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脱走
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こんなに簡単に脱走してしまえるなんて、と充希は内心驚きを隠せない。
「伊達に鍛えてないさ」
「すごい、です…」
普通の人はいくら鍛えたとしても、女を片手に抱えたまま木に飛び移れたりはしないのでは……?と思いつつも、それ以上喋ることは出来そうになかった。
「少しの間、しがみついていてくれると有り難いんだが」
「わ、わかりましたっ」
多少の照れ臭さを感じつつも、充希は言われた通りにオスカーにしがみつく。途端に、ほんの僅かびくりと肩が跳ねたような気もしたが、次の瞬間照れ臭ささなどどこかに吹き飛ぶような速度でオスカーが走り出した為、充希は真剣に、必死になってオスカーにまわした腕に力を込めた。
(絶叫系……!苦手なのにぃ……っっ!!)
なんて場違いなことを考えそうになりながらも、充希はただ必死にオスカーの身体に腕を絡める。
冗談じゃなく、力を緩めれば振り落とされてしまいそうだった。
その後馬を走らせること数時間、目的の場所に辿り着く頃にはすっかり日が暮れてしまっていた。
そこまで来て、漸くオスカーは自分の着ていた上着を充希の頭からかけた。どうやらここからは速度を落として進むらしい。
(顔を隠せと、いうことかな?)
充希は渡された上着の隙間から周囲を見回す。この世界に来て、初めて外に出られたというのにあまりたいした感動は得られず、何故かいいしれぬ不安感ばかりが胸に広がっていくようだった。
(辺りが薄暗いせい?それとも…)
あの部屋を、勝手に出て来てしまったせいだろうか?と充希は思う。
確かに、あのまま部屋に留まってダリウスやサイラスを待っていても、苦痛でしかなかっただろう。
唯一あったメイドの出入りもなくなり、訪ねてくる人もなく、誰とも顔を合わせぬままただ時間だけが流れていく日々。そんなのは耐えられる気がしない。孤独は人を不安定にさせるし、きっと心が壊れてしまう。
(…………だから、これで良かったんだ)
半ば自分に言い聞かせるように、そう心の内で呟く。すると、その時唐突にオスカーが手綱を引いた。
「わっ」
その反動で、充希はオスカーの胸の中に倒れ込んでしまう。
「ごめんなさい、バランスが取れなくて…」
そう言いながら背後のオスカーを見上げて、充希は思わずぎくり、とした。
「オ、オスカー……さん?」
「…………悪いけど、ここらで一旦休憩してもいいかな」
ちょっと限界かも、
そう言ったオスカーは馬から充希を降ろすと、手近な水辺で馬を休ませてくると言って充希から離れていった。
充希はその後ろ姿を見送りながら、先程見たオスカーの表情を思い出す。
(あの顔は……もしかして…)
勘違いかもしれない。けれど、と思う。
色々あってすっかり失念していた。どうして今まで忘れていたのだろう。
(キス、……されていたのに、)
ここにきてやっと、充希は思い出した。
オスカーと最後に会った時に、何が起こっていたのかを。
「伊達に鍛えてないさ」
「すごい、です…」
普通の人はいくら鍛えたとしても、女を片手に抱えたまま木に飛び移れたりはしないのでは……?と思いつつも、それ以上喋ることは出来そうになかった。
「少しの間、しがみついていてくれると有り難いんだが」
「わ、わかりましたっ」
多少の照れ臭さを感じつつも、充希は言われた通りにオスカーにしがみつく。途端に、ほんの僅かびくりと肩が跳ねたような気もしたが、次の瞬間照れ臭ささなどどこかに吹き飛ぶような速度でオスカーが走り出した為、充希は真剣に、必死になってオスカーにまわした腕に力を込めた。
(絶叫系……!苦手なのにぃ……っっ!!)
なんて場違いなことを考えそうになりながらも、充希はただ必死にオスカーの身体に腕を絡める。
冗談じゃなく、力を緩めれば振り落とされてしまいそうだった。
その後馬を走らせること数時間、目的の場所に辿り着く頃にはすっかり日が暮れてしまっていた。
そこまで来て、漸くオスカーは自分の着ていた上着を充希の頭からかけた。どうやらここからは速度を落として進むらしい。
(顔を隠せと、いうことかな?)
充希は渡された上着の隙間から周囲を見回す。この世界に来て、初めて外に出られたというのにあまりたいした感動は得られず、何故かいいしれぬ不安感ばかりが胸に広がっていくようだった。
(辺りが薄暗いせい?それとも…)
あの部屋を、勝手に出て来てしまったせいだろうか?と充希は思う。
確かに、あのまま部屋に留まってダリウスやサイラスを待っていても、苦痛でしかなかっただろう。
唯一あったメイドの出入りもなくなり、訪ねてくる人もなく、誰とも顔を合わせぬままただ時間だけが流れていく日々。そんなのは耐えられる気がしない。孤独は人を不安定にさせるし、きっと心が壊れてしまう。
(…………だから、これで良かったんだ)
半ば自分に言い聞かせるように、そう心の内で呟く。すると、その時唐突にオスカーが手綱を引いた。
「わっ」
その反動で、充希はオスカーの胸の中に倒れ込んでしまう。
「ごめんなさい、バランスが取れなくて…」
そう言いながら背後のオスカーを見上げて、充希は思わずぎくり、とした。
「オ、オスカー……さん?」
「…………悪いけど、ここらで一旦休憩してもいいかな」
ちょっと限界かも、
そう言ったオスカーは馬から充希を降ろすと、手近な水辺で馬を休ませてくると言って充希から離れていった。
充希はその後ろ姿を見送りながら、先程見たオスカーの表情を思い出す。
(あの顔は……もしかして…)
勘違いかもしれない。けれど、と思う。
色々あってすっかり失念していた。どうして今まで忘れていたのだろう。
(キス、……されていたのに、)
ここにきてやっと、充希は思い出した。
オスカーと最後に会った時に、何が起こっていたのかを。
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