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金と銀の玉の章

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 シルバーはほんの少しもどった力で黒の気配を目の前にいる竜人混じりの青年に感じた。黒の端末という感じはしないし、黒の端末ならこの場所には来られない。けれど黒とは関係がありそうなので青年、ランディの『中』を探索した。
 予想していた通り、ランディは『眼』の役目を担っていた。シルバーはそこからたどって黒と黒の竜と一体かしている銀の竜の玉と繋がったのだ。

『黒っ。危険な状況なんだ。食料送ってくれ。消えそうなんだ』

藪から棒に銀の声が飛んできて食料を要求する。黒はアイテムボックスに備蓄してあるものをとりあえず銀の竜の指示する座標へ送る。

『いきなりつながったか』

『貴方が眼にしていた彼からたどりました。そして手元に私の玉がある、とか?』

『あるぞ。吸血鬼の腹に埋まってたのを取り出して手元に持ってる』

『それででですか』

銀の竜が納得したようだった。つい最近まで玉との接続が切れていて必要なものを本体に取り入れられず本体が消えかかっていた事。玉が黒の竜の手元に来た時からだろう、少しだけ魔素を取り入れられるようになってぎりぎりの状態で本体を維持していた事、海の呪いを解く力も既にないのでそういうものを復活させるのに『体力』をつけたい事などを銀の竜は話す。今はまだ転移などにも耐えられなさそうである事も付け加える。

『幸い、来てくれた方は端末の事を理解してくれてるようなんで…』

『青や赤と暮らしてるからな。食べながらでいい。ゆっくり玉と同調してくれ』

『はい、また繋ぎますね』

『わかった』

黒は銀がそうなった経緯を聞くのは後日にしようと思った。



 「長い間食ってないなら、これからやな」

と宗介は食材を見てからトマトリゾットを作り始めた。

「良い匂い」

シルバーはうっとりとする。

「本体はどちらに?」

ランディに訊かれて

「この森の奥。海のと同じように偽装してあるんだけど、今は偽装を解くだけの力もなくてね。海の偽装も解きたいのだけど…。ってことで食べまくるので、宗介さんよろしく」

「わかってる。アキラちゃんもレッドもよう食べるからな。あ、思い出した」

宗介はヨアヒムからエリクサーを預かってきていた。

「これ、飲んだって。毎日渡すから、1日1本、飲みにくいらしいけど」

銀の竜は小瓶を見つめる。

「エリクサーやて。えらくよう効く薬みたいやね。魔力漏出症以外には効く万能薬やとか。レッドもこれで治ったって言うてやったわ」

宗介は米を炒めながら言う。こちらでいうダッチオーブンの形をした鍋を使用している。

「そりゃ、治りますね…、すごいなぁ」

シルバーはそう言いながら小瓶の薬をぱかっと全部一気に口に入れた。美貌の人はそのまま悶絶し、その場所でしゃがみこんだ。

「大丈夫ですか」

ランディが飛んでくる。シルバーはそれを手で制し首を横に振った。

「大丈夫じゃない…。予想外の味だった」

マルクが何も言わずガス入りの水にレモンをたっぷりたらし薄っすら甘味をつけたものを渡す。シルバーは一瞬炭酸に目を白黒させたが、レモンの匂いで口や喉に張り付いた青苦い匂いを追い出した。




 「結構長い時間はかかりそうなので、黒の竜がここに来るわけにもいかないし」

「そういや、海の竜は陸で自由できるって本当なの?」

朝からアイリスはシルバーと喋ってる。エヴァとニーアとマルクは朝食を作っている。まだ海の偽装を解くにはシルバーの力が足りないので船員たちも自由にこの島に上陸していいという事になった。またごはんも食べに来たい人は来てくれと決めた。

「そうだね、海の竜は枷がないから陸で遊んだりしてるよ。人のふりして街にすんでるのもいる。海は海で変な規則とかあって海の竜でも海を嫌ってる子もいるからね」

この時、シルバーは自分の結婚相手を思い浮かべていた。
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