208 / 241
ぐるぐるする
しおりを挟む
「えー……と、」
妙に気まずさの残る空間に、龍之介は話題を探して辺りを見回す。
目線に入ったのは時刻を知らせる時計で、そう言えば狼くん遅いなぁとつい独り言を漏らしてしまう。
「気になりますか?」
「まあ、そりゃ……今までこんなこと、あんまりなかったですから」
狼くんは余程のことがない限り、龍之介のそばを離れたりしない。レイノルドと会う時は例外的に席を外すが、それ以外の時間のほぼ全てを龍之介の隣で過ごしていた。その姿はまるで忠犬の様である。
(特に、あの誘拐の一件以降はそれが顕著だったんだけど…)
まあでも、狼くんも護衛騎士とはいえ軍属の一員である。龍之介の警護以外の仕事が入ることだって、そりゃ普通にあるだろう。
「本当にそう思いますか?……… 本当に?」
「へ……?」
またしても心の内を読んだかのようなエルヴィンの抜群のタイミングでの問いかけに、龍之介は思わず頓狂な声をあげる。視線が、合う。あれ?エルヴィンさんの目ってこんな色をしていたっけ?と不意に埒もない疑問が脳裏を掠めていく。
(あれ……髪の色も……こんな綺麗な水色だったっけ……?)
気付けば至近距離で見つめられていた。不自然な距離感であるにも関わらず、龍之介の思考は別のところを彷徨い続けている。視線が絡み合い、魅入られたように動けない。
ギシ、とソファの軋む音がした。あれ、いつの間にソファに座っていたんだろう?と龍之介は首を傾げる。傾げながらも別の意識ではエルヴィンからの視線を強く感じていた。睫毛が、長い。尋常じゃなく長い。瞳がまるで宝石みたいに輝いている。この色は、なんていう名前の色なんだろうか…?
(あれ………なんか、頭ぐるぐるするな……)
眩暈にも似た、意識の混濁。けれどそれは一瞬のことで、すぐに視界はエルヴィンの秀麗な顔で埋め尽くされる。こんな綺麗な顔見たことがない、と思った。レイノルドやスピネルを常日頃見ているはずの自分がこんな感想を抱くなんて、と思いながらも龍之介は目の前のエルヴィンにいつの間にか見惚れていた。そして完全にぼうっとしていた。
それ故に、自分の体がソファに深く沈み込んでいることにも気が付いていなかった。ただ魅入られたようにエルヴィンの瞳に見つめられ、熱に浮かされたように思考がぼやける。けれどそこに不快感はなく、むしろあるのは不思議な高揚感と僅かな焦燥で──……
(あ、…………眼鏡、してねえや…)
そんなことに今更ながらに気がついたその瞬間、唇にひんやりとした感触がした。
妙に気まずさの残る空間に、龍之介は話題を探して辺りを見回す。
目線に入ったのは時刻を知らせる時計で、そう言えば狼くん遅いなぁとつい独り言を漏らしてしまう。
「気になりますか?」
「まあ、そりゃ……今までこんなこと、あんまりなかったですから」
狼くんは余程のことがない限り、龍之介のそばを離れたりしない。レイノルドと会う時は例外的に席を外すが、それ以外の時間のほぼ全てを龍之介の隣で過ごしていた。その姿はまるで忠犬の様である。
(特に、あの誘拐の一件以降はそれが顕著だったんだけど…)
まあでも、狼くんも護衛騎士とはいえ軍属の一員である。龍之介の警護以外の仕事が入ることだって、そりゃ普通にあるだろう。
「本当にそう思いますか?……… 本当に?」
「へ……?」
またしても心の内を読んだかのようなエルヴィンの抜群のタイミングでの問いかけに、龍之介は思わず頓狂な声をあげる。視線が、合う。あれ?エルヴィンさんの目ってこんな色をしていたっけ?と不意に埒もない疑問が脳裏を掠めていく。
(あれ……髪の色も……こんな綺麗な水色だったっけ……?)
気付けば至近距離で見つめられていた。不自然な距離感であるにも関わらず、龍之介の思考は別のところを彷徨い続けている。視線が絡み合い、魅入られたように動けない。
ギシ、とソファの軋む音がした。あれ、いつの間にソファに座っていたんだろう?と龍之介は首を傾げる。傾げながらも別の意識ではエルヴィンからの視線を強く感じていた。睫毛が、長い。尋常じゃなく長い。瞳がまるで宝石みたいに輝いている。この色は、なんていう名前の色なんだろうか…?
(あれ………なんか、頭ぐるぐるするな……)
眩暈にも似た、意識の混濁。けれどそれは一瞬のことで、すぐに視界はエルヴィンの秀麗な顔で埋め尽くされる。こんな綺麗な顔見たことがない、と思った。レイノルドやスピネルを常日頃見ているはずの自分がこんな感想を抱くなんて、と思いながらも龍之介は目の前のエルヴィンにいつの間にか見惚れていた。そして完全にぼうっとしていた。
それ故に、自分の体がソファに深く沈み込んでいることにも気が付いていなかった。ただ魅入られたようにエルヴィンの瞳に見つめられ、熱に浮かされたように思考がぼやける。けれどそこに不快感はなく、むしろあるのは不思議な高揚感と僅かな焦燥で──……
(あ、…………眼鏡、してねえや…)
そんなことに今更ながらに気がついたその瞬間、唇にひんやりとした感触がした。
38
お気に入りに追加
1,628
あなたにおすすめの小説
異世界のオークションで落札された俺は男娼となる
mamaマリナ
BL
親の借金により俺は、ヤクザから異世界へ売られた。異世界ブルーム王国のオークションにかけられ、男娼婦館の獣人クレイに買われた。
異世界ブルーム王国では、人間は、人気で貴重らしい。そして、特に日本人は人気があり、俺は、日本円にして500億で買われたみたいだった。
俺の異世界での男娼としてのお話。
※Rは18です
【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。
mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】
別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。
市川先生の大人の補習授業
夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。
ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。
「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。
◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC)
※「*」がついている回は性描写が含まれております。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる