上 下
332 / 585
海の姫の章

14

しおりを挟む
 「アキラ?なんでいるの?」

畑帰りのユリアーナにつかまる。

「今ゲートの実験中」

「そっか。近いうちにこっち戻ってくる?エイギョーの恵太さんが相談したい事あるって」

ユリアーナは今日はグリーナーがブラッドの為に植えたみかんを持っている。これは魔法で調整され四季問わず実が成っている。このみかんをいくつかユリアーナはアキラに持たせる。

「そっちブラッドとかお兄ちゃんとかいるんでしょ?お茶のおやつにでもしてあげて」

「ユリアーナ、ありがとう。来週の今日の曜日に一度話を聞きに戻ってくるよ」

「良いって事よ。わかった、エドモンドに伝えて恵太さんに言っとく」

ユリアーナは笑いながらそう言って母屋に向かって歩き出した。
 アキラは今度はゲートに設置された緑の石に指輪で触れると元の王都の部屋にもどっていたがさっきまでなかった氷の柱がアキラの横にあった。

「なにこれ?」

「すまん、位置調節確認も兼ねてた。書架の前に人がいたりした時の為に転移してくる位置を調節してくれる機能を着けてるからその動作確認」

「びっくりしたよ」

「ここでとかしたら床が広範囲で濡れそうだな」

そう言いながらアキラが少し考えている。

「とりあえず、氷を風呂にぶっこんでおくよ。湯温は勝手に魔石が調節してくれるしな」

アキラの案に他のメンバーも賛成する。オールがルトガーになにか言っている。

「ルトガー、やってみて」

ルトガーが暫く静かに立っている。

「あの、西の端と東の端に魔石の気配はあるんですけど……」

「アキラ風呂は今どっち使ってるか小さい声で教えて」

アキラは西の方がとオールに耳打ちする。

「じゃ水の気配が大きいのはどっち」

「……水の気配はわかりませんが東はなにも感じない度合が強い気がします」

「稼働してる魔石の気配と未だ動いてない魔石の気配の違いを思い出して」

オールはルトガーに魔力のコントロールを教えているのだ。魔法戦と治療を同時にするには繊細な魔力と魔法のコントロールが必要になる。そのための訓練でもあった。

「どっちかは口にしなくていい。その氷の柱を正しいと思った方へ飛ばしてごらん。フォローはするから」

「クランの施設だから気にするな」

オールの指示とアキラの励ましが飛ぶ。ルトガーはリラックスしたようで苦笑いしながら魔法杖を握りしめその手に力を入れた。

「あたり。西の浴室の湯船に氷がじゃぼんって入ったよ。ほら今なら浴室の魔石の活性化の差がよくわかるよ」

アキラも真似して両方の浴室へ魔力を伸ばすがまだ魔石の気配すらわからなかった。

「あ、これこれ」

あきらは手に持っていたみかんを各人に配る。

「残ったのはシルバーの分、と。向こうでユリアーナに貰って持ってきた」

「お、物質搬送のテストも期せずして出来たな」

ブラッドが嬉しそうにみかんの皮を剥く。ブラッドが食べてしまうとオールは自分の分をブラッドに渡す。エドガーは二人の事をわかっていなかったがルトガーは察したうえで黙っている。

「エドモンドに家具の話しておいてくれる?」

アキラがルトガーに言うとルトガーは頷いた。

「あー、東の国の商店のジョージに畳頼まないと。来週のこの曜日に一旦帰る。それまで街の拠点のゲート作っといてくれる?」

「わかった」

ブラッドは頷いて約束した。
しおりを挟む

処理中です...