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再びアキラの章

30 ほんの少しの刺激

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 荷物番の近衛と隊長にはアキラからヨアヒムの疲労回復剤と熱々の珈琲が渡される。フランシスは起きてすぐにアキラ達に礼を言いに来た。

「正直助かった。ありがとう」

「そうか。昼飯はこっちが用意した。肉の多めのシチューがあるからそれを食べてくれ。あったかい食べ物を食べたら多少は元気になると思う」

アキラはそう言って大きな鉄鍋をフランシス達の方に持ってきた。

「そうだ。次のセーフエリアまでヴィーは歩かなくていいと思う。ここでまき返したいからな。今日中に目的のセーフエリアに向かうぞ」

 今回は10分ほどの遅れでフランシス達はアキラ達についていけた。お陰で余分に戦闘をすることもなく違和感のある森の中を進んでいく。

「だいたい森の構成がおかしい感じがあるよな」

アキラの呟きにフランツが答える。

「南方の植物と北方の植物が混ざってますからね、ここ。北方の植物に南方の蔦が絡まってますし」

「ああ、そういう事か」

アキラは森の違和感の正体がわかり納得したようだった。



 次のセーフエリアで30分休む。

「おう、ヴィー、ここからは30分は歩けよ。あんたとメイドが遅れてるからな、今の所」

「うるさいんだわ」

それでもヴィーは他人に構ってもらえるのが嬉しいらしくちょっと機嫌がいい様だった。

「30分ちゃんと歩いたら夕飯の後いいもんやるよ」

アキラがそう言ったのでヴィーがにっこりした。

「わかった」

「お付き、ちゃんと30分歩かせろよ」

お付きの男は無表情に頷いた。アキラとヴィーが話している間、ルトガーは全員にこっそえいヒールをかけていた。これも打合せ通りである。

「今日の夕飯と寝床の為に歩くぞ」



 近衛達はわかっていた。自分たちを先導している冒険者達がモンスターを退治しながら動いているので自分たちが戦闘をせずに住んでいるという事に。そしてエリクとお付きはそれに気が付く余裕がなく、フランシスとルディは気が付いている事にも。
 一行は黙々と歩く。

「一匹後ろに行った」

アキラから声が聞こえてきて先頭を歩いている近衛とフランシス、ルディが構える。飛ぶようなスピードで灰色の野犬が走ってきた。近衛の剣が左前脚を切り、フランシスが頸動脈を切り飛ばし回り込んだルディが左の後ろ脚を切り落とした。

「申し訳ない、予想外の数の群れで一匹取りこぼした」

アキラが頭を下げる。が、歩くだけではつまらなかろう、とデヴィッドと相談して一匹だけわざと後ろのフランシス達に任せたのだった。背負われていたヴィーは何が起こったのか理解していなかったが兄達がぴりっと顔を引き締めたのでトラブルがあった事だけは分かったようだ。
 残りの道は平和そのもので予定よりも1時間半押しでセーフエリアに着いた。

「つっかれたー」

ヴィーが言う。そこにアキラ達の夕飯の匂いが流れてくる。甘いようなこっくりした濃さのある匂いだった。ほんのり生姜の匂いもする。匂いにつられてヴィーが寄ってくる。

「食べるか?」

アキラが声をかける。底には焚火台とその上に大き目の鉄のフライパンがあり、そこに豚肉が生姜や玉ねぎと共に甘辛い味付けで焼かれている。アキラが焼き、フランツが床に大量にあった細く切ったキャベツを挟んだパンに肉を挟んでいった。

「いいの?」

「皆呼んでおいで。こっちで食べよう」

夕飯は意外と和気藹々と過ごせた。アキラはヴィーに可愛らしく包装されたラムネを渡す。

「ご褒美に甘いものをあげよう」


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