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海の姫の章

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 「ユリアーナにね。『偉そうにしたかったら本当に偉くなったらいいんだよ』なんて言われちゃった」

エヴァはヨアヒムにだけ話す。

「今の中途半端な自分じゃヴァイキーに迫る事もできないし、自信のなさがこの言動産んでるんだろって言われた」

ユリアーナもきついなとヨアヒムは思ったが、皆がエヴァを責めたりしなかったのはその性格が虚勢であることを理解していたからだ。ヴァイキーが『子供の時からあんまり変わってない。本当は怖い癖に俺の後から着いてくる子だったよ』とカイやヨアヒムには説明していたのだ。未だにそんなままなんだな、とヨアヒムはエヴァの事を思った。



 「エドガーもシルバーに着いて行ってくれる?軍資金はクランで出すし」

「え?」

エドガーが顔を出したとたんにアキラに言われる。

「ルトガーだと顔の傷で覚えられやすいからな」

ヨアヒムも納得する。

「わかったよ、師匠とアキラは悪だくみ、ってところかな」

アキラが自嘲気味に笑う。

「いんや。おれがヨアヒムに泣き言言うの。ヨアヒムは俺の泣き言は大体知ってる」

「しゃーない。17年しか生きてない子供には泣き言なんてたくさんあるさ」

ヨアヒムの言葉にエドガーが食いつく。

「ん?アキラおれより少し年下くらい?」

「かも。さすがに俺らは正確に何年生まれってわかってない事多いからな」

エドガーはふーんと言ってからにやりと笑ってアキラの髪をぐしゃぐしゃにするようい撫でる。

「じゃ、アキラ俺の弟な」

エドガーは自分が最年少ではないとわかって嬉しそうだったし、『弟』ができたと喜んでいる。ヨアヒムがエドガーのおでこを指で弾く。

「あいてっ」

「ガキじゃないんだから」

アキラはくすくす笑ってる。

「こういうの行き過ぎると良くないぞ」

「知ってる。クロが俺とレッド引き離したのがまさにソレだったから」

それでもアキラは笑ってるのでエドガーもちょっときまり悪そうに笑った。

「ま、気持ちだけありがたく受け取っとくよ。でも、まぁ」

アキラにエドガーは笑いながら頷いた。

「わかってる。アキラはこのクランのリーダーだ。それはちゃんと認識してる」



 エドガーがシルバー達と出て行った後にアキラはどさっとソファに座り込んだ。

「なんかエドガーに毒気抜かれた」

「なんだ愚痴はなしか」

ヨアヒムはマグカップに入れたハーブくさい酒を飲んでいる。北の蒸留酒に数種類のハーブを漬けたものだそうだ。

「いや、エヴァも突き詰めればエドガーの『弟が出来た』って気持ちに近かったんだろうけど……。エヴァから受ける感情とエドガーから受ける感情がえらく違っててな」

「エヴァは一度自分と向き合わないといけない時期だよ。普通なら母親になって2~3人の子供もって『自分とは』なんて言ってられない年齢だけど、エヴァはヴァイキー一筋で来たからな。あの年になってもまだ男知らずで来てるから育ちきれないとこが残ってるんだろう。アマゾネスの所で鍛えてもらうのはいい事だ」

ヨアヒムはエヴァに対して親心に近いものがある。

「俺にしてもカイにしても、……ヴァイキーに一人余分なおまめがついてても冒険者として仕事が出来てたからあの子をおまめのままで来させてしまった。アキラがパーティで仕事ができるようになった時にエヴァは焦らなきゃいけなかったんだよ。けど焦らずに成長しないままだった。そこから齟齬が彼女の中に起きてたんだよ」

ヨアヒムは髭を撫で撫でそういった。

「俺はクロから魔法の基礎を教えてもらってて。色々できるし、一緒に戦ってたら後衛が仕事してないからエリアヒール飛ばしてたけど。ヨアヒムの補佐のつもりだった。エヴァは戦闘要員に数えてなかったんだよな」

「お互いな。俺は剣術はそこまで強くはない。一般冒険者に混じれば強い方だが。うちにはカイがいてヴァイキーがいた。奴らの実力に見合う獲物を狩らせたかったんだ。それにそうすれば万聖節たちを見返せるっていう浅ましい気持ちもあったな」

アキラはヨアヒムを見た。

「万聖節と仲直りしたい?」
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