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金と銀の玉の章

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 「グリーナーに会わせてくれ。…グリーナーの口からお前を愛してるってちゃんと聞いたらここは引く」

「一生手を引け。そうじゃないと会わせない」

デヴィッドはキースの執着の強さにげんなりし始めている。唐突にアーサーが言い出した。

「会わせて、はっきりさせるといい。私はグリーナーがデヴィッドを既に夫として決めているのを知ってる。会わせても絆される事はない。あの子は決めた事は守るし、やりたくない事は絶対にしない子だからな。デヴィッドと子供を作ったというのはそういう事だ」

デヴィッドは暫く考えてから母屋に向かう。

「グリーナーに聞いてくる」



暫くして、グリーナーはデヴィッドとオールとブラッドに付き添われて出てきた。

「お前、あのドワーフまでグリーナーと一緒に置いてたのかっ」

嫌悪感も露わにキースが吠える。横に立っていた王太子の渾身の蹴りがキースの太ももに入った。それと同時にグリーナーの声が飛ぶ。

「あのさ、キース、あんたのその考え方、大嫌いって何度も言ったよね?」

グリーナーが眉を顰める。

「エルフ以外認めない姿勢。現実的じゃないよ?エルフの血が入っていれば犯罪すら許す姿勢もね?」

グリーナーはキースにきっぱりという。

「もう私、人妻だし昔みたいに一緒に遊べないからね?前みたいに都度注意もしてあげられないよ」

キースは今までも傲岸不遜な態度もどこへやらグリーナーに切々と訴える。

「グリーナー、ずっとデヴィッドから逃げてたし、俺と一緒に居たじゃないか。デヴィッドの子、無理やり孕まされたんだろう?こいつの元にいるのは辛いだろう?俺の所に来るといい」

グリーナーは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。

「はい?いや、デヴィッドから逃げてたのも…一種の遊びとか駆け引きだったんだけど…」

グリーナーはちょっと目を明後日の方向へ向けている。グリーナーの父親アーサーは顰め面をして娘をにらんでいる。

「私、キースに『好き』とは言ったけど、愛してるとか結婚しようなんて言ったことないよね?」

とグリーナーはキースの目を見て言う。

「私の結婚相手はデヴィッドだし、子供つくる相手は愛する人と決めてたし。なんでキースの中でそんなことになってるの?そもそも貴方、奥様いらっしゃるでしょ?彼女、大事にしなさいよ、子供の時から貴方の事想ってた子なんだから」

とキースにとっての爆弾をいくつもいくつも投げ込んだ。

「ほんと、しゃんとしてよ。貴方がそんなだと部下にも示しつかないでしょ」

キースの気持ちは見事にから回っていた。そしてぶつぶつと

「イライジャが俺を?なんで?」

王太子はお手上げと言う風に上を向く。

「君は一度でもイライジャ妃の話を聞いたのか?年に3度、お前に会いに来ていたのを逃げ回って母上や父上の話も聞かず。イライジャ妃は全てのみこんで嫁いできてくれたのに。キース、お前が逃げ回ってる間、グリーナーとその姉妹はイライジャ妃の遊び相手や話し相手をしていたんだ」

王太子は溜息をつきながらキースに話し続ける。

「今の時点でアキラとブラッドを除くと皆、イライジャ妃の事を君以上に知ってる。彼女のおとなしげに見えて芯の通った性格も、話題が豊富で会話が上手な事も。が、彼女は君の愚痴すらこぼさずにいたよ。君のその考え方、『イライジャ妃は自分に宛がわれた女でどうするも自分の自由』というのはどこから来てるのか…。そもそも彼女の存在をそこまで軽く扱うということは同盟を軽んじてるという事になるが?」

王太子の言葉にキースは

「軽んじるとかそんな話じゃなくて」

「そういう話なんだよ、キース。…君は暫く教育を受けるべきだね。みっちりと」

デヴィッドは口を出さずに成り行きを見ていた。

「…殿下。王宮の座敷牢に入れる訳にもいけませんよね」

デヴィッドに言われ王太子が頷く。

「どうするのがいいかな。私の秘密の別荘だとイライジャ妃がキースに自由に会えないしな」

王太子は悩ましい、と呟いた。

「いいところがあります。私の姉の所に、エリス姉上の所で教育してもらいましょう」

オールの言葉にキースが目を見開いた。オールとデヴィッドの間に二人いる姉妹のうちの一人で、エリス自身はキースの教育係の一人で、エリスの夫はキースの剣術の師匠であった。キースが傲岸な態度を取らない、取れない夫婦だった。
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