傾国の聖女

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好感

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「噂に違わず、可愛らしい顔をしているな」

まじまじと至近距離で見つめられ、直球で褒められる。
社交辞令とわかっていても、充希は途端に恥ずかしさを覚えた。

「そ、んな…たいそうなものでは…」
「それに、随分綺麗な肌だな。月明かりのせいか、余計に艶かしく…」

そこまで言って、男はしまった、という顔をする。弾かれたように充希との距離を取ると、彼はソファの端へと座り直した。

「勝手に触って申し訳なかった。聖女様には指一本触れるなとの御達しだったのに」
「え?」
「サイラスから聞いてないか?聖女様がよいと言うまで、誰もお渡りはせぬようにと言付かっている」
「お渡り…」

って、あれだろうか。昔でいう将軍とかが大奥に行って性行為をするっていう意味の…

「本当に、初心なんだな」

意味に気づいて赤面してしまった充希をまじまじと眺めて、オスカーと名乗った青年は珍しいものを見つけた時のような反応を示す。
何がそんなに物珍しいのか、彼はソファの端から顎に指をかけて、何かを考え込むような仕草のままうーんと唸り声をあげ続けている。

「聖女なんて言うから、どんな淫乱女がきたかと思っていたが、これはなかなか予想外な子が召喚されたもんだ」
「いっ、いんらんっ!?」
「ああ、聖女の役割はサイラスから聞いただろう?もう陛下の相手もしたと聞いたぞ」
「そっ、それはっ、」

そうだけど……と、充希はしおしおと項垂れる。
いんらん。かなりのパワーワードである。確かに、確かにそうなんだろうけれど…

(流石にこうもはっきり言われちゃうと、ダメージ大きいなぁ…)

好きでこうなったわけじゃないのに、なんて言い訳にしかならないのだろう。
側から見た評価は、きっとこれが正解なのだ…


見るからに落ち込んでしまった充希を見て、オスカーは失言だったと気付いたのだろう。慌ててフォローするかのようにバシバシと肩を叩かれた。

「だっ、大丈夫だ!お前がみんなが思っているような子じゃないのは見て明らかだし、本当に嫌なら陛下の相手だけしていればいい!」
「……でも、それじゃあ他の魔障にかかった人たちはどうなるんですか?」
「あ、あー……それな…」

先程の勢いはどこへやら、急に意気消沈した様子のオスカーに、充希は首を傾げる。すると、その拍子にオスカーの首の後ろが黒く焦げたように変色している様子が見えた。

「あ、これな」

充希の視線に気付いたのか、オスカーが左手で右のうなじをさする。

「魔障が酷くなると、こうなるんだ。見た目にも醜いだろ?」

だからまあ、治してもらえるなら治して欲しいんだが、とオスカーは口籠る。

「でもま、だからって嫌がってる女の子に無理強いするほど落ちぶれちゃいないし、まだすぐには命に関わるってほどでもないからな」

まあ気にするな、とオスカーはにこりと笑う。
それは人を安心させるような、人懐っこい笑みだった。

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