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何にでも抜け道はある

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「薄ぼんやりとし過ぎだ貴様」
「あ、ごめん」

マジでぼんやりしてたわ、と龍之介は頭を掻く。ここのところ夢見が悪い。疲れているはずなのに、何度も目が覚める。熟睡した感じがしない。

「父上が不在だからか?」
「いや、違う」
「……俺といるのがつまらぬか」
「つまんなくないよ。むしろ付き合ってくれてありがとう、ロジアン」
「なら何故、そんなに浮かない顔をしている」
「…………なんでだろ?」

自分でもよくわからないんだよね、と龍之介はぼやく。獣人国に来て、それなりの時間が経った。馴染んだこともあれば慣れないことも多い。スピネルが留守にする時は決まって彼の子供たちが相手をしてくれる。他の王妃たちとは接触禁止となった。毒を盛ろうとしてきた王妃がいたからである。


「俺は王族の一夫多妻制度など百害あって一利なしだと思っている。俺が王になったら妃は貴様ひとりでいい」
「でもそれだと、俺が子供産めなかったら詰んじゃわない?」
「その時はニールネルの子を養子にする」
「ロジアン、ニルのことは好きだよねえ」
「姉上がいなければ俺はとっくに殺されていたからな」

慕ってはいる。だが姉上以外の女は好かぬ、とロジアンは続けた。

「じゃあさ、俺がもし実は女でしたって言ったらどうする?」
「つまらぬことを言うな」
「すみません」

怒られてしまった。そりゃそうか、と思う。
ロジアンは男が好き、というよりは女がダメで結果的に男に走ったタイプであった。話を聞く限り壮絶な幼少期を経ていた。茶化してはダメな奴である。

「後遺症はないか?手の痺れが少し残っていただろう」
「あー…わりと、もう平気っぽい。エドがすぐ気付いて吐かせてくれたから、少量しか飲みこまなかったし」
「その護衛騎士は無能だ。何が吐かせてくれた、だ。そもそもろくに毒味もせぬからこのようなことになる」
「マジでエドは悪くないんだ。俺が危機感足りなくて…」
「貴様に麻痺が残っていたら、俺はあの狼を殺していたぞ」


冗談じゃなさそう、と龍之介は顔を歪める。確かに当時の狼くんも腹を掻っ捌いて詫びそうな勢いはあった。護衛騎士とはそもそも王妃が危険に晒されることのないように守る為のものである。が、この国にいる限り王妃は加護によって護られている。ならば何故護衛騎士が必要なのか?

(性欲処理の為だけじゃ、なかったんだなぁ…)

例外として、王妃間での些細な悪意は見逃される傾向にあるのだそうだ。殺意まではいかない、命を脅かさない程度の悪意。
最近では王妃同士の仲が良かった為、こういった事態は暫く起こっていなかったのだそうだ。だが一昔前まではこんなことは日常茶飯事で、その為に王妃にはそれぞれ護衛する騎士がつけられたのだそうだ。
王妃同士の諍いから、身を守る盾として。

(あの毒は警告だったのだろう。確かに、最近スピネルは俺のところに長く滞在するようになっていたから…)

平等に扱われていた女たちの中に混じった異物。悪意を持たれたとしても、それは仕方のないことだったのかもしれない。

盛られた毒は、ほんの少量だった。通常なら少しお腹を下したり、気分が悪くなったりする程度のものであったらしい。
けれど獣人と違って免疫力の低い人間にとっては、ほんの数滴の毒でも重篤な症状を引き起こす。それが彼女たちの誤算であった。人間のひ弱さを舐めちゃいけない。

結果、大ごとになってしまった。小さな悪意は龍之介の命を脅かすところまでいってしまった。
それでも加護の力なのか指輪の守護のおかげか、回復は早かった。殺意がなければ折角の加護もスルーしてしまうという、恐ろしい前例を作ってしまった。まあ本当に殺意があれば、飲み込むまでに至らなかったのだろうけれど…中々に複雑な仕様である…
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