ダーとわたしのありそうな話

ChimTam

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case,04【澄玲の場合】

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私は今日30歳になる

きっと数字が変わるだけで毎日が変わることはない


ちょっと婚期失ったくらいで、仕事はおかげさまで順調だし…


彼氏ができないのもここまできたらデフォだ


今日もひとり居酒屋で晩酌して帰る



「ちょっと早いけど…すみれちゃんハピバ!」

「えっ??しってたんですか??」

「カナからきいたんだよね~」

「嬉しい!!ありがとうございます!!」



小さめでカラフルな花束とメッセージカード…



「カードはおうちで読んでね!恥ずかしいから!」

「ふふ…気になりますねぇ…あはは」



居酒屋をでると、ひとりの男の子も出てきた

会釈をして花束の匂いをかいだ…



「すみれさん!」

「えっ?」

「…ぁ……っと……どこかいきませんか?」



どこかって??



「すみれさんにバースデーソングをプレゼントしたいです」

「えっ?……でも…みんなと一緒にいたんじゃ?」

「ふふ…抜けてきたので大丈夫です」

「でも…」

「バーにいきませんか?もちろん帰りはタクシーで送ります」



差し出された大きな手は私の手を覆った



「おぉ!いらっしゃい!女性連れなんて珍しっ」

「奥借りるね!」

「はいはーい」



重厚なカーテンの奥は2人がけのソファがあって、小さめなテーブルにはあらかじめふたり分のグラスがあった


常連客らしいこの子は紙になにかを書いてる


そして、わたしはそこにかざってある大きな絵に魅了されていた


近づいてさわろうとした瞬間…



「すみれちゃん…だめだよ?」



大きな手が私の手を隠した



「なんか…吸い込まれそう…」

「ありがとう」

「えっ?」

「コレはぼくの絵だから…」

「すごい!」



ふふってすこし照れてるこのコは、さっきより幼く見えた



「行こ!」



手を引かれるままについていくと



「「「「「Happy birthday!!!!」」」」」



そしてクラッカーの紙が宙を舞ってる…



マイクをもった彼がステージにいる



「大好きなすみれちゃんの誕生日…ぼくからのお祝いです」



音楽とともに彼の真っ直ぐでキレイな声が、フロアに静寂をもたらす



「すみれちゃん…ぼくとお付き合いしてください!」

「えっ……っと……ん?まって?」

「待つのは苦手です…」



ひざまづいて「だめ?」って仔犬みたいにまん丸な瞳を潤ませた



「……と…もだちからでも?」

「“ともだち”はだめだよ!彼氏がいい!」

「えーっと…いくつ?」

「年齢は理由にならないよ」

「…ぁ……っ」



どうしたらいい?

なんて言ったらいい?

まわりの空気もざわついてきた



「断るならスッパリと!」

「……ぁの…初めましてだよね?」

「…話すのは初めてです!」



そっか…居酒屋では見掛けてるからか…



「おねーさん!決めてあげてよ~?」



えっ…どうしよう??



「本気で言ってる??」

「本気だよ!うそはきらい」

「わかった!お願いします」

「やった!!」

「こいつの初告白成功を祝して!シャンパン奢る!」

「ありがとう!マスター!」



え……っと……


色々と気になるけど、私は彼に手を繋がれて知らないお客さんたちと乾杯をしてる



「おまえ…あんまり呑ませるなよ?」

「…すみれちゃんだいじょうぶ?」

「少し座ってもいい?」

「…おいで?」



さっきの部屋に戻ってソファに座ると、彼は照明を落として絵にライトを当てた



「わぁ……すごい………きれい…」

「ふふ…この仕掛け誰にも教えてないんだ」

「ありがとう…こんなステキな絵みたの初めてだから、うまく感想言えないけど…」

「すみれちゃんのその顔だけで充分だよ」

「……なんか恥ずかしいな…」



ライトを絞ったり広げたりすると、絵は色々な顔を魅せた



「1枚の絵じゃないみたいね…別の絵を見てるみたい」

「すみれちゃん…今度モデルになってよ?」

「……わたし??」

「そう…わたし!」



私のあごをさわって「ふふ…綺麗…」って…



「君のほうが何百倍も綺麗だよ」

「いまのすみれちゃんはライトの当たってないあの絵…これからはぼくがすみれちゃんにライトをあててあげる」

「…私も変わると思う??」

「すみれちゃん…ぼくだけをみててね…」

「わかった……ねぇ?酔いがまわってきたよ?」

「ふふ……送ってく…帰ろ?」

「ひとりでも大丈夫だよ?」

「お酒呑ませてひとりで帰せるわけない」

「ありがと…」



呼んでくれたタクシーに乗ると、彼は手をむにむにしながらさわってる



「すみれちゃん…明日仕事?」

「明日はお休みだよ」

「ねぇ?ウチにお泊まりしない??」

「えっ??」

「…やっぱり…えってなるよね…ごめん」

「ぁ……っとそうじゃなくて…何にも準備してないし…」

「あ、ごめん…そうだよね」

「うん……」



なんかしょんぼりしてる…


あっという間にマンションの前に着いてしまった



「…すみれちゃん??」

「一緒に降ります!」

「えっ??」

「まだお話してたいなとおもって?」

「うん!降ります!!」



オートロックを開けてエレベーターホールに着くと、気付いてしまった



「…彼女って…何したらいいんだっけ?」

「えっ??ふはははは!!なんにもないよ?」

「だって……そういうのよくわかんないから」

「ぼくに恋して愛してくれるだけでいい…」



そういうもの??



「あと、僕に愛されて…僕だけをみて…」

「うん…それなら大丈夫そう…」



私が世の中に仔犬みたいな男がいないことを実感するのは、もう少しあとのお話…




~~~END♡
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