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闇夜
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充希は反省していた。
(いくら心細かったとはいえ……あんな小さな物音ひとつで大騒ぎするなんて……)
まるで子供、である。少しの間ひとりきりになることさえ出来ないなんて、と心の内で猛省しつつ、チラリとオスカーを盗み見る。
(さっきとは顔つきが全然違う……)
どこか、吹っ切れたような表情にも見えた。先程はキスされたことを思い出し、多少警戒してしまったがこの様子なら大丈夫かもしれない、と充希は思い直す。
そもそも聖女とはいえ、誰が相手でも男を誘惑するなんて話は眉唾だと充希は思っていたし、実際に色々経験したはずの今でさえあまり実感として得ていないというのが充希の本音であった。
つまり、充希にはまだ自覚が足りていなかったのだ。自分が、どれ程男共の情欲を掻き立てる存在であるのかということを───
「もう夜も更けてきたから、今夜はここに泊まろう」
そう言ってオスカーは一件の宿屋らしき建物の前で、充希を馬から下ろした。
「この宿は俺の所有する物件だから気兼ねすることはない。裏口から入れば姿を見られることもないし、必要なものも一通り揃ってる」
そう説明しながらオスカーは宿屋の裏口の鍵を開け、勝手知ったるなんとやらといった感じでずんずん薄暗い廊下を突き進んで行く。
充希はもつれそうになる足でその後ろ姿を懸命に追いかけた。馬に乗せてもらっていただけなのに、驚くほど足が震えて歩くのもままならない。もしかしたら筋肉痛なのかもしれなかった。
やっとの思いでオスカーに追いつくと、部屋の中に案内される。足を踏み入れると微かにオスカーの匂いがした。
「屋敷に戻りたくない時に、使ってる部屋なんだ」
オスカーはそう言うと、着ていたシャツを勢いよく脱ぎ捨てた。一瞬ぎょっとしてしまったが、よく考えてみれば自分を抱えて飛び降りたせいで袖のところが破けていたし、汗もかいているだろう。着替えたくなるのは当然のことなのかもしれない。
慌てて後ろを向いた充希に、オスカーは「ああ、」と今気付いたと言わんばかりの声をあげる。どうやら無意識での行動だったらしい、酷く恐縮したような声で「すまない、無遠慮だったな」と謝罪してきた。
「いえ、どうぞ着替えてください!」
「ミツキも着替えた方がいいな、今日のところは俺のシャツくらいしか着替えがないが、明日までには用意しておくから」
とりあえず今夜はシャワーでも浴びてぐっすり寝てしまえ、とオスカーは後ろから真新しいシャツとタオルを充希に投げてよこす。それを受け取って、充希はもういいかなとオスカーの方を振り向いた。
「あ……」
そこで、充希は見た。
オスカーの右胸から腰にかけてを黒く覆う、魔障の存在を。
(いくら心細かったとはいえ……あんな小さな物音ひとつで大騒ぎするなんて……)
まるで子供、である。少しの間ひとりきりになることさえ出来ないなんて、と心の内で猛省しつつ、チラリとオスカーを盗み見る。
(さっきとは顔つきが全然違う……)
どこか、吹っ切れたような表情にも見えた。先程はキスされたことを思い出し、多少警戒してしまったがこの様子なら大丈夫かもしれない、と充希は思い直す。
そもそも聖女とはいえ、誰が相手でも男を誘惑するなんて話は眉唾だと充希は思っていたし、実際に色々経験したはずの今でさえあまり実感として得ていないというのが充希の本音であった。
つまり、充希にはまだ自覚が足りていなかったのだ。自分が、どれ程男共の情欲を掻き立てる存在であるのかということを───
「もう夜も更けてきたから、今夜はここに泊まろう」
そう言ってオスカーは一件の宿屋らしき建物の前で、充希を馬から下ろした。
「この宿は俺の所有する物件だから気兼ねすることはない。裏口から入れば姿を見られることもないし、必要なものも一通り揃ってる」
そう説明しながらオスカーは宿屋の裏口の鍵を開け、勝手知ったるなんとやらといった感じでずんずん薄暗い廊下を突き進んで行く。
充希はもつれそうになる足でその後ろ姿を懸命に追いかけた。馬に乗せてもらっていただけなのに、驚くほど足が震えて歩くのもままならない。もしかしたら筋肉痛なのかもしれなかった。
やっとの思いでオスカーに追いつくと、部屋の中に案内される。足を踏み入れると微かにオスカーの匂いがした。
「屋敷に戻りたくない時に、使ってる部屋なんだ」
オスカーはそう言うと、着ていたシャツを勢いよく脱ぎ捨てた。一瞬ぎょっとしてしまったが、よく考えてみれば自分を抱えて飛び降りたせいで袖のところが破けていたし、汗もかいているだろう。着替えたくなるのは当然のことなのかもしれない。
慌てて後ろを向いた充希に、オスカーは「ああ、」と今気付いたと言わんばかりの声をあげる。どうやら無意識での行動だったらしい、酷く恐縮したような声で「すまない、無遠慮だったな」と謝罪してきた。
「いえ、どうぞ着替えてください!」
「ミツキも着替えた方がいいな、今日のところは俺のシャツくらいしか着替えがないが、明日までには用意しておくから」
とりあえず今夜はシャワーでも浴びてぐっすり寝てしまえ、とオスカーは後ろから真新しいシャツとタオルを充希に投げてよこす。それを受け取って、充希はもういいかなとオスカーの方を振り向いた。
「あ……」
そこで、充希は見た。
オスカーの右胸から腰にかけてを黒く覆う、魔障の存在を。
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