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疑問
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「聖女様は飢えないのだと聞きました。故に排泄をしないのだと」
なら食事の世話は必要ありませんよね?と、その日唐突に、部屋に訪れたメイドは冷ややかにそう告げた。
「えっと、それは……確かに排…泄はしないんですけれど、一応喉も渇くし、お腹も減るんです」
「でも食べなくても死にはしないのですよね?そう聞いております」
「聞いた?誰に?」
「……死なないのでしたら、お出しする必要もないかと。それでなくとも、皆この部屋に来ることを嫌がっています」
私も今日限りで清掃に入るのを辞めさせて頂きます、とメイドはそう宣言した。
「…………そう、わかったわ」
今までどうもありがとう。そう言うのがやっとだった。
目の前のメイドから感じるのは、完璧な拒絶、圧倒的な嫌悪。充希はこれまでの人生の中で、これほどまでに他人から嫌われたことなどなかった。
(泣くな、)
泣いちゃ駄目だ、とキツく唇を噛む。視線を床に落とし、顔を見られぬよう俯く充希を尻目に、メイドは短い溜息だけをその場に残し、そそくさと退出していく。
最後に石鹸を置いていってくれただけでも、感謝しなければならないのかもしれない。
……なんてことを考えながら、扉が閉まるのと同時にボロボロと涙がこぼれてくる。わかってはいたけれど、ああもはっきり言葉にされてしまうとやっぱりきつい。
(食事を運ぶのも、部屋を訪れることさえ嫌、だなんて、……よっぽど嫌われてるんだなぁ…)
そのまま床に蹲り、流れる涙に任せて少しばかり泣く。排泄はしないのに涙は出るんだ、なんて埒もないことを思いながらもひとしきり泣いた後、充希はこれからのことについて考える。この先、ただ黙ってこの部屋に居続けてよいものだろうか、と。
(ダリウスもサイラスも、きっと何か事情があって来られなくなったんだろう)
見捨てられた、とは考え難い。良くはなってきているとはいえ、ダリウスの魔障はまだ完治していない。サイラスにしてもそうだ。まだ自分には使い道が残っているはずである。
(だとしたら、何かトラブルが起こっているのかもしれない。この間のこともあるし、メイドたちの対応といい、私を邪魔に思っている人たちは確実にいる…)
ふとアルヴィンと呼ばれた男の言った台詞を思い出す。彼の言葉の中で印象的だったのは、充希に対する侮蔑ではなくダリウスとの会話の中にあった。
聖女召喚に反対していた者たちがいる。そしてそれはどうやら軍部に多いらしい。
(そもそも聖女という存在自体が、嫌悪の対象になっているのかもしれないわ)
詳しいことはわからない。けれどサイラスやオスカー以外の人間と接触した際、体感として充希が感じたのは、生理的な忌避だった。
あれは、あの感情や態度は、一朝一夕に身につくものではない。何か相当に根深いものがある。充希はそう、確信していた。
なら食事の世話は必要ありませんよね?と、その日唐突に、部屋に訪れたメイドは冷ややかにそう告げた。
「えっと、それは……確かに排…泄はしないんですけれど、一応喉も渇くし、お腹も減るんです」
「でも食べなくても死にはしないのですよね?そう聞いております」
「聞いた?誰に?」
「……死なないのでしたら、お出しする必要もないかと。それでなくとも、皆この部屋に来ることを嫌がっています」
私も今日限りで清掃に入るのを辞めさせて頂きます、とメイドはそう宣言した。
「…………そう、わかったわ」
今までどうもありがとう。そう言うのがやっとだった。
目の前のメイドから感じるのは、完璧な拒絶、圧倒的な嫌悪。充希はこれまでの人生の中で、これほどまでに他人から嫌われたことなどなかった。
(泣くな、)
泣いちゃ駄目だ、とキツく唇を噛む。視線を床に落とし、顔を見られぬよう俯く充希を尻目に、メイドは短い溜息だけをその場に残し、そそくさと退出していく。
最後に石鹸を置いていってくれただけでも、感謝しなければならないのかもしれない。
……なんてことを考えながら、扉が閉まるのと同時にボロボロと涙がこぼれてくる。わかってはいたけれど、ああもはっきり言葉にされてしまうとやっぱりきつい。
(食事を運ぶのも、部屋を訪れることさえ嫌、だなんて、……よっぽど嫌われてるんだなぁ…)
そのまま床に蹲り、流れる涙に任せて少しばかり泣く。排泄はしないのに涙は出るんだ、なんて埒もないことを思いながらもひとしきり泣いた後、充希はこれからのことについて考える。この先、ただ黙ってこの部屋に居続けてよいものだろうか、と。
(ダリウスもサイラスも、きっと何か事情があって来られなくなったんだろう)
見捨てられた、とは考え難い。良くはなってきているとはいえ、ダリウスの魔障はまだ完治していない。サイラスにしてもそうだ。まだ自分には使い道が残っているはずである。
(だとしたら、何かトラブルが起こっているのかもしれない。この間のこともあるし、メイドたちの対応といい、私を邪魔に思っている人たちは確実にいる…)
ふとアルヴィンと呼ばれた男の言った台詞を思い出す。彼の言葉の中で印象的だったのは、充希に対する侮蔑ではなくダリウスとの会話の中にあった。
聖女召喚に反対していた者たちがいる。そしてそれはどうやら軍部に多いらしい。
(そもそも聖女という存在自体が、嫌悪の対象になっているのかもしれないわ)
詳しいことはわからない。けれどサイラスやオスカー以外の人間と接触した際、体感として充希が感じたのは、生理的な忌避だった。
あれは、あの感情や態度は、一朝一夕に身につくものではない。何か相当に根深いものがある。充希はそう、確信していた。
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