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ぐるぐるする

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「えー……と、」

妙に気まずさの残る空間に、龍之介は話題を探して辺りを見回す。
目線に入ったのは時刻を知らせる時計で、そう言えば狼くん遅いなぁとつい独り言を漏らしてしまう。

「気になりますか?」
「まあ、そりゃ……今までこんなこと、あんまりなかったですから」

狼くんは余程のことがない限り、龍之介のそばを離れたりしない。レイノルドと会う時は例外的に席を外すが、それ以外の時間のほぼ全てを龍之介の隣で過ごしていた。その姿はまるで忠犬の様である。

(特に、あの誘拐の一件以降はそれが顕著だったんだけど…)

まあでも、狼くんも護衛騎士とはいえ軍属の一員である。龍之介の警護以外の仕事が入ることだって、そりゃ普通にあるだろう。


「本当にそう思いますか?……… 本当に?」
「へ……?」

またしても心の内を読んだかのようなエルヴィンの抜群のタイミングでの問いかけに、龍之介は思わず頓狂な声をあげる。視線が、合う。あれ?エルヴィンさんの目ってこんな色をしていたっけ?と不意に埒もない疑問が脳裏を掠めていく。

(あれ……髪の色も……こんな綺麗な水色だったっけ……?)

気付けば至近距離で見つめられていた。不自然な距離感であるにも関わらず、龍之介の思考は別のところを彷徨い続けている。視線が絡み合い、魅入られたように動けない。

ギシ、とソファの軋む音がした。あれ、いつの間にソファに座っていたんだろう?と龍之介は首を傾げる。傾げながらも別の意識ではエルヴィンからの視線を強く感じていた。睫毛が、長い。尋常じゃなく長い。瞳がまるで宝石みたいに輝いている。この色は、なんていう名前の色なんだろうか…?

(あれ………なんか、頭ぐるぐるするな……)

眩暈にも似た、意識の混濁。けれどそれは一瞬のことで、すぐに視界はエルヴィンの秀麗な顔で埋め尽くされる。こんな綺麗な顔見たことがない、と思った。レイノルドやスピネルを常日頃見ているはずの自分がこんな感想を抱くなんて、と思いながらも龍之介は目の前のエルヴィンにいつの間にか見惚れていた。そして完全にぼうっとしていた。

それ故に、自分の体がソファに深く沈み込んでいることにも気が付いていなかった。ただ魅入られたようにエルヴィンの瞳に見つめられ、熱に浮かされたように思考がぼやける。けれどそこに不快感はなく、むしろあるのは不思議な高揚感と僅かな焦燥で──……



(あ、…………眼鏡、してねえや…)

そんなことに今更ながらに気がついたその瞬間、唇にひんやりとした感触がした。
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