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本編

ローランとエリカは……

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side ローラン

 その後ローランは西にある塔に幽閉されることになった。日に一度塔の外の小さな庭を散歩することは許されていた。


 幽閉されて半年もしたころ、陛下となったエティエンヌがローランの元を訪れた。塔の外の庭にはお茶の用意がされている。

「少し話そうか、ローラン」

「けっ。王位簒奪者が」

エティエンヌが笑う。

「君は王位継承はしてないよ?」

「なにが?俺はエリク達と婚約者に王位継承の用意を申しつけたぞ?」

「君の婚約者はソフィーで前陛下が亡くなった事も知らずに君に無体な事をされていたのに無理だよね?」

「エリカの事だ」

ローランはそれなりにマナーにかなった態度でお茶を楽しんでいる。

「エリカ嬢はあの時点で誰とも婚約をしていないよ。君の兄上ともね」

ローランは不思議な表情になる。

「兄上は……エリカを最愛の人って言ってたんだぞ?」

エティエンヌは声も平静なまま話を続ける。

王子きみたち二人とも理解していないようだがね、婚約の同意書を『双方の親』と『当事者同士』のサインが必要なんだよ。貴族や王族はね。もちろん我が国の場合、だ」

エティエンヌはじっとローランを見る。

「私とあに……じゃない、ランバート公爵は君たちの教育のカリキュラムを全て洗いだし
た」

ローランも大人しく話を聞いている。

「二人とも学園に入るまでは教師をつけているはずなのに全員、王太后のばばあに首にされて、教育はババアが読む都合のいいおとぎ話だけだったんだな」

「おばあさまは僕らにちゃんと教えてくれた」

ローランはふてくされた子供の顔で答える。

「あの人自身が王国史や王国法、領地経営、全く理解していなかったのだよ。……あのババアは学園でも評判の劣等生でな。……ローランとエドワードがそれでも普通クラスで頑張れたのは偉かったと思う。……側近たちに手助けされていたとはいえ」

エティエンヌは会話をすればこの甥が年齢よりも幼いことを理解した。まだ「育って」ないのだ。

「なので、まずはゆっくり学んでもらう。色んな基礎をね。その進み方で塔から別の場所に移す事を考えようと思っている」

「……勉強すればいいんだな?」

「ああ。それに勉強していたら他人と『会話』出来るぞ」

「わかった。受け入れる」

ローランなりに自分がなぜこんな目にあっているのかを理解しようと思ったようだ。



 ローランは戴冠式を行ったわけではなく前陛下達が亡くなった夜にに王太后に『あなたが王よ』と言われそれならば、とエリカの持っていた自主流通本のとあるシーン、婚約者凌辱、を欲望のままに行い、翌朝から『陛下』だと宣言した、という事だった。側近たちに煩雑な手続きをやれと命じ、その手続きが済まない内に側近の家をとりつぶす、そんな体たらくだったのだ。なので、まったく書類もないもない宣言だけの王、であったのだ。

エティエンヌは溜息をついた。

「さて、ローランはいつ理解できるかな」


side エリカ

そこは王都の小さな家。夫は貴族に使える男で妻は元貴族令嬢らしい。かけおち?と近所では噂になったがそうでもないようで、つましく暮らしている。夫の名はアレン、妻の名はエリカと言うらしい。妻は元貴族令嬢らしいがとてもきさくで無口な夫と楽し気に過ごしている。偶に夫とよく似た顔立ちの女性が訪ねてくる、そんな平凡な家だった。
 エリカをかばったということでランバート公爵はアレンに言い渡した。

「普通に街で暮らすといい。……彼女は恨みを買いすぎている。何が起こっても知らないからな」

と。公爵の言葉は正しかった。アレンが公爵の所で勤めて帰宅したある日。庭の洗濯ものが干された物陰でエリカは無残な姿で事切れていた。一見普通の死体は体の内側が全て抜かれていたのだ。犯人は捕まっていなかったが、ランバート家の調査でこの殺し方はビロン男爵が組んでいた麻薬組織の見せしめであると。

 「どうする?」

ランバート公爵の言葉にアレンは首を横に振った。

「復讐するような情は持ち合わせてません」

ランバート公爵の片眉が上がる。

「……あれは、エリカは本当に普通の女です。浅はかで、軽薄な。……それだけです」

アレンはそう言うとランバート公爵の前を辞した。


※ あと1~2話で終わります
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