22 / 239
嘘と過去
しおりを挟む
(ま、実際のところそこまでじゃないけど)
今言ったのは、今から数十年くらい前までの話である。今では法改正が進んでいくら奴隷といえど、そこまで蔑ろにされることはない。
でも今の話を鵜呑みにしたということは、この龍之介という人間の奴隷はかなりの世間知らずか、もしくはこの世界の存在ではないということになる。
(子供ならいざ知らず、成人を過ぎた大人の人間が、こんなに擦れずに生きてこられたはずがない)
この世界の人間は、絶滅危惧種だ。
存在しているだけで希少だし、その上で五体満足で健全な精神を保てている者はほぼいないと言っても過言ではない。
事実ダームウェルは世界各国を旅してきたが、およそ会話の成立する人間とは会ったことがなかった。
(人間は強い者の庇護なしには生きられない。そういうふうに、なってしまっている)
だが稀に、こんなふうに唐突に、健康で健全な人間が現れることがあった。
そういう者は皆一様に世間知らずで、時に豪胆で、時に無邪気さも兼ね備えており、不思議な魅力を持っていたりする。
そういう人間は、得てして周囲を魅了しやすいのだ。レイノルドがそのいい例だろう。
「俺にどうしろって言うんだよ」
龍之介はそう言うと、ダームウェルを上目遣いに睨みつけてきた。
奴隷にあるまじき態度である。そもそも自分やレイノルド相手にこんな口調で話しかけてくる者など、同じ種族であったとしても考えられない。
力の差や能力の有無を感知出来ないが故の無知蒙昧。だがこういうところがレイノルドは好ましいのだろうなと、ダームウェルは予想する。
(新鮮なんだろうな……レイノルドの奴は、生まれた時からモテモテの人生だったろうし…)
だからこそらしくなく執着しているのだろう。はじめはリーリエへの牽制に使うつもりだったのだろうが、すっかりそんなことは忘れてただただ溺愛している様子である。
長年の友人の頭がお花畑状態なのは、見ていて筆舌に尽くし難いくらい気色が悪いが、破格の金額を提示された手前断るのも気が引けた。
(何より、人間には長生きして、出来れば子孫を多く残して欲しいしな…)
レイノルドの依頼を受けたのは、そんな思惑が少なからずあったからである。
ダームウェル自身、かつて人間を愛した経験があった。関係は長くは続かなかったけれど、少なくとも彼自身は人間を出来る限り保護し、繁殖させたいと考えていた。
(コイツは侑とは違う)
けれど、同じところもあるかもしれない。
ならば、それを探して見つけていくのも、また一興かもしれない。
「……とりあえず、治癒魔法をかけてやるよ」
ダームウェルはそう言うと、龍之介の胸に手をあてた。
久しぶりに触れた、吸いつくような人間の肌の感触だった。
今言ったのは、今から数十年くらい前までの話である。今では法改正が進んでいくら奴隷といえど、そこまで蔑ろにされることはない。
でも今の話を鵜呑みにしたということは、この龍之介という人間の奴隷はかなりの世間知らずか、もしくはこの世界の存在ではないということになる。
(子供ならいざ知らず、成人を過ぎた大人の人間が、こんなに擦れずに生きてこられたはずがない)
この世界の人間は、絶滅危惧種だ。
存在しているだけで希少だし、その上で五体満足で健全な精神を保てている者はほぼいないと言っても過言ではない。
事実ダームウェルは世界各国を旅してきたが、およそ会話の成立する人間とは会ったことがなかった。
(人間は強い者の庇護なしには生きられない。そういうふうに、なってしまっている)
だが稀に、こんなふうに唐突に、健康で健全な人間が現れることがあった。
そういう者は皆一様に世間知らずで、時に豪胆で、時に無邪気さも兼ね備えており、不思議な魅力を持っていたりする。
そういう人間は、得てして周囲を魅了しやすいのだ。レイノルドがそのいい例だろう。
「俺にどうしろって言うんだよ」
龍之介はそう言うと、ダームウェルを上目遣いに睨みつけてきた。
奴隷にあるまじき態度である。そもそも自分やレイノルド相手にこんな口調で話しかけてくる者など、同じ種族であったとしても考えられない。
力の差や能力の有無を感知出来ないが故の無知蒙昧。だがこういうところがレイノルドは好ましいのだろうなと、ダームウェルは予想する。
(新鮮なんだろうな……レイノルドの奴は、生まれた時からモテモテの人生だったろうし…)
だからこそらしくなく執着しているのだろう。はじめはリーリエへの牽制に使うつもりだったのだろうが、すっかりそんなことは忘れてただただ溺愛している様子である。
長年の友人の頭がお花畑状態なのは、見ていて筆舌に尽くし難いくらい気色が悪いが、破格の金額を提示された手前断るのも気が引けた。
(何より、人間には長生きして、出来れば子孫を多く残して欲しいしな…)
レイノルドの依頼を受けたのは、そんな思惑が少なからずあったからである。
ダームウェル自身、かつて人間を愛した経験があった。関係は長くは続かなかったけれど、少なくとも彼自身は人間を出来る限り保護し、繁殖させたいと考えていた。
(コイツは侑とは違う)
けれど、同じところもあるかもしれない。
ならば、それを探して見つけていくのも、また一興かもしれない。
「……とりあえず、治癒魔法をかけてやるよ」
ダームウェルはそう言うと、龍之介の胸に手をあてた。
久しぶりに触れた、吸いつくような人間の肌の感触だった。
77
お気に入りに追加
1,616
あなたにおすすめの小説
異世界のオークションで落札された俺は男娼となる
mamaマリナ
BL
親の借金により俺は、ヤクザから異世界へ売られた。異世界ブルーム王国のオークションにかけられ、男娼婦館の獣人クレイに買われた。
異世界ブルーム王国では、人間は、人気で貴重らしい。そして、特に日本人は人気があり、俺は、日本円にして500億で買われたみたいだった。
俺の異世界での男娼としてのお話。
※Rは18です
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる