151 / 239
何にでも抜け道はある
しおりを挟む
「薄ぼんやりとし過ぎだ貴様」
「あ、ごめん」
マジでぼんやりしてたわ、と龍之介は頭を掻く。ここのところ夢見が悪い。疲れているはずなのに、何度も目が覚める。熟睡した感じがしない。
「父上が不在だからか?」
「いや、違う」
「……俺といるのがつまらぬか」
「つまんなくないよ。むしろ付き合ってくれてありがとう、ロジアン」
「なら何故、そんなに浮かない顔をしている」
「…………なんでだろ?」
自分でもよくわからないんだよね、と龍之介はぼやく。獣人国に来て、それなりの時間が経った。馴染んだこともあれば慣れないことも多い。スピネルが留守にする時は決まって彼の子供たちが相手をしてくれる。他の王妃たちとは接触禁止となった。毒を盛ろうとしてきた王妃がいたからである。
「俺は王族の一夫多妻制度など百害あって一利なしだと思っている。俺が王になったら妃は貴様ひとりでいい」
「でもそれだと、俺が子供産めなかったら詰んじゃわない?」
「その時はニールネルの子を養子にする」
「ロジアン、ニルのことは好きだよねえ」
「姉上がいなければ俺はとっくに殺されていたからな」
慕ってはいる。だが姉上以外の女は好かぬ、とロジアンは続けた。
「じゃあさ、俺がもし実は女でしたって言ったらどうする?」
「つまらぬことを言うな」
「すみません」
怒られてしまった。そりゃそうか、と思う。
ロジアンは男が好き、というよりは女がダメで結果的に男に走ったタイプであった。話を聞く限り壮絶な幼少期を経ていた。茶化してはダメな奴である。
「後遺症はないか?手の痺れが少し残っていただろう」
「あー…わりと、もう平気っぽい。エドがすぐ気付いて吐かせてくれたから、少量しか飲みこまなかったし」
「その護衛騎士は無能だ。何が吐かせてくれた、だ。そもそもろくに毒味もせぬからこのようなことになる」
「マジでエドは悪くないんだ。俺が危機感足りなくて…」
「貴様に麻痺が残っていたら、俺はあの狼を殺していたぞ」
冗談じゃなさそう、と龍之介は顔を歪める。確かに当時の狼くんも腹を掻っ捌いて詫びそうな勢いはあった。護衛騎士とはそもそも王妃が危険に晒されることのないように守る為のものである。が、この国にいる限り王妃は加護によって護られている。ならば何故護衛騎士が必要なのか?
(性欲処理の為だけじゃ、なかったんだなぁ…)
例外として、王妃間での些細な悪意は見逃される傾向にあるのだそうだ。殺意まではいかない、命を脅かさない程度の悪意。
最近では王妃同士の仲が良かった為、こういった事態は暫く起こっていなかったのだそうだ。だが一昔前まではこんなことは日常茶飯事で、その為に王妃にはそれぞれ護衛する騎士がつけられたのだそうだ。
王妃同士の諍いから、身を守る盾として。
(あの毒は警告だったのだろう。確かに、最近スピネルは俺のところに長く滞在するようになっていたから…)
平等に扱われていた女たちの中に混じった異物。悪意を持たれたとしても、それは仕方のないことだったのかもしれない。
盛られた毒は、ほんの少量だった。通常なら少しお腹を下したり、気分が悪くなったりする程度のものであったらしい。
けれど獣人と違って免疫力の低い人間にとっては、ほんの数滴の毒でも重篤な症状を引き起こす。それが彼女たちの誤算であった。人間のひ弱さを舐めちゃいけない。
結果、大ごとになってしまった。小さな悪意は龍之介の命を脅かすところまでいってしまった。
それでも加護の力なのか指輪の守護のおかげか、回復は早かった。殺意がなければ折角の加護もスルーしてしまうという、恐ろしい前例を作ってしまった。まあ本当に殺意があれば、飲み込むまでに至らなかったのだろうけれど…中々に複雑な仕様である…
「あ、ごめん」
マジでぼんやりしてたわ、と龍之介は頭を掻く。ここのところ夢見が悪い。疲れているはずなのに、何度も目が覚める。熟睡した感じがしない。
「父上が不在だからか?」
「いや、違う」
「……俺といるのがつまらぬか」
「つまんなくないよ。むしろ付き合ってくれてありがとう、ロジアン」
「なら何故、そんなに浮かない顔をしている」
「…………なんでだろ?」
自分でもよくわからないんだよね、と龍之介はぼやく。獣人国に来て、それなりの時間が経った。馴染んだこともあれば慣れないことも多い。スピネルが留守にする時は決まって彼の子供たちが相手をしてくれる。他の王妃たちとは接触禁止となった。毒を盛ろうとしてきた王妃がいたからである。
「俺は王族の一夫多妻制度など百害あって一利なしだと思っている。俺が王になったら妃は貴様ひとりでいい」
「でもそれだと、俺が子供産めなかったら詰んじゃわない?」
「その時はニールネルの子を養子にする」
「ロジアン、ニルのことは好きだよねえ」
「姉上がいなければ俺はとっくに殺されていたからな」
慕ってはいる。だが姉上以外の女は好かぬ、とロジアンは続けた。
「じゃあさ、俺がもし実は女でしたって言ったらどうする?」
「つまらぬことを言うな」
「すみません」
怒られてしまった。そりゃそうか、と思う。
ロジアンは男が好き、というよりは女がダメで結果的に男に走ったタイプであった。話を聞く限り壮絶な幼少期を経ていた。茶化してはダメな奴である。
「後遺症はないか?手の痺れが少し残っていただろう」
「あー…わりと、もう平気っぽい。エドがすぐ気付いて吐かせてくれたから、少量しか飲みこまなかったし」
「その護衛騎士は無能だ。何が吐かせてくれた、だ。そもそもろくに毒味もせぬからこのようなことになる」
「マジでエドは悪くないんだ。俺が危機感足りなくて…」
「貴様に麻痺が残っていたら、俺はあの狼を殺していたぞ」
冗談じゃなさそう、と龍之介は顔を歪める。確かに当時の狼くんも腹を掻っ捌いて詫びそうな勢いはあった。護衛騎士とはそもそも王妃が危険に晒されることのないように守る為のものである。が、この国にいる限り王妃は加護によって護られている。ならば何故護衛騎士が必要なのか?
(性欲処理の為だけじゃ、なかったんだなぁ…)
例外として、王妃間での些細な悪意は見逃される傾向にあるのだそうだ。殺意まではいかない、命を脅かさない程度の悪意。
最近では王妃同士の仲が良かった為、こういった事態は暫く起こっていなかったのだそうだ。だが一昔前まではこんなことは日常茶飯事で、その為に王妃にはそれぞれ護衛する騎士がつけられたのだそうだ。
王妃同士の諍いから、身を守る盾として。
(あの毒は警告だったのだろう。確かに、最近スピネルは俺のところに長く滞在するようになっていたから…)
平等に扱われていた女たちの中に混じった異物。悪意を持たれたとしても、それは仕方のないことだったのかもしれない。
盛られた毒は、ほんの少量だった。通常なら少しお腹を下したり、気分が悪くなったりする程度のものであったらしい。
けれど獣人と違って免疫力の低い人間にとっては、ほんの数滴の毒でも重篤な症状を引き起こす。それが彼女たちの誤算であった。人間のひ弱さを舐めちゃいけない。
結果、大ごとになってしまった。小さな悪意は龍之介の命を脅かすところまでいってしまった。
それでも加護の力なのか指輪の守護のおかげか、回復は早かった。殺意がなければ折角の加護もスルーしてしまうという、恐ろしい前例を作ってしまった。まあ本当に殺意があれば、飲み込むまでに至らなかったのだろうけれど…中々に複雑な仕様である…
43
お気に入りに追加
1,613
あなたにおすすめの小説
異世界のオークションで落札された俺は男娼となる
mamaマリナ
BL
親の借金により俺は、ヤクザから異世界へ売られた。異世界ブルーム王国のオークションにかけられ、男娼婦館の獣人クレイに買われた。
異世界ブルーム王国では、人間は、人気で貴重らしい。そして、特に日本人は人気があり、俺は、日本円にして500億で買われたみたいだった。
俺の異世界での男娼としてのお話。
※Rは18です
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
変態村♂〜俺、やられます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。
そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。
暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。
必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。
その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。
果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?
ファンタジーな世界でエロいことする
もずく
BL
真面目に見せかけてエロいことしか考えてないイケメンが、腐女子な神様が創った世界でイケメンにエロいことされる話。
BL ボーイズラブ 苦手な方はブラウザバックお願いします
アダルトショップでオナホになった俺
ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。
覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。
バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。
※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる