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ルトガーの章

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 「ニーアさん帰ってこないね」

ルトガーが呟く。マルクは

「王都巡礼してないの知らなかったからな。ニーアもそのことを知らなかったらしい。冒険者をしてると護衛任務で関わる事もあるから知ってるんだけどもな」

「へぇ。そういうのもあるんだ」

「年に1回、ハイエルフの血を引く若いやつが集団で行くときにその近辺の冒険者ギルドが請け負ってるな、護衛。王都前の森を抜けるのは一苦労なんでこれはかなり高位の魔術師か神官がいないと受けれないんだよ。時空を歪める呪いがかかってるから」

アキラが炊いたコメを丸めている。夜食用に「オニキリ」とかいう物をつくってのかな、とルトガーは思った。

「ルトガーなら抜けられるかもな。呪いに反応するから」

 アキラがそういったのでルトガーは一つの案が浮かんだ。

「なぁ、俺のってかニーアさんの子供と孫がいるんだけど、その二人も王都巡礼必要なんだよな。このあたりにいるハイエルフの血筋で王都巡礼するやつ集めてそこに二人を入れるのって可能かな?」

アキラは暫く考えていたが、

「冒険者ギルドに声をかけておくか。そういう依頼があった時にその二人をその一団に入れる方が手っ取り早いと思う」

アキラの提案は現実的でもあった。



 ルトガーは早速父の店に相談に行った。

「アキラとも相談してたんですが」

と、王都巡礼の集団が出た時にジョンとカタリナを入れてもらうのはどうか、と

「父さんがその集団に護衛を雇う賃金を一部持つ、とかしていただけるなら…と都合いいことを言いに来たんですけど」

レドモンドエドモンドの父親が口をはさむ。

「次の巡礼は半年後ですね。カタリナさんとジョンさんの話を聞いて情報を集めてたところなんです」

「なら、護衛云々ではなく、普通に申し込めばいい?」

「でしょうね。この辺はジョンさんに話しておきます。今ニーアさんがそれをしてるというのを知ってますしね。………カタリナ嬢が集団生活に耐えられるか、っていう話は置いておいて」

レドモンドは今一番痛いところをぐっさりと突く。

「うーん、ジョンに任せるしかないのか」

ラルフルトガーの父親は溜息をつきつつ

「とりあえずは、第一段階、二人をそこに送り込むことにしよう」

「段階を踏むしかない事も多いですからね」

大人二人は溜息をつきながらそう決定したようだ。

「それと父さん、リボンとかハンカチの小物扱ってる部門に紹介したいやつがいるんだけど。シモン・エキュっていうアクセサリー店の息子なんだ」

父親が少し不思議そうな顔をする。

「ここから西にちょっと入った所のアクセサリー店だろ?偶に母親と取引してるが」

「彼自身の商売でリボンを結構使うんだ。卒業まであと1月だし、暫く小商いも停止させるから部門長のメディチェさんに紹介しておきたいなって」

「ああ、お前が仕入れて売ってるやつか」

「そう。彼、あの店でバレッタ作って売ってるんだ」

父親は何かを紙に書きつけた。

「これで紹介できるだろう」

紹介状を書いてくれたようだった。

「近い放課後にアポイントメント取って行ってくるよ」

と、立ち上がったルトガーを父親が引き留める。

「一つ聞いておきたいんだが、お前たち、エドガーもルトガーも『アカデミー』へ行くという選択肢はないんだな?」

ルトガーは即答する。

「今のところ、これ以上学校で学ぶ気はない。エドガーはわからない。今度、ここに来るように言っとく」

ラルフは頷いた。

「ああ、頼む」

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