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海の姫の章

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 「お、来てくれたか」

「勝手にってるよ」

デヴィッドが北のギルドの会議室に入って来た。そこにばヴァイキーがいた。

「とりあえずの連絡だが。アキラがミヒャエルに懐かれた」

ヴァイキーは手に持っていたグラスを置いて長く息を吐いた。

「アキラ、頑張れ……」

ヴァイキーはそう呟くのみだった。

 「でだ、万聖節の話なんだが」

「ミヒャエルじゃなく?」

「ああ。ヨアヒムにも酒のついでで話したんだがな」

万聖節にクランハウスを持つように働きかけている事、彼らがクランハウスを持った時点で「クラン」の設立条件にクランハウスを持つこと、にしたいとデヴィッドは話す。

「そういう話はミヒャエルより先にウリに持って行くべきだったな。ウリがその気にさせてその時点で話が行くように、って動かしたらミヒャエルは楽に動くよ」

「あー、そうだった、そうだった。ヴァイキー達がいた頃だとヨアヒムに相談したら大抵の事は出来てたからなぁ。あの感覚が抜けない。あの時はクランハウスあったろ?」

「ヨアヒムの自宅な、あれ」

デヴィッドは考え込んだ。

「まだミヒャエルの家はあの宿屋か」

「そうだ。アキラは初対面で連れていかれたって」

魔剣が急に口を挟んだ。

「アキラもやなやつに見込まれたもんだ。今のお気に入りのアキラに説得させれば良いんじゃないの?」

げらげら笑って魔剣は静かになった。

「アキラ使うか……」

「ご近所になったら俺は王都のクランハウスにはいられねぇな」

「どーせ殆どつかわないだろ?」

「まぁな」




 依頼のオルトロス退治を終わらせてアキラは王都の冒険者ギルドで報酬を受け取った。手元には金貨2枚を取り残りはクランの口座に突っ込んでおく。
 呼ばれていたので本部のデヴィッドの執務室を訊ねる。チャーリーとゴールディがいるだけで他の人員はいない。今は他の人員は別の部屋で事務仕事をしているのだとか。チャーリーとゴールディがそれらの書類のチェックをした上でデヴィッドに書類を回すシステムになったのでデヴィッドの負担はかなり減ったそうだ。それでも各支部との連絡や会議があるので忙しい事には変わりはない。



 デヴィッドにダメ元でいいから、とミヒャエルの説得を頼まれてアキラは部屋をでた。ギルドの食堂にミヒャエルはおらずどうしようかと思いながら、ミヒャエルに連れていかれた宿屋兼食堂の前に出た。

「あ、こないだの」

女将に誘われるままアキラは食堂に入る。アキラは供される食事をつぎつぎ平らげる。基本塩味だが少し薄味でこちらの食べ物にしてはアキラの好みにあう。
 
「よく食べたね!」

アキラの食べっぷりに女将は満足している。

「いえ、とても美味しいかったです」

「今度はもっと大盛りでな」

厨房の奥からぶっきらぼうな声がかかる。

「坊主ならまだ食べられるだろ」

アキラはあいまいに笑い食堂を出た。
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