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金と銀の玉の章

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 「エドガーには同じに見えるか?」

ヴァイキーが尋ねる。

「わかんないけど…勝手にいなくなるってのは同じ状況だなって思った」

「グリーナーはあの時点で俺に何か言うことはできた。そしたらあそこで足を止めてグリーナーの用事みたいなもんを終わらせるのを待つこともできたし、そこで一緒に行くか、自分の用事を優先するかを選ばせることもできた。けど、グリーナーは何も言わずに消えた」

ヨアヒムがヴァイキーの言葉を引き取った。

「アキラはレッドに言ってから動いてる。これは大きな差じゃないかな?」

「…なんかグリーナーが可愛そうで。仲間外れみたいな感じがしちゃって」

「あの子はお姫様気質だから『自分』が自由でいる事が当たり前すぎて、集団行動に向かないんだと思うよ」

ヨアヒムがそういうとエドガーは少し納得したようだった。ヨアヒムは続けた。

「飲み込めないならこのパーティ、クランを抜けてもいいと思うぞ。アキラは止めないと思う。それがエドガーの決定ならな」

「俺、役に立ってないし」

エドガーの小さな声を魔剣が拾った。

「ひひ、今はヴァイキーもヨアヒムも役に立ってないぜ。そこを気にするなら自分がどの分野で役に立てるか考えた方が建設的だ」

魔剣の言葉にエドガーはへこみヨアヒムとヴァイキーは苦笑いだった。

 すぐにアキラは戻ってきた。大きな雄鹿が湖のほとりで倒れてた、と。

「怪我してたから、消毒して傷薬塗ってきた。傷をみるだに大型の肉食獣がこの近所にいると思う。警戒は怠らずにいかないと」

「ここで肉食獣っぽいの見たのって…狼系くらいか」

ヴァイキーの言葉にみな頷いた。

「進んでる時になにかみたらすぐに声出してくれ。見間違いでもいいから」

皆、真剣な顔で頷く。エドガーもグリーナーの事でふにゃふにゃした気持ちに芯が入る。と同時にグリーナーに対するアキラの処置に対する気持ちが定まった。そうだ、これはただの物見遊山の冒険の旅じゃない。なまじ力があるが故にグリーナーにとっては物見遊山だったのだ。その差がアキラとグリーナーの感覚の差なのだ、とエドガーは悟った。
 グリーナーが優先したのは自分の『快』、アキラが優先したのは環境のチェック、でもあったのだ。そこでエドガーはグリーナーが外された、と理解した。もし同じ状況でも一言あればよかった、それだけなのにそれをグリーナーは怠った。それだけなのだ。

 「なんかすっきりした顔になったな」

魔剣がエドガーに話しかける。

「ああ、色々ね」

「少年は悩むのが仕事だぜ」

魔剣はわかったようなことを言う。ヴァイキーは呆れた笑いを浮かべている。



 レッドの先導で進んでいく。皆の目の端に若鹿と大きな雄鹿が見えている。夕闇が辺りを包み始める頃、均したての場所でキャンプを作り始めた。2匹の鹿めがけて遠いところから黒い影が近づいてくる。アキラが反応する。

「こいつか」

アキラの拳が今まさに鹿に襲い掛かろうとした黒いモンスターの長い犬歯の片方に綺麗にヒットした。太くて長い犬歯を殴り折られ大型のモンスターは轟音で吠えた。エドガーはその音に怯えたが、レッドと魔剣がげらげら笑い出す。

「牙ぶっ叩くって」

「叩き折ったぞ、あいつ」

と楽しそうな声だ。レッドは何を思ったか、若鹿と雄鹿を呼び寄せた。どうやったのか誰にもわからなかったが特殊な音域の口笛を吹いて呼び寄せたのだ。

「マリナ、こいつら守ってやって。雄鹿の方の傷、癒せるならそれも頼む」

マリナは言われるまでもないという風に頷いた。二匹の鹿はマリナの横で安心したようである。
 アキラと黒い猫系の大型モンスターの攻防は続いていた。

「あれはクロヒョウだな。モンスターのランクではB。C級だと6人以上のパーティが必要。アキラがだいぶん押してるな。革を傷つけたくないんだろうよ。ギルドに売ったら今回の遠征費くらいは出ると思う」

魔剣がエドガーに解説してくれる。この程度のことはエドガーと暗躍君以外は既に見えている情報であった。
 ややあってアキラがクロヒョウを肩に担いで帰ってきた。すかさずヴァイキーが魔剣を頸動脈あたりに突き刺す。クロヒョウは死んだふりをしてアキラへの反撃を狙っていたようだが魔剣が突き刺された瞬間にクロヒョウが起き上がったのだがそのまままた倒れこんだ。
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