社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活

加虐嗜好の自覚

「レイノルド様、趣味変わったのか？」
「ああん？」

喧嘩売ってんのか、と目の前の奴隷が凄む。目つきが悪い。かわいくない。

「誰だよ、お前」
「俺は…っ、その、この屋敷の使用人だよ！見りゃわかるだろ！」
「男の使用人に用なんてない。猫耳つけて出直してこい」
「…………！！」

なんだこいつ、めちゃくちゃ態度悪いじゃん…！


自分の態度は棚に上げ、ルクシュは憤慨する。いったいどんな魅惑の美青年かと思えばレイノルドが執着している人間は態度の悪い凡庸な青年だった。
目つきも悪く、愛想も悪い。体つきも貧相で、肋がうっすら浮いてみえている。
腕も脚もひょろひょろと長く何より肌が真っ白だった。その為レイノルドにつけられたであろう鬱血の痕と歯形がいやに鮮明に、生々しく映える。

（こんなに痕が残るもんなんだ）

正直そこだけはえっちだな、と思った。獣人の血が混ざると皮膚も頑丈だから情事の痕跡なんてのは殆ど残らない。
どれだけ激しいセックスをしても、次の日にはピンピンしてる。それは自分たちが尋常ならざる回復力と、有り余る体力、そして頑強な肉体を持っているからこそだったんだとルクシュは今更ながらに気づく。
そうして、何故人間が一部の愛好家の中で持て囃されているのか、その理由の一端を見た気がした。

「…これは加虐心をそそるわ。レイノルド様ドSだったんだな」
「いてえっ！むやみに触んなよっ！！」

つい好奇心から、ルクシュは目の前の奴隷の体を指でつついてみる。
一際噛み跡の深そうな傷を指で押してみると、男は涙を浮かべて本気で嫌そうな顔をした。


（あっ、うーん、成程……これは加虐心に火をつけられるわ）

もっと泣かせてみたい。嫌がる顔を見てみたい。

あ、もしかして俺もこっち側だったかな？と、そこで初めてルクシュは自分の性癖を知る。
今まで両者合意のセックスしかしたことがなかった。互いに欲求に忠実で貪欲な獣人らしいプレイスタイルである。
そもそも獣人は性欲が強いし、セックスは体調管理の面でも切っても切り離せない生活の一部だ。
その為ぶっちゃけ相手は誰でもいい。多少好みでなくとも欲求さえ発散できればそれでいいという考えの者が多く、例に漏れずルクシュもそのタイプであった。

だから、ルクシュは自分が本当はどんな子がタイプなのか、どんな子が性癖に刺さるのか、今まで深く考えたことがなかったのだ。


（やべ、俺、気付いちゃったかも…）

本気で嫌がる人間の、その心底嫌そうな顔を見て、獰猛な獣の血が騒ぐ。
屈服させたい。嫌がる顔を涙と涎でぐちゃぐちゃにして、俺のちんこを欲しいと懇願させたい。服従させたい。散々に喘がせて、その体に己の痕跡を深く刻みつけたい。噛みたい、噛みつきたい──

ぐる、と喉が鳴る。熱が灯る。血が滾る。


欲情の、合図であった。