傾国の聖女

本能

「んんっ、ふぁ、」

じゅるっと唾液の絡まる音が鼓膜を犯す。
あれ、なんで？なんでこんなことになってるんだろう？？

そう思っているのに、感覚はどんどん与えられる刺激に流されていく。力強い腕と逞しい体に押し倒され、何度も角度を変えながら唇を貪られた。

（なんで…？さっきまであんなに紳士的で、気さくな感じだったのに…）

あまりに突然のことで、抵抗も出来なかった。オスカーの荒々しい口づけはサイラスのものとは全然違う、無理矢理情欲を引っ張り出すような性急さであった。

「オ、スカー、さ」

呼吸の合間になんとか名前を呼ぼうとするが、すぐに肉厚な唇に塞がれてしまう。
飲みきれなかった唾液が口から首筋を伝って落ちていく。こんな激しくて情熱的なキスは経験したことがないし、長い間体を密着させキスをしているとだんだんおかしな気分になってきてしまう。

（やだ……私、濡れてきてる…）

どうしよう、と充希は思う。オスカーは先程聖女の許可があるまでは手を出さない、という主旨の内容を話していた気がする。
嫌がる女の子に無理強いはしない、そう言っていたはずではなかっただろうか？

（あ…でもこれ、私、嫌がってないのかも…）

その証拠に、しっかりと感じていた。体の奥が男を求めるようにしっとりと濡れ、くねくねと腰が揺らめいているのがわかる。

こんなのは間違いなく、淫乱女と呼ばれても仕方がない状態だ。折角否定してもらったのに、こんなにすぐ裏切ってしまうなんて我ながら最低だ。

（硬いのが、あたって…押しつけられてる…）

意識的なのか無意識なのかわからないが、オスカーの下半身が充希の下腹部に密着し、その熱がダイレクトに伝わってくる。
オスカーが充希とのキスで興奮し、欲情している証拠でもあった。互いに少しずつ腰が動いて擬似的なセックスを連想させる動きになってしまっている。

布越しに伝わってくる熱と甘い刺激に頭がぼうっとしてきた。
キスで塞がれた唇からも、次第に下品な音が聞こえはじめている。
このままでは、いつ自分から続きをねだってしまうかわからない…


「オスカー、その辺にしておきなさい」


唐突に、サイラスの声が聞こえてきた。
と同時に、どさりとオスカーが充希の胸元に倒れ込む。どうやら昏倒している様だった。

「怖がらせてしまいましたね。どうやら聖女の気にあてられてしまったようです」

そう言いながらサイラスは意識のないオスカーを担ぎ上げると、ソファに倒れ込む充希のことも起こしてくれた。
あまりに突然のことで充希が上手く言葉が出てこずに放心していると、サイラスは充希の濡れた唇を指の腹で拭いながら「欲情しているようですね」と指摘してきた。

「…………！あの、その…」
「もうすぐ陛下が来られます。その熱は、どうぞ陛下に向けて下さいますようお願い致します」
「…………はい」

はい、としか言えなかった。言いようがなかった。
恥ずかし過ぎて死ぬかと思った。結局誰でにでも股を開いている、その現場をしっかりと見られてしまったのだ。
口では拒否していても、体は男を求めている。言い逃れなんて一ミリも出来ない現行犯だった。