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海の姫の章

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 エヴァとユリアーナという常識的な女の子がクランにいて正直かなりやりやすくなってるな、とアキラは思っている。自分にはない『性欲』の制御も発散も品位をもって『隠す』なりしてくれるのでアキラとしては一安心だった。冒険者が皆ヨアヒムやヴァイキーのようではない、というのも身に染みている。日本からこちらに戻ってみるとこの国の空気とは馴染めなかった。とりあえずで始めた冒険者家業ではあるが冒険者のもつ荒々しさに馴染めなかったのだ。

 そんな時、丁度万聖節を方針の違いで抜けたヨアヒム達と出会ったのだ。その頃は王都周辺での狩りをしていたのだが、E級からD級になろうかと言う頃だった。アキラの事を初心者とみたヨアヒム達が暇だったのも手伝って指導してくれて、あっという間にB級まで駆けあがった。それからはヨアヒム達が受けるS級モンスター相手の依頼にも着いていけるようになった。その頃にはアキラは自分の体の使い方や戦い方もわかってきたし、軽い魔法なら使えるエヴァやヴァイキーになら軽い魔法を教えてもらい、そこからもっと大きな魔法をギルドの本を利用して使えるようになっていった。
 エヴァだけが初期の初心者アキラからアキラの事を書き換えられていない。なのでユリアーナがいると色々とユリアーナがエヴァの言動をさらっと直してくれる。それとやはりエヴァは冒険者より農場の方が肌に合うようだった。農場をメインにしてからずいぶんと落ち着いている。ヴァイキーが一人で遠方に行っても何も言わない程度には落ち着いているようだった。今行っているのが北方である事も大きいのだろう。秋口にヴァイキーに着いて行った時かなり凍えたらしいので、寒さに懲りたのだろう。


 「なぁにしけたつらしてんだよ」

ノックもなにもなくレッドが部屋に押し入ってきた。

「これから女の所行くけど、アキラの筆おろし済ませる?」

「いらね」

アキラはあかんべーをする。

「なにそれ?」

「ま、軽い拒絶のしぐさ」

レッドはアキラの頭を腕で固定すると頭頂部に拳のでっぱりをぐりぐり押し付ける。

「ほんと、異世界むこう行ってから悪い事ばっか覚えてきたなぁ」

レッドはちょっと嬉しそうに言う。日本異世界に行く前は自分に怯え切って自分が視界に入ると硬直していた子竜が生意気な事が出来るようになっているのがレッドはとても嬉しいのだ。

「とりあえず、シルバーフォローしてやってよ。疲れてるから」

「あいつ、人の肌とか思念苦手だもんな。俺は今日はあのあたりの酒場で田舎から出てきた冒険者のふりしていい女、評判の女のチェックしてくるつもり。その中にシルバーが知らない女がいたら通う、と」

レッドはレッドで色々かんがえているようでアキラは二人に任せれば大丈夫だろうと判断した。
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