23 / 37
隘路
しおりを挟む
「ん……」
気怠い朝の目覚めはいつものことで、上手く体に力が入らない。
寝返りを打つのも億劫で、充希はそのままの姿勢で軽い咳払いをする。裸で眠っていたせいか喉の調子が悪かった。
(風邪、かなぁ…)
それとも、散々喘いだせいだろうかと昨夜の痴態を思い出し、溜息を吐く。
ここのところ暇さえあればダリウスとお茶をしたりエッチなことをしたりしていた。サイラスに言わせればダリウスの相手をするのは充希の大事なお役目である。だからなんら後ろめたく思う必要はない。ない、のだけれど…
(最近、ダリウスの魔障がかなり良くなってきてる気がする)
そりゃあれだけすれば……とも思うが、そもそもの話充希は最初のダリウスの状態を知らなかった。初めての時は寝ていたし、その次の時も彼は仮面をつけていた。その為いちばん酷いとされていた顔の状態を見ないまま、充希はダリウスとの逢瀬を重ね、そのうちに仮面を外してくれるようになったのである。
(今はもう、少しの痕が残るくらいで…)
とても綺麗な顔している、と充希はダリウスの素顔を思い出し、勝手に赤面する。地位もあってあの顔なら、さぞや女性にモテモテであるに違いない。
(私の相手をしてくれるのも、今だけだろうな)
魔障が完治すれば、自分はお払い箱だ。そしてその後は、他の魔障に苦しむ人たちに払い下げられることになるのだろう。ダリウスと気軽に会えるのも、きっと後僅かに違いない。
「…………お風呂、入ろっかな」
後ろ向きな考えばかりに囚われそうになり、充希は慌てて頭を振る。いくらひとりでぐちゃぐちゃ考えたってなるようにしかならないのである。ならば頭を悩ませるだけ無駄というものだ。
ここでは不自然なくらいポジティブじゃないと、やっていけないのだから。
「もう体は清められているみたいだけど、喉も乾燥してるし……湯船に浸かってゆっくりしてもいいよね?」
いつもはサイラスが用意してくれているが、生憎今朝はまだ顔を見ていない。
というのも最近はダリウスが充希の部屋に常に入り浸っていた為、充希の身の回りの世話も自然とダリウスがするようになっていたのである。
皇帝相手に世話をやかれるなんて不敬以外のなにものでもない話だけれど、当のダリウスが嬉々としてそれをやっている為サイラスも口を出すのを諦めてしまったようだった。
「忙しいだろうに、変な人だよね…」
たっぷり張ったお湯の中に半身を浸して、充希は独り言をこぼす。最近はふと気がつくとダリウスのことばかり考えてしまっていた。重症である。このままじゃきっと知らぬ間に依存して、痛い目を見るに決まっている。
(ああ~……また思考がネガティブな方に…)
こんな時は良い香りに包まれるに限る、と浴槽のそばに置いてある入浴剤に手を伸ばす。確か、ダリウスが好んでいたのはこれだったような……と青色の小瓶を取ろうとしたところで、つるりと手が滑ってしまった。
「あっ」
落ちる!と思った時には、浴槽のふちにぶつかって瓶が粉々に割れてしまっていた。割れた小瓶の中から液体が湯船に溶け込み、むせ返るような花の香りがバスルームに充満してしまう。
(すごい匂い……!換気しないと…!)
焦った充希は勢いよく立ち上がる。が、割れた破片が浴槽内に飛び散ってしまったようで、鋭い痛みに思わず悲鳴が漏れた。どうやら破片を踏んでしまったようだった。じわり、と足先から鈍い痛みが込み上げてくる。
「───聖女様は随分と落ち着きの足りないお方らしい」
その時、唐突に浴室内から声が聞こえてきた。
誰!?と思う間もなく軽々と体を抱き上げられ、嘲るように顔を覗き込まれる。
いったいいつの間に室内に侵入したのだろうか?
パニックを起こしそうになりながらも見返したその男の顔は、何処となくダリウスに似ていて
けれどダリウスとは似ても似つかぬ表情で、充希を見下ろしていたのであった。
気怠い朝の目覚めはいつものことで、上手く体に力が入らない。
寝返りを打つのも億劫で、充希はそのままの姿勢で軽い咳払いをする。裸で眠っていたせいか喉の調子が悪かった。
(風邪、かなぁ…)
それとも、散々喘いだせいだろうかと昨夜の痴態を思い出し、溜息を吐く。
ここのところ暇さえあればダリウスとお茶をしたりエッチなことをしたりしていた。サイラスに言わせればダリウスの相手をするのは充希の大事なお役目である。だからなんら後ろめたく思う必要はない。ない、のだけれど…
(最近、ダリウスの魔障がかなり良くなってきてる気がする)
そりゃあれだけすれば……とも思うが、そもそもの話充希は最初のダリウスの状態を知らなかった。初めての時は寝ていたし、その次の時も彼は仮面をつけていた。その為いちばん酷いとされていた顔の状態を見ないまま、充希はダリウスとの逢瀬を重ね、そのうちに仮面を外してくれるようになったのである。
(今はもう、少しの痕が残るくらいで…)
とても綺麗な顔している、と充希はダリウスの素顔を思い出し、勝手に赤面する。地位もあってあの顔なら、さぞや女性にモテモテであるに違いない。
(私の相手をしてくれるのも、今だけだろうな)
魔障が完治すれば、自分はお払い箱だ。そしてその後は、他の魔障に苦しむ人たちに払い下げられることになるのだろう。ダリウスと気軽に会えるのも、きっと後僅かに違いない。
「…………お風呂、入ろっかな」
後ろ向きな考えばかりに囚われそうになり、充希は慌てて頭を振る。いくらひとりでぐちゃぐちゃ考えたってなるようにしかならないのである。ならば頭を悩ませるだけ無駄というものだ。
ここでは不自然なくらいポジティブじゃないと、やっていけないのだから。
「もう体は清められているみたいだけど、喉も乾燥してるし……湯船に浸かってゆっくりしてもいいよね?」
いつもはサイラスが用意してくれているが、生憎今朝はまだ顔を見ていない。
というのも最近はダリウスが充希の部屋に常に入り浸っていた為、充希の身の回りの世話も自然とダリウスがするようになっていたのである。
皇帝相手に世話をやかれるなんて不敬以外のなにものでもない話だけれど、当のダリウスが嬉々としてそれをやっている為サイラスも口を出すのを諦めてしまったようだった。
「忙しいだろうに、変な人だよね…」
たっぷり張ったお湯の中に半身を浸して、充希は独り言をこぼす。最近はふと気がつくとダリウスのことばかり考えてしまっていた。重症である。このままじゃきっと知らぬ間に依存して、痛い目を見るに決まっている。
(ああ~……また思考がネガティブな方に…)
こんな時は良い香りに包まれるに限る、と浴槽のそばに置いてある入浴剤に手を伸ばす。確か、ダリウスが好んでいたのはこれだったような……と青色の小瓶を取ろうとしたところで、つるりと手が滑ってしまった。
「あっ」
落ちる!と思った時には、浴槽のふちにぶつかって瓶が粉々に割れてしまっていた。割れた小瓶の中から液体が湯船に溶け込み、むせ返るような花の香りがバスルームに充満してしまう。
(すごい匂い……!換気しないと…!)
焦った充希は勢いよく立ち上がる。が、割れた破片が浴槽内に飛び散ってしまったようで、鋭い痛みに思わず悲鳴が漏れた。どうやら破片を踏んでしまったようだった。じわり、と足先から鈍い痛みが込み上げてくる。
「───聖女様は随分と落ち着きの足りないお方らしい」
その時、唐突に浴室内から声が聞こえてきた。
誰!?と思う間もなく軽々と体を抱き上げられ、嘲るように顔を覗き込まれる。
いったいいつの間に室内に侵入したのだろうか?
パニックを起こしそうになりながらも見返したその男の顔は、何処となくダリウスに似ていて
けれどダリウスとは似ても似つかぬ表情で、充希を見下ろしていたのであった。
28
お気に入りに追加
315
あなたにおすすめの小説

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!
奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。
ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。
ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる