傾国の聖女

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劣情(オスカー)

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「魔障が快癒したら、陛下は聖女を我々に下賜すると思うか?」
「それは……」

どうでしょうね、とサイラスは口ごもる。彼が言葉を濁すのは非常に珍しい。

「確かに初めの取り決めはそうでした。しかし召喚された聖女はお役目に消極的で、無理強いすることも出来ません」
「そうは言いつつ、ちょっかいかけてるだろ?」
「………目敏いですね」

サイラスの魔障は陛下に次ぐ重症だった。だがここ最近の彼は傍目から見ても調子が良さそうに見える。着衣の下に隠された痕を見ずとも、それは容易く想像がついた。

「確かに、少し触れるだけでも恩恵はある。凄い力です」
「唾液と愛液、どちらが強力だ?」
「それは………やはり、後者でしょうね。特に快楽を感じている時の方が効果が強い気がします」
「へえ……さすが、悪様に言われるだけのことはあるな」

聖女とは呼ばれていも、その存在自体、国内での評判は頗る悪い。
伝承として記録されている聖女の姿の多くは男を誘惑するものとして描かれているし、その本性は淫奔で堕落を誘うものという扱いだ。故に魔障を治癒する稀有な存在であるにも関わらず、聖女を慕い信奉するような文言は出てこない。

(だが実際現れた彼女は……)

話した感じは至って普通の少女という印象だった。むしろ純粋さが勝ると言ってもいい。可愛らしく清楚で、不安気なその様子は男の庇護欲を存分に刺激するものだった。

しかしその一方で、そばにいると否応無しに劣情が掻き立てられた。正直な話、あれほど無我夢中になったのは、童貞を捨てた時以来である。

(いや、もしかするとそれ以上かも…)

情けない話だが、あの日以来彼女の姿が頭にチラついて離れなくなってしまっていた。用もないのに近くをうろついたり、サイラスと長話をしてみたりと、我ながら浅ましい行動の限りである。


「オスカー、彼女に会いたいか?」
「………そりゃ、会いたいけどな…」

サイラスの問いかけに、オスカーは何と答えていいかわからない。会いたいか会いたくないかで言えば、それは勿論会いたい。見知らぬ土地でひとり心細くしている彼女の話し相手になってやりたいとも思うし、自分に出来ることがあるのならなんでもしてやりたいと思う。

「ただ、手を出さないでいられる自信がない」
「まぁ、そうなりますよね」

サイラスでさえ無理なのだから、自分なんて彼女を前にしたら数分も我慢出来やしないだろう。

「難儀ですね」
「だな…」


ただ優しくしてやりたいとも思うのに

(会ってしまえばきっと、俺はそれ以上を望んでしまうんだろう)


この気持ちは恋情なのか、それともただの性欲なのか
こんなに自分の気持ちがわからないことがあるなんて、と
オスカーはサイラスの前で、わかりやすく頭を抱えるのであった。
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