傾国の聖女

回顧（オスカー）

「正直拷問です」
「えー………」

そんなハッキリ言っちゃう？とオスカーは困惑の表情で苦笑いをこぼす。


くだんの件以降、さっぱり聖女には会わせてもらえなくなったオスカーであるが、それでもサイラスとはたまに顔を合わせていた。大方仕事の話をして終わることが多いが、それでもごく稀に私的な会話を交わすこともある。

最近の話題の中心はなんと言っても陛下のことだ。聖女が召喚されて以降、目に見えてダリウスの魔障は回復傾向にあった。
特に顕著なのは顔の魔障で、黒く焦げたような痣が今ではすっかり薄くなり、以前の美丈夫さを取り戻しつつある。

こうなってくると、容姿の醜悪さを理由に彼を遠巻きにしていた御令嬢たちが黙ってはいない。もともとダリウスはその地位からして国中の美女から狙いを定められていたのだ。とりわけ婚約者候補とされる上位貴族の娘たちからの執着は凄まじく、側から見ているだけの自分たちでさえ女性不信に陥る程の苛烈ぶりであった。


「陛下と聖女の蜜月っぷりは相当なんだな」
「その様ですね」
「それで、サイラス、お前はお役御免てわけか？」
「…………そういうわけではないのですが」

本音を言えば、彼女を前にして手を出せないというのは拷問に等しい苦行ですよ、とサイラスは天使のように清廉な顔で肉欲に塗れた台詞を吐く。


「お前も男だったんだなぁ」
「彼女の力は本物です。でもそれ以上に、彼女自身がまず愛らしい」
「はぁ」
「陛下を優先的に、というより陛下の魔障さえ治癒できれば、それで充分だと思っていたんですけどね…」
「まぁ、最初はな…」

そもそも聖女なんて眉唾だったのだ。だからこそサイラスも最初の相手となったのだろうし、ダリウスの相手をするようになってからは聖女の負担を考えて過度な接触を控えるようになったのだろう。

しかし結局のところ聖女の力は本物で、彼女とセックスするだけでダリウスの魔障はみるみる快方に向かっていた。オスカーとてただキスをしただけなのに首の後ろの魔障が薄くなったのだ。たったあれだけの粘膜接触でこうなのだから、一度抱かせてくれればどれ程身体が軽くなるのだろう、なんてそんなことを考えないわけでもない。

だが同時に、目の前のサイラスを見てこうも思うのだ。

（あの絵に描いたような堅物のサイラスを、こんなにも骨抜きにしちまうなんて…）


聖女の身体とは、それほどまでに魅力的なものなのだろうか？


（まぁ、わかってんだけどな、本当は）

あの時、相手の事情も自分の立場も、何もかもがどうでもよくなるくらい理性が吹っ飛んだ。

今でもたまに思い出すのだ。あの時の熱情を、彼女の唇の甘さを。