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そこ避暑地じゃない

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「それでは家出の行く先なのですが」

龍之介の感傷をぶった斬るように、エルヴィンが現実的な話をし始める。

「家出というくらいですから当然屋敷には戻られないですよね?そうなると、あなたの身元を引き受けてくれそうな人物はふたりくらいしか見当たらないのですが」
「ふたり…とは…」
「獣人国の王か、ダームウェル様ですね」
「(やっぱそうなるか…)」

というか今さっき別れたばっかでもう獣人国に戻るとか気まず過ぎである。無理無理。

「ダームウェルって、呼べばすぐ来てくれたりするんですか?」
「恐らくですが、あなたが呼べば来ると思いますよ」
「ん?」
「名前を呼ぶだけで、あの方なら探知出来るはずです。あなたの声にならすぐ反応すると思いますよ」
「なにそれこわい…」

どういう仕組み?魔人ってなんでもありなん??

「魔人とはそういうものです」
「魔人こわ…」

あ、とそこで唐突に思い出す。そう言えば、獣人国でダームウェルそっくりの魔人と出くわしたんだっけ。

「魔人てみんなおんなじ顔なの?」
「同じではないですが、顔立ちが似ている場合も多いですね。魔人は魔人同士の間にしか生まれませんので、どうしても近親交配になってしまいます。そのせいで雰囲気の似た方が多いのは確かです」
「へ、へえ…」

なんか凄い話だな、と思う。そもそもあの色素の薄い魔人はとんでもなく怖かった。傍に寄るだけで怖気が走る。あれが本来の魔人の姿だというのなら、ダームウェルが特例ということになるのだろうか?

「なあ、ダームウェルって…」
「呼んだか?龍之介」
「うわあああああッ」

音もなく背後に現れるなよ!!と龍之介は叫ぶ。心の底から叫ぶ。ほんとに名前言っただけで来た…!!これはこれで軽く恐怖体験なんですけど!?という顔でダームウェルを凝視する龍之介に、ダームウェルは「久しぶりだなあ」とガシガシ頭を撫でてくる。
なんでそんなに普通に喋れるのだろうか?これって魔人的にはあるあるなの??

言葉を失っている龍之介の代わりにエルヴィンが事情を説明してくれたらしく、ダームウェルは「じゃあ暫く避暑地にでも行くか?」と軽い感じで提案してきた。

「ひ、避暑地?」
「獣人国は暑かっただろ?今度は寒い地方に行くのはどうだ」
「寒いところは苦手なんだけど…」
「雪も降るし、氷の洞窟なんかもあって綺麗なところだぞ」
「ど、どうくつ」

いらん思い出が一瞬脳裏を過ぎる。が、まあ確かに良い気分転換にはなりそうである。エルヴィンの方を見るとどうぞお好きにといった顔をしていたので龍之介はダームウェルの手を取って、よろしくお願いしますをする。


「……で、レイノルドのアレは、いったいどうしたんだ?」
「……………」

リーリエの異能の影響でぼやっとしている状態のまま放置されているレイノルドを見て、ダームウェルが今にも吹き出しそうな顔をしている。

「どっ、道中説明するから、とりあえずもう行こう!移動しよう!!」
「別れの挨拶はいいのか?」
「いい!今顔見たら、決心鈍るから」
「へえ、そうかよ」

ならまあ、遠慮なく、と
ダームウェルは龍之介を肩に担ぎ上げると、バチンと指を鳴らした。
その瞬間に、ぐにゃりと時空が歪む。


あっと思った時にはもう既に、目の前は一面の雪景色だった。さっむっ!!
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