傾国の聖女

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再会

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その時、コツン、という何かが窓にぶつかる音が聞こえてきた。
なんだろう、と充希はレースのカーテンを開け、窓の外に視線を向ける。
するとそこには木の幹に腰掛けこちらに向かって石を投げる、オスカーの姿があった。

(えっ…)

ここ、4階だって聞いてるけど!?と充希は慌てて窓を開ける。
するとオスカーは手に持っていた小石を投げ捨て、幹をしっかり掴むとくるりと体勢を変え勢いをつけてこちらのバルコニーへと飛び移ってきた。

「ぎゃ、」
「待て待てっ!大声を出すなっ」

思わず叫びそうになった充希の口を、オスカーが慌てて塞ぐ。そしてそのまま室内に人がいないことを確認してから、漸く充希の口を解放してくれた。

「げほっ、……オ、オスカー、さん…っ」
「ああ悪い、強く抑えつけ過ぎたか?」
「いえ、大丈夫…です…」

本当は大丈夫ではなかったのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。
気遣うように背中をさするオスカーの手をやんわりと制止して、充希は息を整えてから突然現れたオスカーに向かって問いかける。

「どうしてこんなところから現れたんですか?外でいったい、何が起こってるんですか?」
「…………人に聞かれると不味いから、とりあえず室内に入って話そう。といっても俺がここにいるのを見られるのも良くないから、話は手短かになってしまうけど」
「それなら平気です。この部屋には誰も出入りしませんから」

充希がそう言うと、オスカーは「え?」と怪訝そうな顔をした。充希はそんなオスカーの反応を無視して、バルコニーから室内へとオスカーを招き入れる。



「……………もしかして、ここ最近サイラスも顔を見せていないのか?」

室内を一瞥して、オスカーがどことなく険しい表情でそう聞いてきた。充希は無言のまま首を縦に振る。

「サイラスも、…………ダリウスにも、暫く会っていません」
「メイドは?随分室内が雑然としている様子だが……」
「メイドさんたちは、……定期的には、来てくれていました」
「この有様でか?食べた食器も片付けていないし、なんだか埃っぽいぞ」
「あっ、それは……その、ごめんなさい、私がだらしなくて」
「もしかして、嫌がらせをされているのか?」

オスカーの的確な指摘に、何故か顔がカッと熱くなる。図星を指されると、人はどうやら赤面してしまうらしい…


「そのようだな。…まったく、職務怠慢も甚だしい。いったい誰に何を吹き込まれたのやら」
「あ、でも、えっと、ちゃんとご飯の用意も掃除もしてくれていました。部屋が汚いのは、その、私の使い方も悪くって」
「変に庇い立てする必要はない。しかし、……この状況は想定していたよりも酷いな」

様子を見に来ただけのつもりだったが…とオスカーは深刻そうな顔のままで腕組みをし、暫しあれこれ思い悩むような仕草をした末に、彼は充希に向かってこう切り出してきたのだった。


「ここから俺と逃げるか?聖女様」
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