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エドガーの章

02 ※

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 「おい、金貸せよ」
使用人の子供、ジスランが首に腕をかけて締め上げながら言う。他の奴が体の中心を狙って蹴りを入れてくる。
「痛っ」
声を上げたのは腹を狙った子供だった。エドガーはけり上げたその子供の足を下から思い切り蹴ったのだ。冒険者用の足先に鉄板を入れた靴で。
 このところエドガーは鍛錬のつもりで普段使う靴を重い鉄板入りの靴にしていた。最初は履いて歩くだけがやっとだった靴も今では意識せず歩けるようになっていたのでそろそろもう少し錘を増やそうかと考えていたところだった。
 蹴り上げられた子供はうずくまって泣いていた。
「お前何した」
ジスランはエドガーの首を本気で締め上げる。腕ではなく両手で。エドガーより頭一つ大きなジスランは首を絞めたまま体重をかけてきていた。こいつに殺されるのか、とエドガーは頭の隅で考えた。そして、反射的にその目を狙い指を突き出した。
「ぐあっ」
まともに指は目に刺さる事はなかったが衝撃はあったようでジスランは顔を覆った。周りの子供たちはジスランの行動におびえて逃げていた。エドガーは息を思い切り吸うと顔を覆ったジスランに思い切り頭突きを入れる。ぐらついたジスランをエドガーは着き飛ばす。少しできた距離を好機と思いそのまま大通りに出る。

 ジスランが追っかけてこないうちに一番近場にある冒険者ギルドの入口から中に入り込んだ。そのままギルドの鍛錬場まで入っていった。ここまでジスランは自分を追っかけてこれない事を知っていたからだ。鍛錬場に入るにはギルドの登録カードが必要であったし、こういう施設がある事をジスランは知らないからだった。
 鍛錬場に入ると顔なじみの職員が驚いていた。
「ちょ、エド、その首」
と言われ返事をしようとしたが掠れた声しか出ない。
「あ、…あ、う……ん」
「誰だ?通り魔か?強盗か?」
職員が怖い声になっている。冒険者として街の治安維持の一部を担っている冒険者ギルドとして見逃せないからだ。
「ちが…、た、だの………カツアゲ?」
女性職員が声をかけてきた。顔なじみの職員フレデリクの双子の姉のフレデリカだった。
「薬湯用意した。はちみつ入りで治癒魔法もかかってるから」
渡されたモノをエドガーは素直に飲む。熱い薬湯だがはちみつの甘味が喉に染み入る。暫く喉の上に薬湯を置くようにしてから飲み込む。昼ごはんの弁当もジスランに取り上げられたのでお腹が空いていたのを体が思い出したらしくなかなか賑やかに音を立てた。
「腹減ってるのか?食堂に行く金はあるか?」
「あるよ」
まだ声変わりしていないいつもの明るいエドガーの声に戻った。エドガーは稼いだ報奨金の9割をギルドにプールしていた。理由は手元に持っていてもジスラン達に取り上げられるし自宅に置いていたら、姉たちが勝手に持って行って自分の小遣いにしてしまうからだ。

 冒険者を始めて最初の一か月でそれを学習したのでエドガーはできるだけ報奨金を持って帰らないようにしたのだ。といっても、1割は手元に置くようにした。理由は必要な経費も母親が出さなくなっていたからだった。兄はそれを知っていたので自分の小遣いの半分を渡そうとしてくるが、それがバレたら母親の折檻がはじまるので理由を話してそれを止めてもらった。
 それに1割でも子供の小遣いとしては十分で、毎日帰りに屋台で買い食いし、帰宅後のおやつまで確保して帰れる。母親は父親がいないとエドガーの夕食を用意しない。いないものとして扱っているからだ。父親の番頭の息子のエドモンドはそのあたりがわかっていて、多少遅くなるが彼自身が作った夕飯をエドガーに持ってくる。まだ、商会の中でも地位が低い、若いエドモンドだったがエドガーやルトガーを可愛がってくれている。
 エドガーが受け取らなかったルトガーの小遣いの半分はエドガーの食費になっていたがルトガーもエドモンドもそれはエドガーに内緒にしていた。
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