聖女様は堕落しました

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皇都には、聖女と呼ばれる若く美しい女がいた。

彼女は容姿だけでなく心も美しく、彼女の振る舞いは皇都に住む者全員を魅了した。皇族も聖職者も貴族も平民も、こよなく彼女を愛し、慈しんだ。

だが彼女は死んだ。突然の病だった。あまりに急なことで、医師も薬も間に合わなかった。

聖女を失った皇都は悲しみに暮れた。誰もが彼女の死を嘆き、悼み、哀しんだ。

特に彼女に思いを寄せていた第一皇子ジェラールの嘆きは深く、聖女の死後全く姿を見せなくなってしまった。政務を放棄し、顔色はやつれ、人を寄せ付けず昼夜問わず彼女の墓前に立ち尽くす彼の姿を憂いた側近たちは、彼を立ち直せるためにマリエーヌを皇都へと呼びつけたのだ。


風の噂には聞いていた。皇都から遠く離れた寒村の地に、聖女様によく似た顔の孤児がいるという話を。








「驚いた、あまりに似ている」

ラナウェルは彼女を見て息を呑んだ。似ていると評判だとは聞いていた。だがここまでとは思わなかった。

「そうでしょう、そうでしょう!聖女様に比べると肌艶は悪く栄養状態もよくありませんが…、」

彼女を連れてきた司祭がベラベラと捲し立てるようにマリエーヌと聖女がいかに似通った容姿であるかを語り出したので、ラナウェルは一旦司祭を退室させることにした。彼女を見つけ、保護し、連れてきてくれたことには感謝しているが、それ以上の関係は持ちたくなかった。




「遠路はるばるご苦労だった。長旅で疲れただろう、まずはゆっくり身体を休めるといい」


早急に話をしたいのは山々だったが、ラナウェルはマリエーヌの顔色を見て判断を変えた。酷い顔色だった。いくら容姿が似ていても、この状態の彼女を聖女様の代わりとしてジェラールの前に連れていくことは不可能だった。


(まずは充分な休息と、栄養のある食事、それから口の固いメイドが必要だな…)

ラナウェルはそう考えながら、マリエーヌを凝視する。
伏せられた睫毛は長く、頬に陰影をつくっている。引き結ばれた薄い唇は乾燥して荒れているのに何故か淡く色づき、肌は雪のように白い。

(不思議と人の情欲を掻き立てる子だ)

聖女様は清廉なお方だった。なのに、同じ顔をしてこうも印象が違うものか。


(育ってきた環境の違いか、或いは……)

ふと、マリエーヌの首筋に赤い鬱血の痕を見つけ、ラナウェルは眉をしかめる。
下衆め、と唇が動く。
噂には聞いていたが、やはりあの司祭をはじめとする聖職者共には虫唾が走る。



ラナウェルは嘆息し、マリエーヌに視線を戻す。
さて、彼女をジェラールの前に差し出すまでに、いったいどれ程の月日が必要となるだろうか。
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