聖女様は堕落しました

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わたしにはきっと役割がある。ここに連れて来られたからには果たさねばならない義務があるはずだ。


それを、聞こうといつも思うのに勇気が出ない。ここのところラナウェルと名乗ったあの青年は毎日わたしのところへやって来ては他愛のない話をして帰っていく。気を遣われていることはわかっていた。けれど、どうしても上手く笑うことが出来ない。


「このままでは、ただのタダ飯食いだわ……」


どうせ、誰かの相手をさせられることになるのだろう。
もしかしたら、高貴な身分の方なのかもしれない。だから毎日メイドさんたちはわたしに美味しいご飯を用意してくれて、肌も髪も完璧に手入れしてくれるのだろう。

そう、決して善意などではないのだ。勘違いしてはいけない。










「今晩は、マリエーヌ。今日は顔を出すのが遅くなってしまってすまないね」
「ラナウェル様、こんばんは」
「何度も言うが、様はいらない。ラナウェルと呼んでくれ」
「…………それは…」


命令だろうか?とわたしは考える。暫く思案していると、彼は苦笑しながらわたしの対面に座った。綺麗なプラチナブランドが揺れる。わたしは、こんなに美しい男の人をこれまで見たことがなかった。


(わたしを抱いた偉い貴族の男たちは、みんな醜かった。ぶよぶよの肉の塊と臭い香水の匂いでいつも気分が悪かった)


もし、この目の前の美しい人がわたしを抱きに、わたしの元に訪れていたとしたら、わたしはどんな感想を抱いたのだろうか?


そんなことを、ふと考えた。わたしはこれまで誰か特定の男の人に抱かれたいと思ったことはない。触られれば感じるし、気持ちいいと思うこともある。けれど終わった後はいつも虚しい。わたしにとってセックスは愛情表現ではなく排泄行為だった。それ以外の感想を抱く余地がなかったのだ。


「マリエーヌ?どうかしましたか、ぼんやりしている様子に見えますが…」


気分でも悪いのですか?と彼が近付いてきたので、わたしは反射的にその手を取った。きめの細かい肌だ。けれど思ったよりもずっとゴツゴツしていて男らしい手だった。


「わたしは何をすればよいのでしょうか?わたしは誰に抱かれる為に、此処へ呼ばれたのですか?」


手を取って、そう尋ねる。ずっと聞きたかったことが、ようやく聞けた満足感。そして、僅かな高揚が胸に灯った。


「教えて、ラナウェル。………わたしは、誰に抱かれるの?」


そう問いかけると、握っていた彼の手が、ぎくりと震えたのがわかった。
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