教授よりも知識が豊富なのだろうな。きっと妬まれているだけかと思うが……まぁ客人を前に平気で悪口を言うなんて、人間がわかるってものさ。」
「それで、その女子生徒に鑑定していただくつもりですか?」
「うーん。興味はあるのだが……女子生徒だろう?いらない噂とか憶測が流れてしまうし、この後会う彼女に失礼だろう?ナタリアが居ればお願いして鑑定して貰えただろうが。」
「では、カートン伯爵領へ参る前に鑑定所に立ち寄りますか。」
「そうしようか、ジーク。」
二人は会話をしながらすれ違う学生たちに会釈をしてなんとなしに中庭に到着した。昼休みももうすぐ終わるとあってか、生徒達が校舎へと戻っていく流れに逆らってマリスはベンチに腰掛けた。「隣に座りなさい」とポンポンとベンチを叩くが、ジークと呼ばれた従者は「勤務中ですので」とやんわりと断られた。
マリスは箱を膝に置いて、その魔法石を取り出した。
本日は快晴。黒い魔法石は磨いているわけではなかったが、元が透明な石だったわけだからかそれに包まれているように見えるせいで日光で乱反射をしていた。
「だからさー!もうウチ来て残念会やろうよー!パジャマパーリィとかさー……。」
「ですから、お会いする前からさすがにそれは失礼でしょうに。主にその殿方に。」
「それにパジャマパーティーなら何をお話しするの?最近読んだ本とか?」
「ベティが連れて行ってくれたあの劇の思い出話とか?」
「あれすごかったよね。『私は前世でこの物語を読み倒した元読者!その物語の悪役となってしまう公爵令嬢に転生してしまったわ!死にたくないから回避しなきゃ!』って、まさかの転生する喜劇!」
「喜劇じゃなくってよ!でも確かに、最近は物語の登場人物に転生する脚本が流行っているようですし……どうして婚約者から婚約破棄された直後に死罪になるのがテンプレートになってしまったのかしら?」
「だけども婚約者も酷いよね、浮気したくせにっ眩しい!!」
中庭を横切っていたヘルメス達三人は、わいわいと賑やかに歩いていた所、マリスの手にしていた魔法石の反射光がヘルメスの目に入ってしまった。
もぉ~……と思いながら光の元を探っていると、ベンチに見慣れない男性二人を見つけた。従者のように動きやすい格好をした金髪の人と、もう一人はヘルメスの目を刺した光を反射させている物を持っていた。
あーなんだ魔法石かへぇー。と思って通り過ぎようとしていたが、何やら違和感を感じた。手にしていた魔法石は真っ黒で、おおよそ反射光をするにはまるで向いていない代物。「光石ならわかるけど黒い魔法石がなんで?」、歩みを止めたヘルメスはずっとその石を見つめた。
そのヘルメスに気がついたレイチェルとベティベルは「どうかなさったの?」と声をかけ、その声にマリスは熱視線を向けられる事に気がついた。
マリスは顔を上げて、視線を向けている女子生徒を見た。綺麗な黒髪は耳を全部見せるほど短く、向けている瞳は煌めく空色。マリスはその顔立ちと瞳を見て、思わず目を見開いて息を飲んだ。たった一瞬、視界に捉えただけでだ。
マリスは呼吸が止まった数秒、頭にある記憶が全て掘り返される。分厚い辞書を捲り、小さな単語を見つけるように丁寧に丁寧に。そして辿り着いたのはここへ来た理由となった、とても大切な約束と思い出が鮮明なビジョンになって、目の前の少女と重なった。
「貴女は……まさか、あの日」
「あぁあああっ!!!!千年黒光石だぁああああ!!!!」
マリスの感動に震える声は、ヘルメスの悲鳴のような歓声によって打ち消されてしまったのであった。
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