上 下
423 / 585
ランディの帰省(vs.虎人国編)

11

しおりを挟む
 「あ、確かに」

ランディが思わず口にする。ヴァイオレットは小首を貸してる。

「似てるんですか?」

「ちょっとね。人形みたいに綺麗な顔した子だよ。このこ、ルトガーともちょっと似てる」

「俺とユリアーナが似て見えるのは色合いのせいじゃ?」

「そういうのも含めて似てる、っていうんだよ」

ランディが酒を口に運びながら言う。




 「あの……」

「ここはそういう事をするための場所だけど、気乗りしてない人と無理やりするなんてことはないのよ?」

ルトガーは竜を倒した記念だ、とヴィオレットと共に寝室へ向かう。オールとランディとシンディは用意された別室へと行った。

「色々、お話しましょう?」

ベッドの上でルトガーはそう言われやっと緊張を解いた。ルトガーはヴィオレットの事は美しいと思うのだがふっとユリアーナが浮かんでそういう気持ちを抱く事が出来ない。ユリアーナはここまで完成された美形ではないが自分の可愛い妹でその妹と似てる女性に欲情するのはルトガーには無理な事だった。
 話が上手いヴィオレットはルトガーが何故自分にそういう気持ちにならないのかを早々に聞き出し、ルトガーと寝るのは意味がないどころかルトガーに妙なトラウマを植え付けかねないと判断した。ルトガー自身がもっと男の面子とかせっかくのチャンスというタイプでもないという事も関係しているのだろうと思った。
 色々な話をし、眠そうなルトガーに柔らかい声で眠りの呪歌を歌うと緩やかにルトガーは眠りに落ちた。ヴィオレットがルトガーを観察していると、ルトガーはぱちっと眼を開ける。ヴィオレットは驚いた。彼女の呪歌で寝かしつけた男がこんな短時間で目を覚ます事はまずないからだ。ヴィオレットは動揺を隠して声をかける。

「どうしたの?喉でも乾いた?」

ルトガーはうっすらと笑った。

「え、いいえ。……あんな愚痴聞かせてごめんなさい」

そういうとルトガーはすぅっとまた眠った。眠るまでルトガーは女性が得意とは言えない事やそもそも女性に興味を持てない事をヴィオレットに聞かれるままに答えていたのだ。
 ヴィオレットはこの子に恋愛が出来るにはまだ時間がかかるだろうし、恋愛というか心を先に通わせないとこの子は誰かと性的な接触をすることもないのだろう、と判断していた。そして、まるで弟を扱うかのように扱った。
 ルトガーは今、離れているヴィオレットの弟と少しだけ似ているのだ。なのでルトガーの気持ちを理解し最適な行動をとれたのだ。
 不作だった村の借金のかたに売られた数人の少女の中にヴィオレットは入っていた。5年も働いたら村の借金も返せて他の少女たちは村に戻ったが、ヴィオレットは家の為にそのまま神聖娼婦をつづけた。村に帰りたくなかったのも大きかった。
 なまじ美しい少女だったために幼いころから村の男たちの無遠慮な性的な視線や言動にさらされて村の男たちを好きではなかった。そんな自分が村に戻っても村の娼婦扱いになるのは目に見えている。帰った子達にもそれは忠告したが、『親が守ってくれる』と言って帰っていった。ヴィオレットにしたら守ってくれるならそもそも神聖娼婦になってないと思っていた。


 「おはようございます」

ルトガーはヴィオレットより先に起きてきっちり身支度をしていた。

「ごめんなさい。支度手伝わないといけないのに」

「自分でできますから」

夜にあった少しお互いの内面に触れたような空気はもうなかった。ヴィオレットはこの子はかなり頑固だな、と思ったが口には出さなかった。

「朝ごはんが来ますからあちらの方へ」

とベランダにあるテーブルとイスをルトガーに教える。ルトガーはそこに座る。ヴィオレットのおつきの少女が熱すぎない白湯を持ってくる。この街は拠点ほどは寒くない。
 ややあって朝の支度を終え、夜と違って殆ど化粧っけのないヴィオレットが柔らかそうな布の楽そうなドレスをまとってルトガーの前に座った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

処理中です...