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予兆
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「おや、今朝は早起きですね」
てっきりまだ眠っておられると思っていましたと驚いた顔で部屋に入ってきたのはサイラスだった。まあ、彼以外にこの部屋に入ってくる人間はほぼいないのだから、意外でもなんでもないのだけれど。
「お目覚めの前にお体を清めて差し上げようと思ったのですが、一足遅かったようですね」
そう言うと、サイラスは素早く充希の体にバスローブをかけるとお姫様抱っこで手近なソファに座らせ、自分は湯浴みの準備をしはじめた。
(手際がいい…)
なんだか申し訳ないような、有難いような…
複雑な思いでいるうちに、準備の整ったバスルームに案内される。今日のバスタブからは、薔薇の香りがしていた。
「いい匂い…」
思わずそう呟くと、「それは良かったです」と微笑まれる。至れり尽くせりだ。
バスローブを脱がされ再び抱えられる。そのまま優しく湯船の中に沈められ、慣れた手つきでサイラスは充希の体を清めていく。
(人に体を洗ってもらうのを、気持ちいいと思う日がくるなんて…)
お姫様にでもなった気分である。
(もしくは赤ちゃん?)
そんなことを考えていると、自然とふふっと笑みが溢れた。すると右のふくらはぎを洗っていた手を止めてサイラスが充希の顔を覗き込んでくる。
「今日はご機嫌が良いですね、何か良いことでもありましたか?」
「そうじゃないけど…」
なんだろう、少し吹っ切れたのかもしれないと充希は思う。サイラスとはとっくに一線を越えていたし、オスカーにも押し倒されてしまっていた。ダリウスとも体の関係になってしまっている。以前の充希ならとんでもない事態だと、頭を抱えていたに違いない。
けれど人間とは、やはり慣れていく生き物のようである。異常、異常だと思っていても、どこかで感覚は麻痺してしまう。複数の男たちに体をゆるし、そしてこうして裸を晒してもそれほど羞恥心も湧いてこなくなっていた。もう感覚がバカになっているとしか思えない。
(でもきっと、これでいいんだ)
これが所謂心の防衛本能というやつかもしれない、なんてことを考えながら充希はサイラスに向かって微笑み返す。
それはきっと、こちらの世界に来て初めて、心から微笑った瞬間だったかもしれない。
(何もかもを受け入れることは出来ないけれど、受け入れるべきところはしっかり受け入れていこう)
セックスが仕事というなら、割り切って抱かれてやろうではないか。
なんて無駄に決意を新たにした充希であったが、その決心は遠くない未来に粉々に砕け散ることになる。
だがそれは、ダリウスとたっぷり蜜月を愉しんだ後でのことである。この日からダリウスは毎夜充希の元に訪れ、時には昼に、夕にと充希の体を堪能した。
そうして半月も経つ頃には、ダリウスの仮面の下の皮膚は元の色を取り戻しつつあった。
それが、新たな騒乱の幕開けとなることを、この時の充希はまだ知らない。
てっきりまだ眠っておられると思っていましたと驚いた顔で部屋に入ってきたのはサイラスだった。まあ、彼以外にこの部屋に入ってくる人間はほぼいないのだから、意外でもなんでもないのだけれど。
「お目覚めの前にお体を清めて差し上げようと思ったのですが、一足遅かったようですね」
そう言うと、サイラスは素早く充希の体にバスローブをかけるとお姫様抱っこで手近なソファに座らせ、自分は湯浴みの準備をしはじめた。
(手際がいい…)
なんだか申し訳ないような、有難いような…
複雑な思いでいるうちに、準備の整ったバスルームに案内される。今日のバスタブからは、薔薇の香りがしていた。
「いい匂い…」
思わずそう呟くと、「それは良かったです」と微笑まれる。至れり尽くせりだ。
バスローブを脱がされ再び抱えられる。そのまま優しく湯船の中に沈められ、慣れた手つきでサイラスは充希の体を清めていく。
(人に体を洗ってもらうのを、気持ちいいと思う日がくるなんて…)
お姫様にでもなった気分である。
(もしくは赤ちゃん?)
そんなことを考えていると、自然とふふっと笑みが溢れた。すると右のふくらはぎを洗っていた手を止めてサイラスが充希の顔を覗き込んでくる。
「今日はご機嫌が良いですね、何か良いことでもありましたか?」
「そうじゃないけど…」
なんだろう、少し吹っ切れたのかもしれないと充希は思う。サイラスとはとっくに一線を越えていたし、オスカーにも押し倒されてしまっていた。ダリウスとも体の関係になってしまっている。以前の充希ならとんでもない事態だと、頭を抱えていたに違いない。
けれど人間とは、やはり慣れていく生き物のようである。異常、異常だと思っていても、どこかで感覚は麻痺してしまう。複数の男たちに体をゆるし、そしてこうして裸を晒してもそれほど羞恥心も湧いてこなくなっていた。もう感覚がバカになっているとしか思えない。
(でもきっと、これでいいんだ)
これが所謂心の防衛本能というやつかもしれない、なんてことを考えながら充希はサイラスに向かって微笑み返す。
それはきっと、こちらの世界に来て初めて、心から微笑った瞬間だったかもしれない。
(何もかもを受け入れることは出来ないけれど、受け入れるべきところはしっかり受け入れていこう)
セックスが仕事というなら、割り切って抱かれてやろうではないか。
なんて無駄に決意を新たにした充希であったが、その決心は遠くない未来に粉々に砕け散ることになる。
だがそれは、ダリウスとたっぷり蜜月を愉しんだ後でのことである。この日からダリウスは毎夜充希の元に訪れ、時には昼に、夕にと充希の体を堪能した。
そうして半月も経つ頃には、ダリウスの仮面の下の皮膚は元の色を取り戻しつつあった。
それが、新たな騒乱の幕開けとなることを、この時の充希はまだ知らない。
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