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狼だって泣く
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「えっ、どっ、どうした…っ」
の?と聞く声は、思わずうわずってしまっていた。こんなに乱暴なことを彼からされた覚えがなかったからである。
しかも人型がとれて出会った頃の狼の姿になっていた。これはこれで可愛いけれど、いったい何が原因なのだろうか?龍之介は動揺しながらも狼くんを落ち着かせようと、出来るだけ宥めるような声で話しかける。
けれど狼くんから返事がかえってくることはなかった。
(どうしちゃったんだろ…)
話しかけるのをやめて、龍之介はただ狼くんを見上げる。人型をとらないと、やっぱり表情は読み取り難くなる。けれど、もう彼とも長い付き合いだ、なんとなく心の機微を察することくらいは出来る。
「…………落ち込んでるの?」
そう聞きながら、そっと頬に触れる。すると、絞り出すように狼くんが話しはじめた。
それはとても、苦しくて苦しくて堪らないといった、そんな気持ちが伝わってくるような口調であった。
「わかりません……何か、感情が……ぐちゃぐちゃで……」
「……最近、色々あったもんね」
「……はい、色々……色々ありました」
自分がどれだけ無力なのか、痛感しましたと狼くんは言う。
「王妃たちに拉致された時のこと言ってるなら、あれはエドのせいじゃないよ。あんなの多勢に無勢で、状況も特殊だったし…」
「いいえ、そんなのは言い訳にもなりません。事実ロジアン様は彼女たちの巣窟からあなたを救い出してみせた。それが全てです」
それ以前から、ろくに守れていなかったと狼くんは呟くように吐き捨てる。
毒を盛られたことに端を発した一連の細々とした嫌がらせの数々が、知らず知らずのうちにこんなにも彼を追いつめていたなんて、少しも気付いていなかった。
(そんなの、ちっとも気にすることないのに…)
けれどそう言ったところで彼は聞き届けないだろう。これは、他人がどうこう言って解決出来るような問題ではないのだ。
「俺は、エドがいてくれて良かったと思ってるよ」
「………………」
「それとももう嫌になった?俺の傍にいるの、飽き飽きした?」
ずるい聞き方をした。案の定狼くんは勢いよく首を横に振る。もしかしたら泣いているのだろうか?不安に襲われ龍之介は伺うように下から狼くんの顔を覗き込もうとする。が、それは結局上手くいかなかった。そのままきつく、抱きしめられてしまったからだ。
「…………先程、レイノルド様があなたに……色々しているところを見てしまった時、驚くほど動揺したんです。わかっていたことのはずなのに、信じられないくらいショックを受けた」
あなたはいずれ彼の元に帰っていく。そう理解していたつもりだったのに、急に怖くなってしまったんですと彼は言った。
「以前は物分かりのいいことを言いましたが、あんなのは嘘です。大嘘です。本当はこのままあなたを攫ってしまいたい。ずっとふたりきりで、ふたりだけで生きていきたい、他の誰にも、あなたを奪われたくない…ッ」
こんなことを言うつもりじゃなかったんですと狼くんは言った。
嗚咽は暫く止むことはなく、龍之介はただ彼の背中を撫で続けた。
彼が泣き止む、その瞬間まで。
の?と聞く声は、思わずうわずってしまっていた。こんなに乱暴なことを彼からされた覚えがなかったからである。
しかも人型がとれて出会った頃の狼の姿になっていた。これはこれで可愛いけれど、いったい何が原因なのだろうか?龍之介は動揺しながらも狼くんを落ち着かせようと、出来るだけ宥めるような声で話しかける。
けれど狼くんから返事がかえってくることはなかった。
(どうしちゃったんだろ…)
話しかけるのをやめて、龍之介はただ狼くんを見上げる。人型をとらないと、やっぱり表情は読み取り難くなる。けれど、もう彼とも長い付き合いだ、なんとなく心の機微を察することくらいは出来る。
「…………落ち込んでるの?」
そう聞きながら、そっと頬に触れる。すると、絞り出すように狼くんが話しはじめた。
それはとても、苦しくて苦しくて堪らないといった、そんな気持ちが伝わってくるような口調であった。
「わかりません……何か、感情が……ぐちゃぐちゃで……」
「……最近、色々あったもんね」
「……はい、色々……色々ありました」
自分がどれだけ無力なのか、痛感しましたと狼くんは言う。
「王妃たちに拉致された時のこと言ってるなら、あれはエドのせいじゃないよ。あんなの多勢に無勢で、状況も特殊だったし…」
「いいえ、そんなのは言い訳にもなりません。事実ロジアン様は彼女たちの巣窟からあなたを救い出してみせた。それが全てです」
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(そんなの、ちっとも気にすることないのに…)
けれどそう言ったところで彼は聞き届けないだろう。これは、他人がどうこう言って解決出来るような問題ではないのだ。
「俺は、エドがいてくれて良かったと思ってるよ」
「………………」
「それとももう嫌になった?俺の傍にいるの、飽き飽きした?」
ずるい聞き方をした。案の定狼くんは勢いよく首を横に振る。もしかしたら泣いているのだろうか?不安に襲われ龍之介は伺うように下から狼くんの顔を覗き込もうとする。が、それは結局上手くいかなかった。そのままきつく、抱きしめられてしまったからだ。
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「以前は物分かりのいいことを言いましたが、あんなのは嘘です。大嘘です。本当はこのままあなたを攫ってしまいたい。ずっとふたりきりで、ふたりだけで生きていきたい、他の誰にも、あなたを奪われたくない…ッ」
こんなことを言うつもりじゃなかったんですと狼くんは言った。
嗚咽は暫く止むことはなく、龍之介はただ彼の背中を撫で続けた。
彼が泣き止む、その瞬間まで。
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